June 20, 2022

原価高騰時は率重視から額確保優先へ

Photo_20220709120301先週開催したWWDJAPAN主催
アパレル値上げ対策セミナー

タイムリーな話題ということで
有料セミナーにも関わらず
定員いっぱいの参加を頂きました。

ありがとうございました。

小売業、特に食品やガソリンのような生活必需品ではない、

ファッション流通においては、明らかに価格と販売数量は反比例の関係にありますので・・・

原価が上がった分、そのまま価格転嫁をすればよい、という話ではありませんので

価格設定は慎重に行いたいところです。

セミナーでは、小手先の対応だけでなく

・価格設定の基本

・プライスポイント及び周辺価格帯のバランスの取り方

・大手SPA各社の対応

などのお話をしながら

高騰する原価の緩衝材として

値下げの見直しや

販管費との向き合い方までお話しました。

小売業が体質改善の覚悟をした上で
いかにサプライチェーンと歩み寄って協力体制がとれるか?

原価率重視の仕入を一旦やめて、

営業利益を残すため、粗利率は下がっても、
最終粗利額の確保を目指すことを推奨します。

取り組むにあたっては・・・

まずはどれだけ値下げをしているか
その「原資」を把握するところから始め、

シーズン中の在庫コントロールでいかに、各種ロスを減らすことができるか

それが数十年に一度、押し寄せる「大波」の中で
生き残るカギになることでしょう。

秋冬以降、価格政策で失策をするところも少なくないと思いますので、

顧客との価格のお約束を維持しながら、上手に平均売価を上げ、

経営に必要な利益額を確保するように全社のオペレーションを向け

ピンチをチャンスに変えましょう!

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【参考書籍】

顧客購買行動に対して品揃え計画(MD)およびシーズン中の在庫運用(DB)を考えるビジネス読本

人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識 (中公新書ラクレ)

こちらは電子書籍 Kindle版 です。商品政策と在庫運用のヒントが満載。経営者様、経営企画の方、MD、DB職の方に読んで頂きたいです。

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June 06, 2022

晴雨兼用アイテムの市場潜在性

Photo_20220613130001梅雨の季節になると

百貨店の傘売り場やレイングッズ販売の
ニュースを見かけるようになりますが、

6月2日の日経MJの「ヒットのクスリ」などに
富山県のレイングッズメーカー、カジメイク社が

おしゃれなレインウエアやグッズを販売する直営店
「アメトハレ」を新宿の丸井に開いたという記事が掲載されていました。

以前もブログでご紹介させて頂きましたが

関連エントリーー気温に合わせて品ぞろえ計画、在庫運用を考え直す

気温や天候に大きく左右されるビジネスであるファッション販売に携わっていると
最高気温、最低気温、天気を気にしながら
クライアントさんたちと在庫コントロールを考えるわけですが、

上記エントリーで過去の天気をご紹介した以降も

気象庁の例えば東京都心部のデータでは

春は約2カ月
夏は約5カ月
秋は約1カ月
冬は約4カ月

※注:春は最高気温15度越え、夏は同25度越え、秋は最低気温が15度以下、冬は同10度未満の日にちが継続的に続き始めるところでカウントしています。

であるのと共に、

年間降水日(日中の天気に雨が含まれる日)は毎年100日を超えているのが現実です。

ちなみにカジメイクさんのアメトハレのサイトを見ると、
富山県は1年の半分の日に雨が降る全国でも雨が多い地域のようですね。

アメトハレサイト 

北陸が合繊生地の産地というのもあるかと思いますが、
そんな環境が同社のビジネスの原点にあることが頷けます。

ここまで気温や天気の傾向が、従来の業界の常識と変わって来ていることが
データではっきり認識できるのなら・・・

もう、天候を「売れなかった言い訳」にするのはやめて(笑)

むしろここまで長くなった夏、そして雨の日が多いことをいかにビジネスチャンスに換えるか?

を考えたい、という話は既述のエントリーでもお伝えしたことです。

生活者のお困りごとのひとつに

雨の日に着用して出かけてもストレスを感じない服や靴があり、

一方、昔ながらの雨具専業メーカーさんが提供する
機能第一の雨の日専用グッズでは満たされない需要があるとします。

私も雨の日対応グッズをいくつかもっていますが、購入の際、選択肢が限られ、使用頻度が低い上に
昔ながらのデザインのものが多く、結局、妥協しているのが現実です。

そんなレイングッズを使用シーンが限られる「特殊な商品」ではなく
年間の3分の1以上の日に使える大きな潜在市場ととらえると

どんなことが考えられるでしょうか?

雨の日はもちろん、晴れの日でも普通に着る、履く、使うことができる

デザイン性や使い勝手を持つことがマーケット拡大のひとつのきっかけになるかも知れません。

ここ数年、家でも洗濯できる服が多くの生活者に支持され、「選ばれる基準」になったように

雨の日にも着ることができる晴雨兼用という概念はこれから「選ばれる理由」になるかも知れませんし、

また、サステナブルの観点から購入した服のメンテナンス情報を発信するアパレル企業が増えているように

雨で濡れた服や靴の手軽なメンテナンスの提案は

生活者に潜在的なお困りごとを認識してもらうことで開拓余地のある大きいマーケットの開発につながるかも知れませんね。

作業服として開発した商品をアウトドアウエアやタウンウエアとして、提案し一気に購買客層を増やしてブレイクしたのは
ワークマンですが

同社がワークマンプラスやワークマン女子などアウトドア用品店に続いて、最近スタートしたシューズ専門業態の次は
レイン対応グッズの専用業態を出店することを考えているようです。

多くのメディアが注目すると、これからレイン対応グッズにあらためて目が向けられることになるかも知れません。

憂鬱な雨の日の選択肢を楽しく広げてくれる
着用シーンが限られると思われた雨の日の生活者のお困りごとに着目し、

晴れの日にも兼用出来るアイテム これからそんな潜在市場が顕在化して行くような気がして楽しみです。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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May 31, 2022

アパレル販売の需要予測とは?

