December 09, 2024

賃上げを宣言し、やり方を変え、生産性を大きく高めた国内ユニクロ事業

Takasaito2か月前になりますが、ユニクロを展開するファーストリテイリングが
2024年度8月期の決算を発表しました。

この決算の内容を
WWDJAPAN12月9日号の連載記事「ファッション業界のミカタ」で
徹底分析をさせて頂きました。

年商3兆円、営業利益は5000億円超えと過去最高。

グローバル化が進む同社の中で、
今回、最も僕の目を引いたのは

中国でもない、欧米でもない

ズバリ国内ユニクロ事業の躍進でした。

というのは

2010年8月期のヒートテックブーム時に記録して
これまで超えることができなかった
過去最高益を14年ぶりに更新したからです。

その理由を紐解くと、いくつかの
環境の変化にうまく対応したユニクロの強さが見えてきます。

まず
売り上げの伸びについては
店舗のスクラップ&ビルドを繰り返し
1店舗あたりの売上高を高めていること

Eコマースを強化して、店舗以外の売り上げを増やしていること

そして、それに上乗せするように

インバウンド需要(免税売上高)が
国内ユニクロ事業の売り上げ構成比の8%を占めるようになったこと

が挙げられます。

次に

粗利に関しては

高騰する原価に対して、
値上げは最小限にとどめ、

価格をリーズナブルに抑えながら
値下げ幅をうまくコントロールすることで

粗利率を下げないどころか
微増に維持することができています。

そして、最大のサプライズは

地球温暖化の影響から長くなった夏シーズンに

強くなったことです。

以前は

日本の多くのアパレル企業よろしく
秋冬で儲けて
夏で利益を擦ってしまうのが

国内ユニクロ事業のクセでした。

同社の夏シーズンにあたる

第4四半期の営業利益率は
過去に赤字だった年もあるくらい
3%程度の一桁台が当たり前の

最も儲からない時期だったのに対し

24年8月期は、なんと、13%も稼いでいます。

冬の第2四半期よりも利益率が高いんです。

 

なぜこんなことができたのでしょうか。

 

ひとつは、

かつて夏物の残在庫は、たたき売りだった体質を
海外と在庫を融通し合うことで
しっかり在庫を持ちながら
あまり値下げをしないで済むようになったこと。

これで売り逃しを減らしながら、
粗利率が維持されます。

もうひとつは

これが今回の本題につながる話ですが

一人あたりの売上高
つまり生産性を高める一方で

スタッフ一人が
広い売り場面積を管理できるようにすることで

人員配置を減らして、
人件費総額を絞ることができるようになったことです。

2022年8月期の従業員一人あたりの売上高は
約29百万円 

これでも業界内高水準です。

1月に賃上げ宣言をした
2023年8月期は
約34百万円

それが
2024年8月期には
約38百万円と

31%も上がっているのです。

粗利率も
この間1.8%アップですから
人件費の原資である

一人あたりの粗利高は
35%も上がっていることになります。

これは理論的には
35%まで賃上げしても
会社の損益構造は悪化しないことを意味します。

ではなぜ、ここまで生産性を高めることができたのでしょうか。

それは
同社なりのDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

一番大きいのはセルフレジの導入でしょう。

これにより、1店舗あたり30人必要だった定員は
25~26人で済むようになりました。

そして一人あたりの売り場面積(守備範囲)は
10坪から12坪に広がります。

次にEコマース売り上げの拡大です。

同社のEC倉庫は、ほぼ完全自動化されており
店舗受け取りが半数近くを占めています。

ここにかかる人手は
店舗販売に比べて、かなり少ないのです。

これらのデジタルシフトは
同時に店舗業務を今までとは変えるマニュアルの見直しなくしては
実現できなかったでしょう。

2023年1月に賃上げを宣言して、

2024年度8月期には
実行できる生産性水準に高めた
ユニクロ恐るべし。

賃上げは、こんな風にやるんだよ、

というのを見せつけられた決算でした。

では、

・セルフレジを導入する資金もない

・Eコマースの自動倉庫も使えない

・インバウンド需要の恩恵もない

そんな企業が生産性を高めるために

できることは何でしょうか?

 

僕が考える賃上げの最短距離は

仕入れた在庫のプロパー消化額と
黒字販売額を増やし粗利高を最大限に高めて

まずは決算賞与を支給することです。

これに自信がついて、
チームでシーズン在庫を売り切る力を身に付け

社風となり習慣づけば、
ベースアップしても問題なくなるはずです。

くれぐれも

粗利額を増やすために
品質は変わらないのに値上げをしたり

値入れを良くするために品質を落とすことだけは

客離れと値下げが増えるだけで、逆行するので
避けていただきたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

