July 19, 2021

「デジタルとリアルの融合」は手段を目的にせず、まずは、顧客のストレスを特定し、それを解消することから考えよ

20200714_1508107月16日日経MJに、「私のマーケティング論」という見出しで、ナイキ、アウディ、グーグルなどのデジタル戦略やクリエイティブを手掛け、ユニクロのスタイルヒント原宿店の指揮を執った I&CO共同創業者でクリエイティブディレクターである、レイ・イナモト氏のインタビュー記事が掲載されており、大変興味深く読ませていただきました。

「スタイルヒント」の開発背景について聞かれ、同氏は、

(以下引用)

「出発点はアプリの開発。買いたい服の情報を調べようとしてもグーグルなど特定のサイトはなく、(顧客が)自分でキュレーションする必要がありました。ならば服の検索エンジンをつくろうと思ったのです。皆が写真を投稿すると服が情報になり、さらに共有するとプラットフォームになる。」 

(以上「  」内記事の同氏の発言からの引用)

ファッション企業各社が「単品」を売ろうと発信している通販サイトはあっても、用途、着こなしかた(コーディネート)のアイデアを企業目線ではなく、顧客目線で集大成するには、ワンブランドではなく、ブランドミックスで消費する顧客投稿型のSNSのデータベース発想には敵いません。

服のコーディネートに関する、その発想の先駆者は、日本においてはZOZOが提供する「WEAR」だと思いますが、1000万件以上のコーディネートがアップされているWEAR上でもコーディネートに使われる、登場件数が断トツ1位で、一方、ZOZOTOWNで販売されていない「ユニクロ」が自らユーザー投稿型データベース型アプリの開発に行きついたのは至極自然な流れだったと思います。ユニクロのミッションは、どんなトレンドファッションに合うベーシックですからね。

続いて、今、が躍起になっている、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「デジタルとリアルの融合」というキーワードについて、

(以下引用)

「よくデジタルとリアルの融合に取り組むと聞きますが、僕には融合との発想が全くありません。
消費者がどこにストレスを感じ、その摩擦をどう減らすのかを常に考えています。
たとえば米国のウーバーはタクシーを呼んでも来ないというストレスをなくそうという発想から生まれました。
リアルとデジタルの融合はその結果に過ぎません。形式に取らわれず、常に本質を見る必要があります」

(以上「  」内 記事からの同氏の発言を引用)

この部分は強く共感しました。

その理由は、筆者が、日本のファッション流通が本格的にオムニチャネル時代に入ることを視野に入れて、2018年に「アパレル・サバイバル」の取材も兼ねて訪れたアメリカ西海岸、LA、シアトル、ポートランドでのこと。

当地で、流通各社の先進的なDX事例を実体験しながら、
筆者が共通点として感じたことは、まさしく同氏が語っていることだったからです。

amazon goではコンビニにおける顧客のストレスを

amazon booksでは書店における顧客のストレスを、

ナイキは シューズ購入の際に誰もがかかえる顧客のストレスを、

ウォルマートは・・・

ZARAは・・・

それぞれの企業が先進的に行っていたことは、

〇ショッピングのプロセスにおいて、顧客のストレスがどんなところにあるかがわかっていて、

〇それをどう解決すれば顧客が喜ぶかの「理想的なビジョン(シーン)」を描いた上で・・・

〇そのストレス解消にあたり、顧客が持つスマホ内の自社アプリを活用することが最適と考え、

〇リアルにおける新しい顧客体験をデジタルを活用して実現した

わけです。

それは、まさしく、イナモト氏が言うように、顧客のストレスの解消が目的であり、
「デジタルとリアルの融合」という言葉はその手段や結果でしかなかったのです。

(上記 アメリカでの事例の詳細は是非、拙著「アパレル・サバイバル」をお読みください)

日本では、デジタル化という手段が先にあって最新技術に飛びついたり、
企業の業務効率の都合でデジタル化が図られ、そのしわ寄せとして、顧客に面倒を強いることが多いようですが・・・

欧米では、逆に、顧客のショッピングのストレスを特定し、それをデジタルで解消すると同時に
企業の業務効率も考える、という流れが多いように感じるのは、筆者だけでしょうか?

デジタル化が進まずに焦る前に・・・

まずは、目の前のお客様のストレスを特定し、それをどうしたら、デジタルで解決できるかを考えたいものです。

よく、資金がないから、デジタル化が図れない、と言われますが・・・

本当に必要なのは、お金ではなく・・・
顧客のストレスを解消し、理想のお買い物を体験してもらいたい、というビジョンを描けるかどうか、の顧客への愛と創造力に他なりません。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 DXに欠かせないのは、顧客の理想の体験を描く創造力。ファッション流通の歴史、欧米の視察体験から学んだ、日本のファッション流通の未来を本書を通じて垣間見てください。

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July 12, 2021

企業決算書からヒントを得るためのコツ~まずは自社の課題の特定から始めよう

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先週の金曜日、WWDJAPANに月イチ連載中の上場ファッション流通企業の決算書から業界の動向や業務のヒントを読み解く「ファッション業界のミカタ」のオンライン連続セミナー(全4回)が終了しました。

第1回 世界アパレルチェーン売上トップ10企業の最新動向から学ぶこと

第2回 ZARAのインディテックスの最新決算から学ぶ、アパレルチェーンが向かうべきビジョン

第3回 ユニクロ(ファーストリテイリング)世界一への道と課題克服へのチャレンジ

第4回 ZOZO の決算データに見る、ファッションEC ビジネスの損益と未来

おかげ様で、各回定員いっぱいの方々に視聴頂き、感謝を申し上げます。

時折、公開企業の決算書のどんなところを見ればよいのですか?とご質問を頂きますが、

もちろん、読む方が投資家なのか、実務にかかわっている方なのか、によって見るポイントは当然、変わって来ます。

筆者の場合、小売経営に携わっていたことから始まり、その後、コンサルとして、企業向けに業務改善のアドバイスをする立場なので、読む対象となる企業の決算の良し悪しを評価するというより、

その企業さんがどのようなビジネスモデルを確立し、継続的に儲けている秘訣は何なのか?