2_20220607170601先日、所属する日本オムニチャネル協会のサプライチェーン部会のセミナーで
需要予測をテーマに食品とアパレルの違いをディスカッションする機会がありました。

筆者はアパレルの「需要予測」が語られる時、多くの誤解があると思っています。

多くの場合、例えば、

シーズン毎にヒット商品を当てること、
そして、それがどれだけ売れるかを事前に予測して、
ドーンと計画生産することが需要予測であると思わている方が少なくないようです。

半期やシーズン単位で考えるメーカーの場合はそうかも知れません。

しかし、少なくとも、アパレル小売業の場合は・・・

シーズン中の需要の高まる実売期(ピーク週と呼びます)が何時で、
その時に何をどれだけ販売して目標を達成するか?という

品揃え計画と商品販売計画の仮説を立てることが
「需要予測」に当たるのです。

この計画を立てる上で第一に前提にすべきは、

顧客購買行動です。

気温と共に装いを変える生活者は

わかりやすいくらい、季節の最高気温や最低気温に反応しますし、

そして、連休やイベントに連動した行動をとることがわかっています。

過去20年間、たくさんのブランドの「売上週波動」というものを見て来ましたが

同じ立地で商売をするブランドであれば、
コロナの影響を受けた20年と21年を除いては

毎年ほぼ変わらない波を描くもので、それは、まさしく「顧客購買行動」そのものの現れと見ても差支えありません。

では、その需要の波が高まる
実売期=ピーク週周辺にどんな商品を販売するか?

こちらもビジネスでよく用いられるパレートの法則のように、

面白いように、売上上位商品に大多数の割合が集中するのが常です。
(これには理由がありますが、またの機会に)

そこまで販売機会と枠組みがわかっていれば、あとは、

「生活者はコーディネートして着用する」

その真理を前提にして、その枠組みにどんな商品を当て込むのか?

という仮説と議論になります。

当て込めさえすれば販売目標に対する計画数はある程度、ほぼ自動的に計算することができるものです。

これがアパレル小売業の「需要予測」にあたるものです。

しかしながら、中長期的な需要予測が当たらないことは
多くのビジネスパーソンなら知っている通りです。

一方、そんな市場の中で

当初の仮説が需要とズレていることにすぐ気づくことができるのは
生活者最前線で日々販売に当たっている小売業最大のメリットです。

ですから、一旦は仮説(計画)を立ててシーズンを迎えるものの、

シーズン中の実需要にあわせてできる限り軌道修正すればいいのです。

それが出来たか、出来なかったかで利益が決まるのが、
小売ビジネスというものです。

ユニクロにしても、ZARAにしても規模が大きいからではなく、

軌道修正力があるからこそ日本一、世界一になっていること

を忘れてはいけません。

とても興味深いのは、その反対に

「規模が小さかったころの方が軌道修正力があった」

と振り返る経営者さんが結構いらっしゃるのも現実です。

規模が大きくなって、スケールメリットを出せるようになったはずなのに・・・

むしろ軌道修正力が落ちているとしたら

それは、いったい、なぜでしょうか?

思い当たるようであれば、是非、オペレーションを見直してみてください。

「販売計画は外れることを前提にシーズン販売に臨む」

規模に関わらず、それが小売業にとって基本的な考え方であると、
キモに銘じたいものです。

関連して、話は少し変わりますが、

リアルでも、オンラインでも、直営店だけで商売をしていれば、

ある程度は需要波動に基づく、リズムを持った読めるビジネスができるものですが、

悩ましいのは、そのリズムを乱すイベントの数々です。

商業施設の期間限定プロモーションはまだしも・・・

昨今、ECモールなどでの

突発的なセールによってつくり出される需要波動=異常値

は実に頭が痛いです。

確かに、スタートアップ期に急速に一定の規模に拡大するためには
それが必要な時もありますし、その一定規模までは対応可能でしょう。

しかし、この異常値を当たりまえに自転車操業的なビジネスを続けていると
操業リズムが崩れ、

売上が上がっても経費ばかりが掛かり過ぎて、利益が残らない

そんなことが社内の身の回りで起こって全体が混乱してはいないでしょうか?