※AIで各拠点、全SKUの在庫の過不足を最適化
イスラエルで生まれ、日本で磨きをかけ続けている
onebeatの成功事例記事をお読みになりたい方はこちらに登録して
配信されたメルマガからダウンロードしてください。

https://17auto.biz/dwks/registp/entryform22.htm

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November 18, 2024

WWDJAPAN 11月18日号DX特集、AI がもうけをつくる先進企業事例の記事が掲載されました。

Wwd20241118WWDJAPAN 11月18日号DX特集で、イスラエルで開発された、チェーンストア向けAI在庫マネジメントソフトウエアonebeatを導入した、アイジーエー(本社東京銀座)さんの成果事例について、導入を決めた五十嵐社長と導入をお手伝いしたブログ筆者の齊藤孝浩(タカサイトウ)が聞き手役として対談をさせて頂いた際の記事が掲載されました。

onebeat は多拠点に広がる、膨大なSKUの在庫を各所で過不足ないようにAIで制御するソフトウェアです。

同社では導入から半年で

投資金額の3倍以上を回収し、

仕入れを1割抑え、

店舗の在庫水準を2割減らし、

店舗作業を軽減しながら、

欠品を大幅に減らし、プロパー消化率を高め、

キャッシュフローを増やし続けています。

記事の本文をお読みになりたい方は、リンクのフォームからメルマガ登録をして頂ければ、

記事全文をお読み頂けるPDFをダウンロード頂けます。

https://17auto.biz/dwks/registp/entryform22.htm

DXやAIを導入する事が目的になってしまっている昨今、

人とAIがどう共存しながら、顧客満足度を高め、利益を増やすのか、

そのわかりやすい事例に触れて頂ければと思います。

 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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May 20, 2024

世界アパレル専門店売上高ランキング2023 トップ10

20230511_200456世界的なパンデミックの影響が、中国を除きほぼ解消した2023年度。

事業をリストラしただけなのか、時代にあわせて会社を変えたかの違いで、

その後の伸び率の違いが明らかです。

世界の大手アパレル専門店各社の決算が出揃いましたので、毎年恒例の売上高ランキングTOP10を共有させていただきますね。


 円建て比較にあたり、為替レートは2024年1月末の €=159.5円、スウェーデンクローナ=14.17円、US$=147.5円、英国£=187.3円で換算しています。 

順位 社名 本社;決算期 売上高 前年比増減 営業利益 営業利益率 期末店舗数 基幹業態
1位 インディテックス (西;2024.1期) 5兆7,360億円 +10.4% 1兆865億円 18.9% 5,692 ZARA
2位 H&M (瑞;2023.11期) 3兆3,446億円 +5.6% 2,059億円 6.2% 4,369 H&M
3位 ファーストリテイリング (日;2023.8期) 2兆7,665億円 +20.2% 3,810億円 13.8% 3,578 UNIQLO
4位 GAP (米;2024.1期) 2兆1,968億円 -4.7% 826億円 3.8% 3,560 OLD NAVY
5位 プライマーク (愛;2023.9期) 1兆6,874億円 +17.0% 1,376億円 8.2% 432 Primark
6位 ルルレモン・アスレティカ (加;2024.1期) 1兆2,49億円 +18.6% 2,781億円 22.2% 711 lululemon
7位 NEXT (英;2024.1期) 1兆943億円 +5.9% 1,850億円 16.9% 458 NEXT
8位 ヴィクトリアズシークレット (米;2024.1期) 9,121億円 -2.6% 482億円 5.3% 831 Victoria’s Secret
9位 アメリカンイーグル (米;2024.1期) 7,762億円 +5.4% 327億円 4.2% 1,182 AEO、Aerie
10位 しまむら (米;2024.2期) 6,350億円 +3.1% 553億円 8.7% 2,227 しまむら

※お断りですが、大手企業の中で、アメリカのTJXやROSSのようなオフプライス・ストアはブランド企業の余剰在庫の買取販売が中心ということで、除外させて頂きました。
また、非公開企業で欧州大手アパレルチェーンのC&Aはトップ10規模、中国産地からの越境ECのみでアメリカ、中東など世界中に売り込み、急速に拡大を続けるファストファッション企業、SHEIN(シーイン)は既にインディテックスと同規模と思われますが、それぞれ、正確な売上高がつかめなかったため、除外しております。 

【解説】

順位は前年と変わりませんが、円安の影響もあり日本円換算で1兆円プレイヤーが7社に増えました。

ZARA
のインディテックスグループとルルレモンの絶好調が続き、
H&M
とファーストリテイリング(ユニクロ)とプライマークはパンデミックから回復し
アメリカ勢は引き続き苦戦が続いています。

1
位のインディテックス(ZARA)は全地域、全ブランド全販路(店舗、オンライン)で増収増益。

それを支えるのが顧客のニーズにあわせてオンラインと店舗のどちらからでも商品が提供できる

オムニチャネル体制と市場の需要にあわせて近隣国で作り足して届ける需要連動生産の両輪です。

同社の完成度は他社の追随を許さず粗利率は高まり、在庫回転率も向上し続けています。
さらに柔軟性をもたすための物流投資とチームビルディングにも力を入れています。

3位のファストリのユニクロ事業はいよいよ海外ユニクロ事業の営業利益が国内のそれを超えました。
秋に儲け、夏に利益を擦ってしまう体質だった国内ユニクロ事業の
夏の四半期(68月期)の収益性が高まっているのがわかります。