特に、強みとする経営効率のヒントを読み取ることにしています。

その際、大事なのは・・・

まずは、自社あるいは、クライアント企業の課題の中から、

今回、改善のヒントを得たい項目を具体的に絞り込んで、特定することです。

・営業利益を高めるためには?

・当社の販売効率や生産性は改善余地があるのか?

・在庫日数はどれくらいで回すべきなのか?

などなど

つまり、

・他人事ではなく、自分事にすること

そして、あれもこれもではなく

・今回、好奇心をもって、知りたい、解決のヒントを得たい特定の項目にアンテナを立てること

です。

最初にそれを行った上で始めるか、どうかで、得られるものは全く違うものになって来ます。

そして、

その課題について、上手くやっていると言われる上場企業を特定して、その企業のIRページを訪れます。

一般的に決算関連資料は有価証券報告書、決算短信、決算説明会資料などがありますが、

その他にあるDataBookやFactBookや決算概要などにその企業が長年大切にしている経営効率が載っているケースが多いので要チェックです。

小売業であれば、

●販売効率 1店舗あたりの売上高、売場面積、面積あたりの売上高

●生産性 従業員一人当たりの売上高、人時売上高

●在庫効率(在庫日数、在庫回転率) など

経営の最小単位で比べると、

同業他社との比較もしやすくなるものです。

また、ズバリの数字は載っていなくても、
それぞれ別の場所に掲載されている数字どうしを割り算をすることによってわかる時もあります。

そして、それらを時系列で並べることで、その会社の企業努力も見て取れます。

 

実は、このアプローチって、店舗視察を行う場合も同様だと思っています。

店頭VMDはいつ変更しているのか?

混雑時のレジ対応は?

アイドルタイムをどう使っているのか?などなど

自社のオペレーション上の課題を具体的に特定した上で、

あの企業は、その課題にいったい、どう対処しているのか?と関心を持つことから始まります。

自身の頭の中に、そんなアンテナが立っているのかいないのか?で

ヒントの吸収力は数倍も変わってくることは皆さんも経験したことがあるはずです。

公開企業の決算書も店舗もビジネスの活きた教科書です。

情報の宝庫から、学び、未来を切り開きましょう。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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May 10, 2021

足し算だけでなく、引き算をする勇気

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5月9日の日経新聞のサイエンス面に「現代人は『引き算』が苦手」という見出しで、米バージニア大学のチームが英科学誌ネイチャーに発表した「人間は引き算の決断が苦手で、足し算にこだわる」とする説を紹介する記事が掲載されており、興味深く読ませて頂きました。

要は、
チームがいくつかの実験で、調査対象者に、問題解決のためのいろいろな問いかけをしたところ、
多くの人が、「引く(減らす)」ことよりも「追加(増やす)」するで物事を解決する傾向があることに気づいた、という話です。

本文で紹介されていた例をいくつか抜粋して紹介させていただくと、

〇エッセーを改善するように頼まれると、多くの人は文章を長くした

〇レシピを改善するように言われると、人々は多くの材料を投入した

〇旅程を整えれるように頼まれると、多くの人は立ち寄る場所を追加した

など、足し算をする(増やす)行動をとる人が多かったとのこと。

一方、別の質問で、

改善にあたり、追加することも取り除くこともOKであることを伝えると
引き算のアイデアが増えたそうです。

記事の後半では、専門家の方々が

「引き算の発想があっても、引く決断は葛藤を生む」
「引き算は過去の労力が無駄になる負い目もある。」

ことを指摘しながら、

ウォークマンやiPhoneの例を挙げて
「勇気をもって引き算を」と推奨する一方、

「注意すべきは大切なものを引き去らないことだ。重要な何かを見極められたら引き算もしやすいが、それができないから苦労する。」

と結んでいます。

社長さんや上司に「改善しろ」、と言われると、
多くの人が、今のままでは物足りないのでは?と忖度し、

どうしても、選択肢や仕事を増やすこと=足し算中心に考えてしまうのは、
企業現場でもよくある話ではないでしょうか?

この話を、日頃、業務改善に当たる仕事の現場で感じていることに照らし合わせて
考えてみたいと思います。

1)在庫の中身の改善

在庫は金額や数量ではなく、中身(鮮度)が大事な時代。
多くの現場では、
過去から現在の売れ筋商品の仕入を増やそうと考えがちですが(足し算)、
同時に、期限までに売り切れない死に筋商品を換金して(引き算)、
未来に売れる、鮮度のよい在庫の中身に入れ替えるアクションが大事。 

2)利益体質づくり

販促費の手を尽くして、伸びしろがあり、純増となる、新販路であるECの売上増に躍起ですが(足し算)、 
その一方で、既存店の利益額が増える方策や不採算店舗を整理するなど、
引き算による利益体質づくりが求められています。

3)未来への投資のための現預金増

先行き不透明なご時勢に、借入を増やして、しばらくの運転資金は確保されたと思いますが(足し算)
在庫や資産などお金に換わるもの(埋蔵金)を換金(引き算)、回転させて、現預金を増やしたい時です。
増えた現預金は、未来に利益を稼ぐ新鮮な商品仕入や生産性向上のためのソフトウエア投資に使いたいです。

4)無駄な仕事をなくして生産性向上

人員減らして(リストラ)1人あたりの仕事を増やす(足し算)ようなことが行われていますが、
人件費は下がっても、生産性は上がらず、モチベーションが下がるばかり。
業務棚卸で無駄な仕事を見つけて、勇気をもって止めて(引き算)、利益向上のために優先度の高い仕事に集中させる環境をつくり、1人あたりの生産性(利益)を増やしたいところです。  

などなど、アイデア出ししていると、いろいろ出て来そうです。

是非、皆さんも、足し算だけでなく、引き算も選択肢に入れて、
身の回りの仕事を見直してみてはいかがでしょうか?