まずは、生活者の需要がつくり出す、自然な需要波動に忠実に。

それを踏まえた上で、意図的に作り出した二階建ての二階部分の異常値なら
まだ許容範囲と言えるでしょう。

 

食品業界の需要予測の話を聞いて、アパレル業界の需要予測の話をした上で、

その後パネラーの皆さんと行ったディスカッションがとても面白かったです。

そこで気づいたことは・・・

食品のような日販品を扱う小売業では
商品を仕入れる人と販売する人の業務サイクルが近いこと。

なぜならば、

毎年、品揃えが大きく変わらない商品を
共に短期間で調達して、短期間で売り切ろうとしているからです。

ですから、仕入担当も販売担当も息を合わせやすいのです。

一方、

アパレルのような専門店では

商品を仕入れる人は
主に次のシーズンの仕入れのこと、つまり、数か月先のことを考え

販売する人は
今日、今週、今月のことを考えているため、

両者の業務のリズムと重きを置いているスコープは大きく異なります。

専門店の場合、

季節ごとに変化するたくさんの商品をたくさんの仕入れ先から仕入れますので

「調達」と「販売」が役割分担できるというメリットはありますが・・・

業務サイクル、リズムの違いから、両者の思いが噛み合わず、

売り逃しをしたり、逆に過剰在庫を抱えてしまうデメリットもはらんでいます。

長年、ファッション業界を見ていると

かつては販売をしていた人が調達側にまわった途端
作り手の都合に変わってしまうことを痛感します。

小売業はあくまでも顧客を中心にした変化対応業

需要が見え始めたものに対していかに変化対応できるかがキモになります。

生活者そして、それをお手伝いする販売スタッフ目線で
どう柔軟にサプライチェーンをコントロールするか

いつになっても、それを忘れてはいけないことを
同じ生活者を相手にしている異業種の方々の話を伺いながら、
ますますその思いを強くしたものでした。

【お知らせ】 このブログの筆者であり、ファッション流通の全体最適を目指す在庫コントロールの実践指導の業界第一人者である齊藤孝浩から直接学べるオンラインセミナー

 「3つの視点を共有するだけで過剰在庫が粗利とキャッシュに換わる!~在庫コントロールのための組織づくりの秘訣」

次回は7月21日(木)開催です。

・なぜ過剰在庫を抱えてしまうのか?
・どうして思うような利益が稼げないのか?
・毎シーズン、売れ残り在庫が増えるのはなぜか?

たった3時間で現状の自社の在庫コントロールの問題点が総点検でき、これから進めるべき優先順位が整理できるお得なセミナーです。

詳しくはこちらから→ https://dwks.jp/seminar2022/

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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April 11, 2022

メルカリが物流子会社「メルロジ」で取り組む、持続可能な宅配物流量平準化へのチャレンジ

Photo_20220418000101 4月8日の日経新聞にメルカリが物流子会社「メルロジ」で、
「ゆっくり宅配」の選択肢を顧客に提供し、近年パンク状態の宅配物流の物量平準化に取り組むことに関する記事が掲載されていました。
記事によれば
日本の宅配件数は現在、年間50億個もあるそうですが、
そのうち、アマゾンが約7億個で全体の14%を占め、
メルカリもそれに迫る全体の約1割の約5億個にまで増えているそうです。
そして、コンビニから発送される宅配荷物のなんと、8割はメルカリ関連のものとのこと。
そこまで宅配に占めるシェアが高くなれば、メルカリ自身も、他人事ではなく、社会的な役割が問われて来るというわけです。
こちらも記事内で紹介されている宅配物流業界の情報ですが、
日本の営業用トラック便の積送効率は20年度に4割を切った模様で・・・
これは、つまり、スペースの6割以上は空の状態でトラックが走っていることを意味しています。
以前、小口のオンデマンドで運ぶゆえ、宅配物流の往復積載効率は4割程度が実状と運送業界の方が嘆いているのを聞いていましたが、
企業間物流(BtoB)はもっと積載効率は高いと思うので、平均が4割を切るとなると、
宅配(BtoC)だけでみるともっとひどい状態になっているということでしょう。
加えて宅配には再配達もありますし・・・
つまり、そんな非効率な状態では、荷主は一個あたりの宅配運賃は満載状態時と比べて
2.5倍相当の料金を払わされてもおかしくない、という話です。
そんな状況の中で、
これまで「安く、速く」が競争の常識だったEC宅配の世界で、
ゆっくりでいい人は送料が割引、あるいはポイント付与のようなサービスを増やして行こう
という試みが「ゆっくり宅配」の目的です。
需要の都度、荷物が動くBtoC宅配だったとしても、
上手く、定期ルート便の物量を平準化することにより、出来るだけ顧客の近くまでBtoBで運ぶことによって実現するチャレンジ。
元アマゾンの物流責任者だった方がメルカリに転身し、
「速さ」とは180度違う観点で取り組む物流プロジェクトというから面白いことになりそうですね。
上手く軌道に乗り、将来は、メルロジがメルカリ以外の他社の荷物も運ぶサービスを提供するようになることを楽しみにしています。

 

記事を読んでいて思ったのですが・・・

日本の企業って新しい施策に取り組む際
競合他社を見て競合対策で取り組んだり、
社内の業務の都合で導入が決まることが多く・・・
顧客の立場で考えるって視点が欠けている
顧客不在の議論をしている企業が結構多いなって、いつも感じるのは私だけでしょうか?
送料の安さや速さを競うスピード配送しかり。
特定の部署だけが導入する部分最適なDXと呼ばれているソリューションなんかにも多いなって感じます。
そして、その結果、どこかに皺寄せが来たり、無理強いが起こるわけです。
そのツケを顧客が払わされるとなると最悪です。
配送のスピードについては、
確かにお客さんの中には、「速く」を希望する方もたくさんいらっしゃるとは思いますが・・・
選択肢を提示すれば、自分の都合で店舗へ取りに行く方もいらっしゃれば、
急いでないから、あるいはいつでもいいからできるだけ安い選択肢を好む方もいらっしゃいます。
そんな顧客の要望の多様性を理解して、上手くミックスして、知恵を絞ってサービスを提供することこそが、
これからの持続可能な経営のカギになると思っています。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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February 28, 2022