これは気温差のある多国間で在庫調整ができるグローバル企業へと完全脱皮したことの証のひとつです。

絶好調のルルレモンはアメリカはもちろん中国やその他の地域で大きく売り上げを伸ばしています。
世界的に伸びしろの大きいフィットネス需要を確実にとらえ

フィットネスコンテンツ制作の大手ともがっちり業務提携をして
顧客への価値提供に厚みをもたせ続けています。

イギリスのネクストは自社のインフラを他社に提供するプラットフォーム事業が軌道に乗り
同事業だけでグループ全体の営業利益の8%相当を稼ぐほどのプロフィットセンターになりました。
イギリス国内だけでなく越境ECのリードタイム短縮のために物流投資に力を入れています。

優勝劣敗が鮮明なグローバルトップ10企業。

人件費の安い国で作って照準を定めた経済大国のマーケットシェアを獲得するという
そんな従来型の手法は通用しなくなってきているのではないでしょうか?

SHEINなど中国産直越境ECが台頭する中で
10
年前と比べて、勝ち筋は明らかに変わっています。

国外でも、大手でもその取り組みに見習うべきことはいろいろあります。
自社のために、また、クライアント先のために応用して活かせるヒントを探しましょう。

昨年のランキングはこちら- 世界アパレル専門店売上ランキング2022 トップ10

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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December 18, 2023

アマゾンも臨戦態勢、中国発産直越境EC対策で衣料品の手数料下げ

Dsc0907112月12日の日経新聞によれば、アマゾンは、中国系EC、特にSHEINに対抗するために米国で衣料品の手数料を大幅に下げる戦略を打ち出したとのこと。

アマゾン、米で衣料手数料下げ 中国系ECに対抗

2024年1月から、15ドル未満の衣料品の手数料を17%から5%へ、15ドル~20ドルの商品は10%へと削減するようです。

これは、中国の中小縫製工場を利用し、低価格で大量の新製品を出すSHEINのような企業への対策として注目です。

SHEINは、安価で多様な商品を提供し、11月に米国でのIPOを申請した模様。これに対し、アマゾンは衣料品で米EC市場の約4割を占めているものの、SHEINの成長に脅威を感じていることがわかります。また、今後、EC機能の強化を図るTikTokとの国内競争も激化することでしょう。

コロナ禍を機に世界で急成長を果たしたShein(シーイン)、それを追うTemu(ティーム―)、景気が回復しない国内市場から越境での海外向けに商品を販売したい中国製造業は、今後、ますます増えることでしょう。

これはアメリカだけに起こっている話ではありませんね。

日本の小売市場においても、このような海外で起こり始めている動向の中には

今後の大きな変化の予兆として、重要な示唆があるため見逃してはいけません。

特にオンラインの場合は、オフラインと違って、気づかないうちにそうなっていた、

ということにもなりかねませんからね。

対岸の火事と思わずに、自分ごととして、動向に注目したいものです。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【アパレル企業のビジネスモデルが丸わかり】

「図解 アパレルゲームチェンジャー

 ~流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル」(日経BP社)

第2章ではSHEIN(シーイン)のビジネスモデルを

従来のグローバルアパレルチェーンの成長の方程式と比べることで

浮き彫りにしてみました。

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December 11, 2023

ラグジュアリーのリレーユースを促進するコメ兵のビジネスモデル

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WWDJAPANに月1イチ連載中の「ファッション業界のミカタ」
本日(12月12日)発売号ではラグジュアリーのリユースを促進するコメ兵を取り上げました。

同社の決算書を読むのは初めてだったのですが、面白いなと思ったことがいくつもありました。

ひとつは
一般消費者向け小売(toC)よりも、オークションを含めた卸売り(toB)の売上構成比の方が高いこと。

次に
中古ビジネスなので粗利率は高いのかと思いきや、26%と低粗利率であること。
しかし、単価が高いので粗利率は低くても粗利額は大きくなります。

そして
在庫日数90日台、つまり、約4回転も回しているという、意外な在庫回転率の高さです。

中古だからこそ、買取も大事だけれど、
一定のスピードで在庫を回さなければ、鮮度とキャッシュフローを維持できない。
そのため、卸で低粗利率でも在庫を強制回転させているということ。

同社の最大の強みであり、ボトルネック(希少リソース)は
買い取り商品の真贋判定や流通を左右する
商品センターです。

コロナ禍で人々が持ち物を見直したあたりから急激にGMVや売上高が増えています。

クオリティのよい中古品が流通する日本に目をつける、海外のユーザーが増えているのも
それを手伝っていると思います。

この希少リソースのノウハウをAIを活用しながら拡張することで、海外市場を開拓することも楽しみな会社です。

こちらの記事はオンラインでもお読み頂けますので、
ご興味を持たれたら、どうぞお読みください。

https://www.wwdjapan.com/articles/1703187

WWDJAPANの定期購読者は無料で
そうでない方でも、記事単位でご購入いただいて
お読みいただくことが可能です。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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