右肩上がりでない市況においては、引き算が利益確保の決め手になることも少なくないと思っています。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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February 22, 2021

メルカリ、ペイペイフリマ、フリマアプリの1次流通通販(EC)とのデータ連携

Closet

2月17日の日経MJにフリマアプリ大手のメルカリが、アパレル専門店大手アダストリア社他、8つのECサイトと連携し、ユーザーがECサイトで購入した新品商品が着用後に不要になった場合、手軽にメルカリに出品できるサービスを拡げて行くことに関する記事が掲載されていました。

記事によれば、20年春から始まったメルカリの提携先は・・・

アパレルECの「ショップリスト」、家電の「プレモア」、雑貨の「イデアオンライン」、今回発表したアパレル大手アダストリアの総合 ECサイト「.st(ドットエスティ)」など8社。

提携先は、今のところ、すべて、メルペイでの決済を行っているサイトのようで、

購入ユーザーがそれぞれのECサイトでメルペイで決済した商品が、メルカリのユーザーのアプリ内のマイページの中にある、「持ち物一覧」に自動で取り込まれ・・・

ユーザーが将来、その商品が不要になり、メルカリで売却したい、と思った場合、

その商品がメルカリで取引されている相場価格を元に推奨価格が表示されたり、出品の際に必要な、商品カテゴリーや商品紹介が自動表示されてユーザーの出品の手間が簡素化されるというものです。

今後、提携先とは、メルペイで決済していない場合(クレジットカードなど)も同様のサービスを提供する方向で話を進めているとのこと。

そうなると、いずれは、メルペイ決済を前提としない、多くのEC購入商品がメルカリに出品しやすくなるかも知れません。

同記事では、メルカリのライバルとなるペイペイフリマでも、ヤフーショッピング、ペイペイモール、ZOZOTOWNと同様の連携を進めていることも紹介されており、

フリマアプリ大手が

売ること(出口)を考えて、新しい商品を購入する(入口)購買行動

という、リユースショップやフリマアプリを賢く活用する、ユーザーから始まった新しい購買行動の促進を後押ししていることがわかります。

ファストファッションの市場浸透後、コロナショックによる巣ごもりの後押しもあり、
溢れ始めた自分のクローゼットの服を見直す機会が増えたエンドユーザー

流通企業が、エンドユーザーの「クローゼットのワードローブの循環」をどう手伝うか

が新品を販売する企業も避けて通れない、生き残りのカギになるであろうことを

拙著「アパレル・サバイバル」の後半部分で結構なページを割いて問題提起をさせていただきました。

一次流通企業にとっては、

大手であれば、これから、不要品回収から始まるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みが、進むことでしょう。

一方、大手ほど資金力、組織力がない中小企業にとっては、

自身の体力内で回収、リサイクル、リメイク、アップサイクル(染め直しも含む)をすることもできるでしょうし・・・

フリマアプリなど、第三者的なデジタル企業と組んで、ユーザーが不要になった商品を、それを求める他の人に届けるための手伝いをすることもできるでしょう。 

ある意味、それも、サーキュラーエコノミーへの取り組みの一環かと思います。

過剰生産、過剰供給を見直しするだけでなく、

お客様のクローゼットを健全にメンテ、循環させることをお手伝いしながら、

顧客の既存のワードローブと相性のよい、今シーズン風の新しい服をご提案する。

それが、これから求められるファッション流通企業の姿のひとつだと思っています。

それを牽引するのは、従来のファッション企業自身なのか、
それとも、未来から逆算するテクノロジー企業なのか?

今回のメルカリやペイペイフリマの取り組みは、そんな未来図に向かうはじめの一歩のように感じられます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギは、服のライフサイクルを意識し、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環をお手伝いすること。大量生産、過剰供給時代を超えて、新しい時代の関係構築がテーマです。

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January 25, 2021

ユニクロアプリのウォレット機能UNIQLO Pay実装と同社が目指すゴール

Uq1月19日からユニクロアプリ内に決済機能であるUNIQLO Payを実装しました。

プレスリリース ユニクロアプリにウォレット機能「UNIQLO Pay」が登場

メディアでは、PayPayやメルぺイなどと比較する記事もありましたが、
あくまでも、同社内での決済が目的のようです。

3,000万ダウンロードという日本の小売りでも最大級のダウンロード数を誇るアプリのひとつ。

顧客は、クレジットカードまたは銀行口座(現段階では一部の銀行に限られます)を紐つければ、店舗での決済の際に、アプリを開けば、QRコードを提示するだけでキャッシュレス決済ができるというもの。

これまでは、ポイントをつけるために、アプリを提示し、決済や現金やクレジットカードやその他の決済手段が使われていましたが、

顧客はUNIQLO Payを提示すれば、財布を出さずに済む。というわけです。

ユニクロとGUはここ数年で、レジのセルフレジ化を進め、混雑時以外の人件費を大幅に軽減して、販管費を下げ、営業利益率を高めて来ました。

その間、顧客にお会計の作業ストレスを強いて来たわけですが、これからUNIQLO Payを推奨することで、財布を出す作業がひとつ軽減されることになるわけです。

また、企業側のメリットを想像すると、短期的に言えば、銀行口座紐付けが増えれば、クレジットカード手数料やその他決済手段の決済手数料が軽減され、

利用者が増えれば、顧客データを取得しやすくなり、中期的には、その分析から、品揃えやサービスやオンライン経由の顧客セグメント提案の改善につながるでしょう。

実は、この小売業のアプリの決済機能の実装ですが、日本では、まだ対応していませんが、ZARAのインディテックス社が自社開発したアプリの中にIn Walletという機能を実装し、先行しています。ヨーロッパの一部の国では、数年前から利用できるようになっています(紐つけはクレジットカードのみ)。