ファッション流通企業のこれからの物流戦略考

32cimg0465_20220302185801先日、フルカイテンさん主催のオンラインセミナーに登壇させていただき、

アパレル小売業がEコマースの拡大によって増える物流問題にどう向き合うかをテーマにした対談をさせていただきました。

在庫コントロールやサプライチェーンを専門にしていると・・・

商品をどう運ぶか、どう最適配分するかを考えるにあたり物流問題は常にセットで考えて来たものでした。

但し、これは企業間(BtoB)物流です。

しかし、今、エンドユーザーへの宅配(BtoC)を含め、小売業は大きな岐路に立たされています。

長年、小売企業において経営課題となる2大販売管理費項目は

店舗の家賃と人件費でした。

注文した商品が作られてから販売拠点まで届ける物流費の多くは
これまで仕入先が負担してくれていましたし、

お客様(エンドユーザー)は店舗に足を運んで買いに来てくれていたので、

小売業にとって物流費はこれまで、どちらかと言うとマイナーな経費の位置づけだったかも知れません。

 

しかし、Eコマースが増えるにあたって、小売業自身が顧客に届けるための経費が
着実に膨らみはじめています。

例えば

ユニクロを展開するファーストリテイリングや
大手セレクトショップのユナイテッドアローズ

などの決算書を見ても

5年前には掲載の無かった荷造運賃や物流業務の委託費が

「主な販売管理費項目」として開示されるようになったことでもわかるように

小売企業にとっても物流費は大きな経営問題のひとつに入る時代になったのです。

 

物流はそもそも企業間(BtoB)で

中継をしたり、
積送効率を高めたり、
往復便を無駄なく活用したり

工夫をしながら効率を高めて来た長い歴史はあるものの

こと宅配(BtoC)となると歴史はまだ浅いため

往復平均積送効率が40%という業界関係者の話を聞くと
まだまだ改善の余地はありそうです。

そして、小売業にとってそれまでそれ程かからなかった経費が主な販管費になり、更に増え続けるのであれば

損益の取り方、ビジネスモデルを根本的に見直さなければならないことは
言うまでもありません。

これは、ファッション小売業に限らず、
デリバリーの需要が高まる外食産業他、異業種にも言えることでしょう。

経営にインパクトがあり、なおかつ
顧客と約束し、お届けする最前線を物流が担うとなると

店舗の立地と世界観や接客とも並ぶ
損益と共に提供クオリティも考える必要も出て来るかも知れません。

顧客最前線の現場に即して、働く人の生産性を高めながら、

最大限の粗利を獲得できるように
在庫コントロールを実践することを考えて来た観点からすると

物流費はこれからは

抑える経費

という考え方より

営業利益の原資である
粗利を最大化するために

上手に使う、

つまり、かけるからには

いかに生産性が高まるように投資をするか

と考える必要がありそうです。

商品在庫は
適時適所適量を実現すべく

つまり、ムダなところに在庫は置かずに
粗利を稼ぐところに配置する

これはこれまでも物流に対するポリシーなくしては語れませんでした。

それは商品部に属するスタッフ
(MD、バイヤー、DB、在庫コントローラー、フィールドMDなど)が
粗利と共に在庫に責任を持つ立場だからできることでした。

そして、これからは、

EC担当者も、

更に今までは管理部門に属していたかも知れない

物流担当も

販売管理費(経費)の一部としての
物流費だけを見るのではなく、

生産性つまり、
物流費を効率よく活用することで
いかに粗利を高めるか、という

粗利と費用の双方の視点から見ることができるようにしないと
粗利最大化に向けての企業の目的に歯止めをかけてしまいかねません。

ところで、チェーンストア経営で以前から重視されている
指標に「分配率」という指標があります。

稼ぐ粗利のうちどれだけを

人件費に分配するのか
を表す「労働分配率」

家賃に分配するのか
を表す「不動産分配率」

広告宣伝に分配するのか
を表す「販促分配率」

など

物流費が大きなウエイトを占めるのなら
今後、「物流分配率」という考え方も
登場してしかるべきです。

※物流分配率は、すでに使っていらっしゃる企業もあるかも知れませんが、
 筆者の造語(思いつき)です。

労働分配率を一定とした時
現場の工夫で増えた粗利は

人件費のアップ、
つまり賞与の原資として使われて来たものでした。

であれば物流分配率についても

物流分配率一定として
現場の工夫で増えた粗利は

物流関係者の人件費増という
モチベーションのしくみをつくってもおかしくはないはずです。

物流セクションが粗利を稼ぐ
生産性を高めて営業利益を増やす

そんな物流部門のプロフィットセンター化に向けて
いよいよ動き出す時が来たのではないでしょうか?

多くの従業員が自分の担当数値責任ではなく、
企業や事業や担当部署のPL(損益計算書)で考えられる全員経営へ。

右肩上がりではない市場においては、
売上高だけを見ていては戦えません。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【セミナーのお知らせ】2022年3月24日(木)15:00~18:00 

筆者本人から直接学べる、経営者様、事業責任者様向けビジネスセミナー

3つの視点を共有すれば、過剰在庫が粗利とキャッシュに換わる!
利益は倍増!!
「ファッションストアの在庫コントロールのための組織づくりの秘訣」
 2022.3.24 15:00~18:00 @オンライン開催 

たった3時間で、現状の在庫コントロールの問題点を明らかにし
これから何に取り組んだらよいかの総点検が出来る
企業経営者様、事業責任者様向けの内容です。

定員8名様限定の少人数有料セミナー(残席あり)

セミナー詳細&お申込みはこちら
https://dwks.jp/seminar2022/

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February 07, 2022

ショールーム店舗から3層構造で利益を得る、丸井(マルイ)の収益構造

B8ta1月26日の日経MJに「売らない店」と称して、ショールーム店舗の入居に積極的な
丸井グループの記事が掲載されていました。

丸井はその昔、アパレルを中心に販売する百貨店の1社とくくられていましたが
(実際は月賦百貨店)、

現在の丸井グループの決算書を見ると、

セグメント別売上収益は 小売 4割 フィンテック 6割 
同売上総利益(粗利)は 小売 3割 フィンテック 7割
同営業利益は      小売 2割 フィンテック 8割

の構成比で、

小売セグメントの粗利の6割強が家賃収入から得られ、フィンテックと呼ばれる事業セグメントのマジョリティは
エポスカードなどのクレジットカード事業であり


クレジットカード手数料、キャッシング、賃料の3つで粗利の75%を稼いでいる のが現実で

従って、同社は小売業(リテール)ではなく、金融・不動産会社と言った方が適切かも知れません。 

この転換は、かつての「百貨店」の生き残り方の1つの答えだと思っています。

そんな丸井グループの子会社である株式会社丸井の社長の青野さんのショールーム店舗に対する取り組みに関するコメントの中で
興味深いコメントがあったので取り上げてみたいと思います。

以下「  」内は記事からの引用です。

 

「売らない店のような体験型のテナントもアパレル(に貸すの)も、
とれる家賃は一緒。それだけでは成長戦略にならない。」

 

「丸井は小売りだけで利益を出すのではなく、
フィンテック、共創投資と3層構造で利益を得られるのが特徴だ。」

 

「他の商業施設はQRコードを付けて在庫を持たないような「売らない店」をすることはできても
収益を3層構造にできるかというと難しく参入障壁が高い。」

 

「まず「売らない店」がテナントとして入れば家賃として小売の収入が上がる。
次に丸井グループが発行するエポスカードにテナントから入会する人が増える。
テナントのファンがカードを丸井の外でも使えば加盟店手数料が入る。
さらに、共創投資先がBASEや駿河屋など30社以上あるが、
それらがリアル店舗で顧客を拡大して成功すると株価が上がったり、
IPOしたりして投資収益を得ることができる。」

とのことです。 コメント引用は以上です。

多くの商業施設が、空きスペースを埋めるために、
流行りの未来型テナントとしてDtoCを標ぼうする企業たちのテナント誘致をしていますが、
そのトレンドに乗るだけでは、今までと変わらない、儲からないだろう、
と自信を見せているコメントです。

丸井の場合、正直、自己資本比率は高くありませんが、
ある意味、「金融会社」なので、資金調達力があります。

これで、まずは高利回りの稼ぎ頭である、
金融(フィンテック)事業を回す。

逆に言えば、ここが回っていれば、心配はありません。
世の中で最も強いビジネスのひとつですから。

そして、かつては自前でも商売していた自社物件(館)を活用しながら、
今は自社販売ではなく、家賃収入を得る。

他人資本を上手く活用して金融と不動産を回しながら、
積み上げる自己資本で未来型企業に投資をするという
投資会社になろうとしているわけですね。

正直、現在投資されている先が思うように収益化するか、
また、出口が見つかるかどうかはわかりません。

しかし、金融事業という強い事業の後ろ盾を持ち、
未来に向けて投資会社として変化しようとする姿には
力強さを感じたものでした。

 

話は変わりますが、ここのところメディアで目につく
「売らない店」という表現には違和感を感じています。

日本で開業するショールーム店舗は、なぜか頑なに、
売らないとか、在庫を持たないとか、購入はオンラインで、とか・・・

寸止めというか、小売業の役割を放棄して、企業の都合を押し付けている感じがしてしかたありません。

商売なんだから、売ったらいいんじゃないでしょうか。
買った商品を持って帰れるのも、大きな顧客満足のひとつです。
 
お手本にされている海外のショールーム店舗の多くはある程度在庫を持ち、持って帰りたい顧客にその場で売っていますよ。

在庫が切れている時はオンラインで買ってね、と薦めて来ますが。

なんか、カタチだけではなく、顧客の立場で考える覚悟も 是非、見習って欲しいものです(笑)

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 これから10年先のファッション消費の未来のカギになることは何? 世界で進む、顧客の購買行動の変化に合わせたオン・オフ問わないオンラインの活用、そして顧客のクローゼットを起点としたサステナブルな取り組みとは?いずれにせよ、カギとなるのはお客様のストレスの解消しようとする情熱とそれを実現するイノベーションに他なりません。

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January 31, 2022

Amazon(アマゾン)が解決しようとするファッションストアの課題とは?