ZARAの目的は、レジでの決済の効率化(顧客、スタッフ双方の会計作業軽減)、店舗で買っても、オンラインで買っても、同じアプリの中に電子レシートが生成され、レシート発行不要にできる(ペーパレス)と共に、双方の購買履歴が残ることから、オン・オフどちらで買っても、どちらでも返品できる顧客の利便性です。ちなみにZARAのアプリにはポイント付与はありません。

ユニクロはそんなZARAの先行事例を参考にしたのか、業務提携しているGoogle Payを展開するGoogleのアドバイスなのかはわかりませんが、いずれにせよ、日本のファッション小売業の中ではユニクロは先行組と言えますね。

現在は、ファーストリテイリンググループ内での決済しか想定していないようですが、ゆくゆくは、もちろん、Amazon Pay Google Pay のように、社外でも使えるようにすれば、プラットフォーマーとして、決済手数料を稼せぐ、金融事業が成り立つかも知れません。

これからのライバルは小売業ではなく、GAFAだとおっしゃった柳井会長の言葉が思い出されます。

関連エントリーー世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARAの共通点とアプローチの違いを体系的にまとめ、多くのファッション専門店のブランディング、マーケティング、商品開発、販売戦略、ひいては経営理念の参考にしていただける内容に仕上げました。ユニクロが売上規模も世界2位になるのは時間の問題ですね。実はZARAも以前からベーシックが稼ぎ頭。ますます、両社の比較分析は世界のアパレルビジネスにとって参考になるでしょう。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

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January 19, 2021

ウォルマートが描くDX(デジタルトランスフォーメーション)の未来

20180818_1035181月14日の繊研新聞に、現在、開催中の全米小売業大会(NRF)、初のオンライン開催に関する記事が掲載されており、関心を持って読ませて頂きました。

この全米小売業大会は世界の小売業の未来を示唆するテーマが話題になることが多く、毎年、発信されるトピックに注目しています。

今回の記事で印象に残ったのは、アマゾンエフェクトが吹き荒れ、収まらないパンデミックの渦中にあるアメリカの小売業界で、オンラインを活用して業績を伸ばし続ける、ディスカウントストア、ウォルマートの最高顧客責任者であるジェイニー・ホワイトサイド氏のコメントの数々でした。

その中から、3つほど取り上げてみたいと思います。

ひとつめは、

「5年かけて起きると思われていたデジタルトランスフォーメーションが5週間で起きた。」

コロナ以前から、全米でアマゾンとの小売業頂上対決をしながら、デジタルトランスフォーメーションの準備を着実に進めていたウォルマート。

顧客の購買行動の変化を見越して、準備をしていたからこそ、コロナ禍の外出自粛下においても、同社は宅配対応、ストアピックアップ(オンライン注文の店舗受取り)、カーブサイドピックアップ(オンライン注文の駐車場受取り)に対応し、業績を伸ばし続けているわけですが・・・

そんな彼らにとっても、そう言わしめる程の急激な購買行動の変化が起こっていることを感じ取れるフレーズです。

準備をしていなかった企業、準備中にコロナショックに見舞われた企業がどんな目に合っているかは、言うまでもないでしょう。

2つめは

「(ストア)ピックアップと宅配が急増(中略)特に65歳以上のお客からの要望が顕著」

ショッピングのデジタルシフトの完全定着は、ジェネレーションX(1960年代後半生まれ~)以降のデジタルを不自由なく活用する世代がシニア世代になった時、つまり、あと10年はかかる、と思っていた方は少なくないと思います。正直、僕も心の底ではそう思っていたかも知れません。

しかし、コロナショックは、それまで、ほとんどオンラインやデジタルを活用していなかった、現シニア世代にも強制的にデジタルシフトを迫りました。
これは、今後の流通の変化のスピードに大きな影響を及ぼすのではないか、と見ています。

日本の話になりますが、昨年、6月、緊急事態宣言が解除された直後に、カフェで老人たちがアマゾンでの購入体験を話していた時のことを思い出します。

まさか、このおばあちゃんたちの口から「アマゾンで・・・」という言葉が出てくるとは想像もつかなかったからです。どうやら、ご家族に手伝ってもらって、アマゾンでの購入を始めたようです。その後、同じようなシニアの会話のシーンに何回か、出くわしたものでした。

シニア層が当たり前のようにオンラインを活用するようになると、ショッピングのデジタルシフトの市場定着は一気に進むことでしょう。

3つめは

「ウォルマートが顧客の冷蔵庫の中身を補充する時代が来るとみている」

という話。

1月15日の日経新聞の記事で補足すると、

ウォルマート本社のあるアーカンソー州ベントンビルで、スマホアプリで3種類の温度調節が可能な宅配BOXを顧客に提供する準備をしている、とのこと。

つまり、ウォルマートからの生鮮の宅配を、不在時でも、あるいはコンタクトレスでも顧客に届けることを実現する試みです。

おそらく、ジェイニー・ホワイトサイド氏のNRFでの発言の背景には、この試みがあったのでしょう。

話は変わりますが、2019年2月に上梓した拙著「アパレル・サバイバル」では、

これから10年スパンで考えると、顧客のクローゼットの中のワードローブ情報を顧客に共有していただける信頼関係の構築ができるかどうかが、今後のサバイバルのカギになる、と述べました。

それを読んだ、読者の方が、

服だけではなく、食品でも、自宅の冷蔵庫の中身と食材の賞味期限が管理され、

外出先からでも、帰宅したら、それらでどんな夕食の献立が出来るか、

あるいは、あと、どんな食材を買い足したら、どんな献立のバリエーションが広がるか、

のレシピ提案をしてくれるIOT冷蔵庫とスマホアプリがあったらいいね、

とコメントされていたのを思い出します。

確かに、あったらいいねのデジタルトランスフォーメーションですね。

ウォルマートは、アマゾンと競いながら、そんな顧客の未来の購買体験を考えているのか、と思いました。

この間、ジェネレーションXの上の世代、シニア世代以上に関してはコロナ後の購買行動は元に戻るだろう、

という調査結果も目にしました。

確かにその傾向もあると思いますが、DXの準備をしていた企業と遅れた企業の差は確実につきそうな気がしています。

いずれにせよ、

消費者は一度手にした便利さは手放さない

この教訓だけは肝に銘じておくべきでしょう。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギ、顧客とのこれからの関係構築がテーマです。