Amazon-go

アマゾンが初のリアルファッションストア、amazon style (アマゾンスタイル)を今年の年末までにロスアンゼルス北部のグレンデールにあるオープンモール型ショッピングセンター、アメリカーナ・アット・ブランド内にオープンするそうです。 

The AMERICANA at Brand

amazon styleの売場面積は848坪、同SCのHPにあるダイレクトリーを見るとH&Mの隣になる模様。

同ショッピングモールはノードストロームがアンカー(核)テナントになっていて、
ハイブランドは入っていませんが、J.CrewやLulu LemonやAnthropologieやNike Community Storeなど中の上くらいのブランドが多いようなので、だいたい客層は想像できるでしょう。

ここ、以前「ライフスタイルセンター」というキーワードが話題になったころ、10年近く前でしょうか、
一度、視察に行ったことがあるところです。

品揃えは、メンズ、ウィメンズ、靴、アクセサリー

基本セルフ販売で、程よくコーディネート提案をする売場の中で、

・気になった商品のQRコードをショッピングアプリでスキャンして詳細を知り、

・試着したい場合は、試着予約をして試着室に用意ができればアプリにお知らせが来る

・試着室内のタッチスクリーンで他の色、サイズ、商品をもって来てもらうことも可能

・試着不要であれば、注文後、ピックアップカウンターからそのまま持ち帰ることもできるようです。

また、

・オンラインで見つけたものをアマゾンスタイルに取り寄せ、試着することも可能。

・店舗で一度スキャンした商品は、帰宅後に再考できる。

という オン↔オフを行き来する顧客のシームレス体験も可能とし、

過去に購入したり、閲覧したり、スキャンしたりした商品からAI(機械学習)による商品のレコメンドもしてもらえるそうです。

amazon styleがどんなイメージになるのか?のビジョンはこちらの動画ではっきり紹介されています。

amazon style

 

amazon go(アマゾンゴー)でコンビニの

amazon books(アマゾンブックス)で書店の

顧客の店舗でのお困りごと(ペイン)を見事に解決したamazonが・・・

果たして、ファッションストアにおいて固有のどんなお困りごとを解決しようとしているのか?

ニュース記事で読んだり、この動画を観る限り、

さすが、顧客の「ナラティブ」から発想するアマゾン、

かなり、現在、顧客の立場になったら考え得る、ファッションストアにおける顧客ソリューション型の

OMO(Online merges with Offline)のビジョンを実現しようとしていますね。

そして、そのビジョンは、

アパレルの世界王者である、ZARAが

2018年に六本木で行ったONLINE POPUPストアの試みにかなり近いものがあるというのが筆者の見立てです。

そして、あの時のZARAの試みよりも、更に優れているのは・・・

・多くのブランドの中から選べること、

・オンラインで見た商品を店舗に取り寄せて試着できるところ、

そして、

・購入した商品をその場から持って帰ることができるところでしょうか。

(ZARAの場合は、当時、午前中注文したら、夕方以降に店舗で受け取れる、あるいは宅配の選択肢でした)

どうぞ、みなさんも動画を観て、未来のファッションストアを想像してみてください。

年末のオープンが楽しみですね。

筆者もいずれ、海外渡航に自由に行けるようになったら、

いの一番に体験しに行きたい店舗のひとつだと感じました。

関連エントリーー【アメリカ西海岸リサーチその1】 ストア側からのデジタル化が進むアメリカ amazon books、 amazon go 、そしてNikeが実現しようとしていること

関連エントリーーナラティブ(顧客を主人公にした物語)から考える

 

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 これから10年先のファッション消費の未来のカギになることは何? 世界で進む、顧客の購買行動の変化に合わせたオン・オフ問わないオンラインの活用、そして顧客のクローゼットを起点としたサステナブルな取り組みとは?いずれにせよ、カギとなるのはお客様のストレスの解消しようとする情熱とそれを実現するイノベーションです。

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December 27, 2021

EC発人気レディースブランドのキーパーソンたちが語るSNS時代の顧客目線

Photo_2021122712300112月22日、23日の繊研新聞にEC発の3つのレディースブランドのキーパーソンへのインタビュー記事が連載されており、楽しく読ませていただきました。

3ブランドとキーパーソンとは、アメリのCEOの黒石奈央子さん、エトレトウキョウのクリエイティブディレクターのJUNNAさん、トゥデイフルのライフディレクター兼デザイナー吉田怜香さん。

記事の中で、なるほど、と共感した部分を引用しながら、顧客と共につくるブランディングの視点について考察してみたいと思います。

まずは、アメリの黒石さん

10月に定額制会員サービスを始めたそうで、社内で定額課金(サブスク)サービスを「アメリ」らしく行おうと話し合った結果、設けた特典のひとつが、

「人気商品は即完売することがあり、会員が欲しい商品を発売前日に購入できる」

というサービス。

これ、いわゆるファストパス的なサービスですよね。

アメリのサイトによれば、その他に限定アイテムの発売、購入時の送料無料、ポイント2倍、会員限定Instagramへの招待があるようです。

世の中のポイント還元を中心とした「会員制」は年間購買額に応じて沢山買ってくれる人ほど、たくさんの割引を受けることができる、というしくみが圧倒的に多いですよね。

筆者はその「常識」(?)に、少々違和感を持っていましたが、

ファンが高額購入または定額課金でブランドの利益と事業の継続を支える、ブランドは支えて下さるファンに割引だけに頼らない「特権」で報いる。

そんな定額課金に基づく会員制によるファンづくりが・・・

これからリテーラーに広がって行くような気がしていたので、いい顧客育成アプローチだな、と思いながら読んでおりました。

 

次に、エトレトウキョウのJUNNAさん

インスタライブでいつも「愛を持って服を育てることは人生を豊かにするよ」と話している、という話。

「例えばニットを売るときも、商品の話ではなく、手入れの方法を伝え長く着てもらう知恵を共有します。」(「」内引用)

「できる限り、数年前に売った服を今も着ているとも伝えています。好きな服をずっと着てもいいんだという安心感は信頼につながっています。」(「」内引用)