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December 28, 2020

アパレル生産で取り組みが進む3D技術によるサンプル作成工程の効率化

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12月21日と12月24日の繊研新聞のそれぞれ一面に、OEM型やODM型でアパレルの受託生産を担う繊維専門商社の3D CADなどデジタル技術を活用したアパレル設計、製造の効率化への取り組みに関する記事が掲載されていました。

ひとつは繊維専門商社のヤギと東京ファッションテクノロジーラボ(TFL)が共同出資で設立した、
ファッションに特化した3D、CG製作の新会社、メタデータバンク社の記事。

この新会社には3Dモデリスト、CGデザイナーがそれぞれ20~30人在籍し、
バーチャルで、サンプル製作プロセスを簡素化し、本生産前の仕様確認を促進したり、サンプルを作成せずに、バーチャルサンプルでEC先行受注を行ったりすることで・・・
テクノロジーによる業務改革を推進し、合意形成の迅速化、生産リードタイムの短縮などを通じ、過剰在庫の解消が期待できる、「バーチャルファクトリー」を目指すようです。

もうひとつは専門商社の豊島が進める、「バーチャルクロージング」の記事。

目指すところは前者に近いと思いますが、同社では最近、業界で普及が始まったアパレル3D設計のクラウドソフトウエア、設計の実務寄りのブラウズウエア(イスラエル)やモデルに着せて動かすプレゼンテーションに優れたCLO(クロ;韓国)やニット製品に特化してカラー、製品シミュレーションが出来るエイペックス(日本の島精機)などのツールを社内企画室に次々に導入し、専属トレーナーを採用して、各部署に所属するデザイナー、パタンナーが本格活用に向けて社内研修を受けているそうです。

 

しばらく、生産業務に携わっていなかった筆者も、ここのところ、過剰生産防止や在庫リスク回避の観点から、アパレル設計段階から工場での生産を経て、商品が倉庫あるいは店頭に届くまでのサプライチェーンにおいて、タイムロスやトラブルが起こりやすい、いわゆるボトルネックがどこにあるかをサプライチェーンに携わる方々と洗い出したり、ディスカッションする機会が増えました。

サンプル作成から本生産発注に至る、仕様確認作業もそのボトルネックのひとつ。

本生産発注に至るまでに、デザイン画ベース、ファーストサンプル、セカンドサンプル、各色サンプル、本番前修正サンプルなどサンプルが複数回作成されるわけですが・・・

アトリエや工場のサンプル室のサンプル作成だけでも、相当な時間と労力がかかるものですが、
間に入って、それに携わる方々が、サンプル作成にあたって、デザイナーやパタンナーやMDなど、指図を出した担当者が意図するデザイン仕様や修正指示の確認に時間が取られ・・・

仕様書が不完全、伝言が上手く伝わらないと、仕事が進まない、やり直しが増える、などなど、タイムロスによって、発注が遅れるのも実態です。

最近の話を聞いていても、このあたりは筆者が生産に携わっていた90年代とさほど変わらないようです。

むしろ海外生産が多くなる、産地が遠くなる、介在する言語が増える、出張経費削減で商社任せとなると、ご苦労もいろいろ多いようですし、現場に入って鍛えられながら育つ商品企画や生産担当の人材育成も進まない傾向にあるようです。

サンプル作成も回数が増えれば、当然、作成コストや無駄になる資材もばかになりませんし、その経費は当然、本生産の原価に上乗せされるわけですし、発注が遅れて、販売期間が短くなれば、想定以上の値下げや売れ残り在庫を抱える結果になるわけで、誰にとっても良いことはありません。

そういったプロセスの中で、3Dのシュミレーションや CADによるテクノロジーは・・・

サンプルを作らずに選択バリエーションを増やすことができる、一方、簡単な確認で済むことは、わざわざサンプルを作らず、バーチャルでの確認で代替えすることで、必要最小限の実物サンプル作成に絞ることができそうです。

すると、単純なコストだけでなく、資材のムダや、働き方改革が叫ばれるなか、残業の削減にもつながることが期待されると共に、プロセスが短縮されれば・・・

意思決定のタイミングを販売時期に引き付けることができたり、シーズン中の追加生産、新企画など柔軟性にもつながることも期待できるとというわけですね。

3D CADを実際に使っている方によれば、現段階では、2Dと3Dのソフト間の互換性に問題があったり(双方への変換のたびに調整が必要で時間がかかる)、まだまだ、手間がかかるようです。

新しいものは、どうしても、産みの苦しみがありますし、保守的な方々からの拒絶反応は少なくないでしょう。

しかし、何ごとも、黎明期は辛抱のしどころで、徐々に過去データが蓄積されて行き・・・

ある臨界点(データベース内のデータ量や精度、オペレーターの熟練など)を超えたところで、業界で加速度的に実用に乗って行くのではないか、と思われます。 

データを蓄積して、反復作業、柔軟対応に活かせること、それはあらゆる業務のデジタル化の大きなメリットでしょう。

某グローバルSPAも、結構前からデザインのデジタル化とアーカイブの蓄積によるデータベース化が本生産前の商品企画生産のスピードと柔軟性に繋がっていると聞きます。

そして、3D のオペレーションが広がるにあたり・・・

例えば、デジタルネイティブ、ゲーム世代の活躍、また、エンタメ業界など3Dに慣れた異業種からの人材の流入を促し、いい意味で業界内でイノベーションが起こって活性化することも期待しています。

アパレル生産とサプライチェーンのボトルネックのひとつの解消策として、企画生産現場における3Dテクノロジーへの取り組みに注目しています。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

今回の投稿が2020年最後の投稿になります。

今年も1年間お付き合いいただきありがとうございました。

3月からコロナショックに直面し、業界全体がなかなか先の見えない情勢のまま新年を迎えます。

そんな中でも、むしろ未来に向けて加速した、「新しい生活様式」のビジョンを描き、それに向けた業務の再構築に邁進致しましょう。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 アパレルビジネスのボトルネックをあぶりだし、10年後の顧客のビジョンから改革を進める、勝ち残り戦略についての問題提起本です。

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October 12, 2020

ニトリのアパレル事業成功の可能性

20200922_194530先日発表された、ホームファッションチェーン最大手=ニトリの2021年2月期の上半期決算は売上高前年比113.7%、営業利益同139.7%の大幅増収増益、過去最高益を更新し、同社は2020年通期決算を上方修正しました。

コロナ禍の消費が家の中に向く、いわゆる「巣ごもり需要」をしっかり取り込んだ格好で、休業に追い込まれなかった郊外フリースタンディング立地の強みを活かして、上半期の既存店買い上げ客数が114%増、加えて、これまで磨き上げて来たEコマースをフルに活かし、前年比156.3%となったのが大きな要因です。

同決算発表時に同社が、今後アパレル事業にも力を入れる、と宣言していたので、今回はニトリのアパレルビジネスの可能性について考えてみました。

ニトリ社は、筆者もかつて、小売事業会社勤務時代に学ばせて頂いた、故 渥美俊一先生のペガサスクラブの最優等生企業の1社で・・・アメリカや海外のチェーンストアに刺激を受けてビジネスのロマンを抱き、チェーンストア理論の原理原則を正しく理解され、試行錯誤を繰り返しながら、仕様書発注が基本で、自前工場まで持つ製造小売業を貫いて来られ、

出自は家具店ながら、季節にあわせてコーディネート提案をするという発想もしっかり持ち合わせていらっしゃる企業ということで、筆者はその取り組みや姿勢をリスペクトしている異業種企業のひとつでした。

今回、初めて、決算財務諸表を見て驚いたのは、その収益性と在庫効率の高さでした。

ニトリ
       2020年2月期(通期)  2020年8月期(半期)     
粗利率      55.2%         56.7%
販売管理費率   38.5%         34.3%   
営業利益率    16.7%         22.4%

在庫日数     74日          60日

※ お断り: 在庫日数は 期末在庫原価を翌四半期の1日あたりの売上原価で割っています。

一般的に、家具やインテリアショップチェーンは、取り扱いアイテムの顧客購買頻度がアパレルなどに比べて低いので、年間の在庫回転が低い代わりに・・・高い粗利率で稼ぐビジネスモデルと認識していたのですが・・・

同社の場合は、自社商品開発による高粗利率や営業利益率の高さだけでなく、
何より、際立った在庫日数の短さ(在庫回転数にする時は365÷在庫日数で判断下さい)

に目が留まりました。

おそらく、取り扱いアイテムの中で、顧客の家具の購買頻度は高くはないと思いますが・・・

季節にあわせて、コーディネートして着替えることを提案するファブリック(各種カバー類)、
防寒、冷感アイテムなどのシーズナル商品や、
低単価の消耗品(電球・乾電池、オフィスサプライなど)などが商品回転の高さに寄与しているのでしょう。

また、直貿(直輸入)が圧倒的に多いのですが、本来であれば、在庫過多になりがちなところを、在庫日数が長くならないように、サプライチェーン管理を徹底されているのでしょうね。

ちなみにアパレル大手のファーストリテイリング社とZARAのインディテックス社の直近の開示数字と比べてみると、

ファーストリテイリング
        2019年8月期(通期)     
粗利率         48.9%
販売管理費率      37.3%
営業利益率       11.0%
在庫日数        119日

インディテックス は 2020年1月期末はコロナ対策決算をしているイレギュラーなので、2019年8月の半期決算の数字で、平時で見てみます。

       2019年1月期(通期) 2019年8月期(半期)     
粗利率        56.7%     56.8%
販売管理費率     40.0%      40.9%    
営業利益率        16.7%     15.9%
在庫日数       102日      87日

これらの数字を見る限り、ニトリは国内中心事業ではありますが、財務構造や収益性や販売効率の良さは、世界トップクラスのアパレル企業に似ている、いや、それら以上に良い、と言えるかも知れません。

なぜ、同社の収益性や在庫日数(在庫回転)に着目したかというと、

小売業は粗利率x回転率ミックスのビジネスであり、構造が全く違うカテゴリーに手を出すと、既存のビジネスと折り合いが上手く行かなくなり、バランスを崩し(売れない、儲からない、在庫過多に苦しむなど)、早々に失敗、撤退になる事例が少なからずあるからです。

一方、既存ビジネスと客層が近い、あるいはすそ野を広げる効果があり、既存ビジネスと比べ、適度に利益率が高めで、適度に回転率が良ければ、儲かる、良いビジネスと認識され、次のビジネスの柱や成長エンジンになることもあり得ます。

例えば、ユニクロがかつて取り組んだ野菜などは、企業力はあり、志は評価できたとは思いますが、全く違うビジネス構造、本当に畑違いのへの取り組みが上手く行かなかった要因だったと見ています。

そういう意味で、ニトリの既存の損益構造や在庫効率は、製造小売業であること、数字を見る限り、アパレルのそれに近いことと、古くから、ホームファッションというカテゴリーの商品開発において、コーディネート思考を持っているという点で・・・

少なくとも、季節性のある、継続販売も視野に入れたベーシックアパレル群であれば、決して、全くの畑違いとは言えず、全く別のビジネスに取り組むわけではなく、社内理解度も早く、やりよう次第で上手く行く、規模の大きくなる可能性があるのではないかと期待ができます。

先日、ららぽーと立飛のニトリのアパレル業態 N+(エヌ・プラス)を拝見して、ミセス向けの2490円-2990円あたりがプライスポイントのベーシックアパレル店という印象を受けました。