とのこと

今年の服を売る、新しい服に着せ替えるのがアパレル企業にとっての「常識」ですが・・・

一方で、お気に入りを長く、賢く着たい、そこに上手く新しいものを取り入れたい、というのが顧客側の「常識」です。

これまで、店頭接客(ECも)はそのギャップの葛藤の連続だったと思います。

売り手が、販売する時に、「長く大切に着てね、こうすれば長持ちする」とか、「(私も)数年前のものも大事に着ている」と伝えることは、買い手に優しい、共感を生むコミュニケーションではないか、と、とても共感したものでした。

 

最後にトゥデイフルの吉田さん

「前シーズンに出した服を翌年に売ることもあります。
私は数年前の服でもお気に入りはインスタグラムに載せるのですが、それを見た顧客から「怜香さんも3年愛用しているんですね」との共感もある。2年目とか3年目に売れる服もあります。」(「」内引用)

 

「SNSに強いから自分が前に出て新しい服をすすめないといけない。
けれど、「これ可愛いです。長く着られます」って毎年新作を見せることには違和感がある。私は良い服を長く着る提案をしていきたい。」(「」内引用)

これが、顧客目線の等身大的な発想だと思うのですよね。

新しい服を売り込まなければならない企業 

以前買った服を大切に、上手に今年風に着たい顧客

売り手の都合を押し付けてばかりいたらギャップはますます広がることでしょう。

サステナブル(持続可能)って、別に環境に優しい素材でつくればよいって話だけではなく、
売り手の都合だけでなく、買い手の購入や入替をストレス少なく、持続可能にすることが大事なことだと思っています。

この記事に登場したご本人たちはファッションリーダーであると共に、こういった顧客目線、等身大的発想のできる方々。

そんな視点が、ますます共感を生み、事業を持続可能にするキーワードのひとつなのではないか、とあらためて感じたものでした。

追伸 舞台が店頭からオンライン、SNSコミュニティにも広がっただけで、実は昔から同じ話です。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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December 20, 2021

アパレル国内生産回帰は進むのか?~仕入原価が上がっても、値下げを抑えることで、利益を高める商品調達戦略へのチャレンジを

Photo_2021122013060112月15日の日経新聞1面にワールドやTSIなどの百貨店で販売する大手アパレルが国内生産回帰をする動きに関する記事が掲載されていました。

コロナ禍で海外生産のサプライチェーンが混乱し、海外調達の原価高騰も相まって、海外で生産するメリットが薄れて来たため、国内生産比率を高めて、商品の安定調達をしようというものです。

この記事を読まれて、

・これまで金額ベース79%、数量ベース98%まで進んだ輸入浸透率(国内流通品の海外生産比率)を、一体どこまで国内生産に戻せるのか、

・海外生産が進んで、減り行く国内の縫製現場において、果たして優良な生産委託先がこれからどれだけ確保できるのか、

・一旦は、多少国内生産に戻っても、また、いずれは海外生産に戻る、を繰り返すだろう

などなど、業界関係者の中では、いろいろなコメントがあるかと思います。

筆者がこの記事の中で注目したいのは、

「国内生産は海外と比べてもコストは高い。注文から納品までの時間短縮などで廃棄ロスや機会損失を大幅に削減してコスト上昇を相殺できるとみる。」

という正論の部分です。

つまり、国内での安定生産を

これから「腰を据えて継続する」上でカギを握る、損益の話です。

これ、業界では、長年、何度も繰り返して来た議論になりますが、

ベーシック商品はともかく、シーズントレンド商品に関しては、
遠くでつくるほど、在庫リスクを抱え込むことになります。

季節性やシーズントレンドがあるファッション商品は
いくら製品の仕入原価を数十%抑えることができるから、と
人件費の安い国で、安くつくったとしても、

生産ロットが大きくなったり、
リードタイム(生産期間)が長くなることで、
在庫リスクを抱えてしまうことになりかねません。

適時適価適量でうまく売り切ることができればよいのですが、
そもそも、原価が安いのには理由があるわけで・・・

そこにコスパを感じられなければ、
それに敏感に気付く消費者は購入を見送るでしょう。

シーズン末までに売り切れない在庫量を抱えることで、
安易に30%OFF、50%OFFと大幅値下げをすることになれば、

せっかくの当初の数十%の原価低減努力も、
あっけなく、水の泡になりかねないという話です。

値下げという行為は、結局は売上原価に回って、粗利を減らしてしまうものですからね。

古くからアパレルビジネスに携わる人の中には
「バーゲンが一番儲かる」という方が少なくありません。

妙な話に聞こえるかも知れませんが・・・

つまり、値下げをすることで、販売数量が増え、
売上額、粗利額が大きくなるから、


値下げに耐えうる原資が確保できるように
低原価構造で値入をガッツリとって商品を調達しておけば儲かる、
という考え方をお持ちの方々です。

商業施設歩率家賃の高さや割引キャンペーンやタイムセール
また、ECモールのクーポンの乱発に対しても
同様の考え方で臨む経営者もいらっしゃいます。

筆者は、そういった考え方が、
であれば、安く作っておけばよい、と
原価率を下げるためのアパレル生産の海外シフト、
そして、東南アジア、南アジア方面への南下政策を誘発している
要因のひとつであると見ています。

国内から中国へ、そして東南アジアに生産地を移転したことで、
果たして、どれだけ原価が下げられたのでしょうか?