かつての米リミテッド・ストアやタルボットを見る思いでしたが・・・日本では、ドゥクラッセやベルーナの間くらいの位置づけになるのかも知れません。

N+のオンラインサイトでは、ZARAの店頭提案のようにカラー別のコーディネート提案をアピールしていたので、コーディネートにこだわるニトリがどんな売場をつくっているのか?と思って見てみましたが・・・

あいにく売場が狭い(40坪程度)こともあり、カラーコーディネート提案ではなく、品番でくくった、あまり特徴のない、価格訴求の普通の品種別売場にしか見えませんでした。

アパレル経験者を雇い、まだ規模が小さいので、自前ではなく、アウトソーシングを活用して商品開発をしているとのこと。

しかしながら、ホームファッションの隣にあるマーケットとしての、婦人ベーシックアパレル市場は、同社にとって、決して悪くはない、大きく、新しい開拓市場のひとつではないか、と思ったものでした。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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ニトリの強さ、人財育成がよくわかる本です。

「ニトリの働き方」(大和書房)

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August 31, 2020

「アフターデジタル2 UXと自由」を読んで

藤井保文さんが書かれた「アフターデジタル2 UXと自由」を読みました。20200831_145410

昨年出版され、大ベストセラーとなった前著の「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」に刺激を受け・・・

当時、頻繁に企業研修講師の仕事で訪れていた中国の杭州、広州では、同著に登場するアリババのスーパーマーケットHema FreshやLuckin Coffeeを中国人パートナーの手を借りて実体験して・・・

その背景にあることも含めて理解し、目から鱗が落ち、これから世界で進んで行くであろう小売業のDX(デジタルトランスフォーメーション)による明るい未来に思いをはせたものでした。

今回の続編は、前著に感銘を受けて、著者が相談を受けたり、ツアーをお手伝いされた多くの日本企業とのやり取りも踏まえて、日本企業の組織や仕事の進め方の実情にも触れながら、アフターデジタル時代の企業戦略としてのOMO(Online merges with Offline)の考え方について、誤解を解くように、新たな事例紹介とともに、再定義しているところに意味があります。

一番のポイントは、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉だけが独り歩きしている昨今ですが、顧客目線で顧客行動にポジティブな影響を与えるものでなければ、
たとえ、オンラインやAIを使ったところで、それは、企業都合の(あるいは、システムベンダー都合の)単なる業務効率のためのシステム化であって、同著が主張するところのOMOの本質でもなければ、アフターデジタル時代に勝ち残れる顧客体験価値(UX)創造型の取り組みでもない、という点でしょう。

最新のデジタル投資ばかりに目を向けている方々は、是非お読み頂きたいと思います。

スタートラインに立つためには、

まずは顧客行動(カスタマージャーニー)が理解、言語化出来て、

顧客にとっての「成功」は何か?

その実現のために、その過程に立ちはだかる顧客の「お困りごと(ペインポイント)」が特定できること。

そして、それに対して、情熱と執念をもって、オンライン技術を駆使しながら、とことん解決のお手伝いをし、その結果、ご利益として、顧客との長いお付き合いができる、という発想が大事なわけです。

実は、同著の主張と同じことを、拙著「アパレル・サバイバル」執筆の際の取材時の2018年に、アメリカ西海岸で体験したamazon go(コンビニ)、amazon books(本屋)、Nike(シューズショップ)、日本で体験したZARA六本木ポップアップストア(アパレル専門店)でも感じたものでした。

彼らがそれぞれの店舗において、DXで解決したのは、まさしくそれぞれの専門店ならではの購買行動(UX)の中のお困りごとに他ならなかったからです。

それらの体験をした時、顧客としては、何か呪縛から解き放たれて、スッとしたような感じ、そして、そのDXを実現した経営者、技術者に対するリスペクトを覚えたものでした。

また、DX担当者にとっては単にUXを研究するだけでなく、実際に体験してみて、その感覚(原体験)を体に覚えさせることも、執念を持って取り組む上では大事なことだと思います。

話を戻しますが・・・

今回の続編の中で、最も参考になったのは、P61から始まる「売らないメーカーの脅威」のところで、メーカー、サプライヤーではなく、「サービサー」として紹介されていた、中国企業群の事例です。

電気自動車メーカーのNIOは、車を売ることが目的ではなく、車を売ったところからが、顧客との付き合いの始まり。

年間23万円もするクルマのオーナーに対する、「会員サービス」がキモです。

維持費やメンテナンスサービスどころか、顧客のカスタマージャーニー上にある、クルマにまつわる痒い所に手が届くサービスの数々が憎いです。そのため、NIOのオーナーではない、別のメーカーのクルマのユーザーもそのサービスを受けるために会員になるとか。

それに続く、不動産仲介業のズールーの事例も、住まいの賃貸仲介したら終わりのスポットビジネスではなく、家探しを手伝いにとどまらず、そのコミュニティに住む、生活する、時には、旅先のシーンにまで関与し、顧客と一生つきあう覚悟すら感じます。

ファッション業界の方々は、是非、そんな事例を知って、日本のファッション販売に置き換えたら、顧客の成功のために何ができるか?を考えてみて頂きたいものです。

つくって、売ることに徹していたファッション業界も、顧客がコーディネートして着回す、メンテナンスする、保管する、手放す・・・・

などなど、幅広くカスタマージャーニー中の「お困りごと」に着目すれば、まだまだ顧客とつながってゆけるチャンスはあるし、広がると思っています。

このあたりは、ちょうど「アパレル・サバイバル」の中でも P205 CHAPTER5「テクノロジーの進化を享受するのは誰か?」という章以降で詳しく述べていますので、参考までに併せてお読みいただければと思います。

コロナショックを受けて、一気に「アフターデジタル」の時代に放り込まれた私たち。
この著書の顧客目線のDXの心構えを理解せずに生き残ることはできないでしょう。

 

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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July 27, 2020

セシルマクビー全店閉鎖で考える、ブランドのライフサイクルの見極めと対応

先週、1330257_m 1990年台から2000年台前半に業界のトップランナーのひとつだった
と言っても過言ではない、マルキューブランドの代表格である「セシルマクビー」が

1987年の創業から33年目となる今年(2020年)、
全店を閉鎖してストアブランドとしての歴史の幕を閉じることになった

というニュースが報道され、

SNS拡散、TVのバラエティ番組でも取り上げられるなど、大きな話題になりました。

同ブランドを展開するジャパンイマジネーション社は
今後、これから市場性が見込める4つのブランドに絞って、それらを運営する子会社を存続し、

自らは「セシルマクビー」ブランドのライセンス管理を行う形で事業を継続されるとのことです。

このニュースを聴いて、
業界の一時代を盛り上げた同ブランドと同社の功績に敬服すると共に
客層を絞った、個性のあるブランドには、
やはりライフサイクルというものがあるのだということを
あらためて感じさせられたものでした。

WWDジャパンさんの2つの関連記事

「セシルマクビーの時代の終わりはずっと前から感じていた」 社長が語る全店閉鎖の背景

ジャパンイマジネーションが「セシルマクビー」全店閉店

を読むとわかるのですが、

筆者がこれまでいろいろなストアブランドの分析をお手伝いして感じた
「ブランドや事業のライフサイクルの仮説」が
セシルマクビーにも当てはまることを感じたので、ここでご紹介したいと思います。

まず、
上記WWDジャパンの2つの記事の同社の社長さんのコメントと記者の方の解説をまとめて

セシルマクビーのライフサイクルの仮説を整理すると
以下のような感じになりました。【 】内は 筆者の視点で独自に定義したものです

1987~1994年の8年間 【導入期】ブランド立ち上げから店舗拡大とともに知名度が高まり始める時期
1995~2004年の10年間 【成長期】ブレイク~売上右肩上がり 
2005~2014年の10年間 【成熟期】店舗数拡大とともに全体売上拡大できても1店舗あたり販売効率が下がる
2015~2020年の6年間 【衰退期】事業赤字が続く

そして、2019年にテイストと客層若返りのリ・ブランディングを図ったものの、
2020年の今春、コロナショックに見舞われ、全店閉鎖の決断に至った

というものです。

これまで分析させていただいた多くのアパレルブランド事業に共通していたのは
神田昌典さんによるプロダクト系のマーケティング理論にもあるように、

ある事業が導入期から成長期に入ったところ、
つまり売上前年比が急激(25%以上複数年)に伸び始める時期がわかると

1)それまでにかかった年数のおおよそ4倍がブランドの寿命になる
そして
2)導入~衰退までの4つの期はほぼ同じ長さになる、
という仮説で

まさにセシルマクビーにも
この仮説が当てはまっているように思えます。

導入~ブレイク(成長期スタート)まで 
約8年 x 4= ブランド寿命 32年

そして、ここからは筆者の臆測になりますが、

おそらく、店舗拡大による売上高のピークは
成熟期2005年~2014年の間にあったと思いますが、

営業利益高のピークはちょうど成長期から成熟期に移行する
2004~5年あたりだったのではないかと思われます。

そう、これは 前年度比較ではなく・・・
業績を時系列に並べて振り返って見ないと
なかなかわからないかも知れませんが、

出店によって規模拡大はできても、販売効率が下がり始め
営業利益高がピークアウトしたな~
と感じた時が成熟期入り

気づいたにもかかわらず、再成長のための何らかのてこ入れをせず、
成功体験に執着して突っ走っていると
いずれは衰退期を待つばかり・・・

というのが多くの「儲からなくなった」事業の
時系列分析から気づく共通項です。

これに対して、

この仮説に立って考えれば、いつ頃、成熟期を迎えるかの予測はできるわけですから、

〇 海外市場を開拓したり、
〇 成長の見込める新カテゴリーの導入をしたり
〇 リ・ブランディングを図る

などが成熟期のまま衰退期(赤字続き)に陥らないための対処療法になるわけです。

業界を見渡すと、

海外市場に軸足を移して成長軌道を持続した数少ない成功例のひとつは
ユニクロでしょうか。

国内に絞って改革をするのであれば、

既存事業や既存の品揃えに固執せず、

◎より客層が広く、

◎販売効率がよい、あるいは

◎より利益率の取れる新カテゴリーを導入したり、

また、

◎より幅広い客層が見込める新事業に軸足を移す

ことによって、新たな成長ドライバーを育て、利益を高めたり、

◎ブランドのイメージや商品構成を一新して客層を増やす、あるいは

◎客層を変更するリ・ブランディングを行う

のが対処例になるでしょう。

この点で、これまで国内中心に比較的うまく対処されて来たと思われるのは
アダストリア社やユナイテッドアローズ社あたりでしょうか。

しかし、個性が強いブランドに至っては・・・
割り切って事業終了も視野に入れて、

早めに、別業態・別ブランドを育て、成長の軸足を移す
一方で旧ブランドは店舗リストラ、フェイドアウトを進める、

というのも企業存続の選択肢のひとつかと思います。

もっとも、既存ブランドの成功・貢献の会社へのインパクトが大きすぎると、
乗り換えは、かなり困難を極めるとは思いますが・・・

さて、話をジャパンイマジネーション社に戻しますが、

同社は幸い、借金がなく、
主力業態であったセシルの店舗閉鎖を決め
かなりのダウンサイジングをして
なおかつ、知名度を生かしたライセンスを収入源に、企業として営業継続する選択肢を選ばれました。

会社を成長させてブランドを終了するというのは
そのブランドのために社内外で働く方々がいらっしゃいますから、
本当に苦渋の決断だったと思います。

しかし、今回の決断がもっと遅ければ、
取り返しのつかないことになっていたかも知れません。

「セシルマクビー」ブランドの終焉は残念ではありますが・・・

記事の中で社長さんが最も気にかけられていらっしゃるように
お辞めになる方々の進路についてはしっかりフォローして頂きたいと思っています。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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