もし、それが、結果行ってしまう値下げ額に及ばないものであったら、
その生産地移転は本当に意味があったのでしょうか?

という話です。

仮に、シーズン通して、プロパー価格(当初販売価格)から
平均30%相当の値下げしているとした場合、

ちょっと無茶なことを言いますが、

今後、もし、一切、値下げをしない覚悟ができるのであれば、

その分、つまり値下げしていた分、
そのまま仕入原価をアップすることに充当できるはずです。

あるいは、
一切値下げをしないとまでは行かなくても、

値下げしていた総額をこれまでの半分にでも抑えることができれば・・・

仕入原価率35%のブランドは、


仕入原価が今までよりも3割高くても
損益は成り立つのではないでしょうか?

更に

百貨店ブランドのような仕入原価率20-25%のところであれば、

値下げを半分に抑えることで、
仕入原価は5割以上高めても、
今まで同様の利益が残るのではないでしょうか?

計算上、原価率が低ければ低かったところほど、
値下げ抑制効果は仕入原価アップを可能としますから。

そうすると、販売価格によっては国内生産も十分可能になる企業も出て来るはずです。

むしろ、商品原価が上がり、コスパが高まれば・・・


値下げの心配はしなくても、
自然にプロパー(定価)で売れる比率が高まり、

以前ほど数量を売らなくても、売上が増え、
「粗利率」は下がるかも知れませんが、「粗利額」は増え、

数量を沢山売らなくて済むことで、

在庫が減り、

販売スタッフの負担が少なくなり、

物流経費、管理コストが減り、

営業利益は増えるのではないでしょうか?

理屈ではわかっても・・・

これ迄、そのようにできなかった理由をひとつひとつ潰して・・・

何年かに一度のサプライチェーンの見直しの転機である今こそ、

是非、腰を据えて、経営者さんが覚悟を決めて、
持続可能で、お客様にも企業にためになる
商品調達戦略に取り組んでいただきたいところですね。

この日経の記事の最後の部分で

世界で「ニアショアリング」と呼ばれる、消費地に近い場所での生産が海外アパレル企業の間で広がっているという解説があります。

ニアショアリングとはオフショアリングの反対語で、

人件費の安い海外にリスクを取りながらアウトソーシングする後者に対して、

前者は同じ国の地方、または近隣国にアウトソーシングをするという意味です。

記事によれば、米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、

38の国際的なブランドや小売業の7割が、今後、ニアショアリングを増やす計画とのこと。

2013年のラナ・プラザの大惨事以降、2015年のSDG'sの世界的広まりもあり、
特に5-6年くらい前から欧州の大手アパレルチェーンを中心に

オフショアリングとニアショアリングの使い分けの傾向が増えて来たことを筆者は感じていました。

ちなみにZARAを展開するインディテックスグループは、古くから、

・トレンド商品は近隣国で生産し、

・コスパで勝負のベーシックはアジアにアウトソーシングする

というポリシーを貫き、ここで言う、ニアショアリングとオフショアリングを商品特性ごとに使い分けて
グローバルで成功している先進事例と言えるでしょう。

多くの業界が、顧客が求める、商品の特徴ごとに商品調達戦略とサプライチェーンを組み直す、
今はそんな岐路に立たされている時です。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】先行するZARA、追いかけるユニクロ。ZARAの背中を見ていれば、まだまだやることはたくさんありそうです。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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December 13, 2021

ZOZOの商品取扱高手数料収入以外の収入に注目

20211214_160350WWDJAPANに月イチ連載中「ファッション業界のミカタ」(ファッション流通企業の決算書の見方)。

今週発売のvol.32(12月13日号)ではZOZOの上半期4~9月期決算を取り上げさせて頂きました。

引き続き、ZOZOTOWN、PayPayモールを合わせた商品取扱高は拡大中。

ZOZOTOWN事業の伸びが鈍感していますが、PayPayモール側の伸びでカバーしています。

ここ数年気になっていた、低価格を望む客層の買上増に伴う、平均商品単価および出荷1件あたりの単価の低下は止まりませんが・・・

当期は物流費、決済手数料などEC販売でかかるメジャー販管費を効率化して、出荷一件あたりの利益額を高めているところに、既存事業収益化の努力の表れが見えます。

本紙では前年比だけでなく、5年以上の時系列比較をしていますので、是非、グラフや図表をご覧ください。

今、そして、これからZOZOの決算を見る上で注目すべきなのは・・・

商品取扱高以外の収入(売上高の中の出荷手数料以外の収入)です。

これらは売上高=粗利なので収益性向上に多いに貢献します。

今回(上半期)、特筆すべきは広告収入の前年比倍増です。

また、十数ブランドを対象に今期リリースした、

ZOZOで見た商品を、ブランドの顧客近隣店舗在庫を取り置いて、

顧客は店舗で試着した上で購入出来るサービス=ZOZOMO(ゾゾモ)に注目しています。

現在は、無料でブランド側に提供しているOtoOサービスですが、将来、商品取扱品の販売手数料以外の、広告収入に次ぐ収入としてマネタイズして行かれることを楽しみにしています。

あと、今回の決算発表では触れられていませんでしたが・・・

ZOZOTOWNのトップページのパーソナライズの準備が着々と進んでいるようです。

これが実現すれば、ZOZOTOWN事業も単価下落に終止符が打たれ、飛躍するのではないかと見ています。

日本最大のファッションテック人材を有する同社のユーザー最適へのチャレンジ、

引き続き、楽しみにしています。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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