April 19, 2021

前年比だけにとらわれない経営を

2昨年(2020年)3月から業界がコロナショックの影響を受け始め、
多くの企業で前年同月の実績と今年の同月の業績の対比(前年比)が困難になりました。

そのため今年は前々年(2019年)の実績を参考に計画を立てたり、
今年の実績を前々年対比でどうなのかを評価する機会が増えました。

販売検証をする実務の現場では、以前から前年に異常値があると、2年前対比や3年前対比はよくやる切り口なのですが、

ここのところ、各メディアのニュースでも「前々年対比」に触れる記事が多くなったように感じます。

これは2011年の東日本大震災時が比較にならなかった2012年の時以来でしょうか。

もちろん、災害については、心から、二度と起こらないことを祈りますが、
世の中が前年比だけにとらわれず、今後も、もう少し長い視野(スパン)で業績評価をするようになる傾向については歓迎したいと思います。

そもそも、「前年対比」は、平時においては、

上場企業であれば、既存店売上高の前年比が目先の株価に影響したり、

営業現場では、売上が予算に届かない時に、
予算には届かなかったが、前年よりは売れている、など、前年比を言い訳に引っ張り出すなど・・・

ある意味、最も身近な尺度のひとつかも知れません。

一方、「前年比」は比較しやすい(出しやすい)ものの、前年の状況次第では参考にならない尺度であることも少なくありません。

前年が天候やトラブルで売れなかった、逆に特需があったなど
前年のハードルが低ければ前年比が大きく伸びるのは当たり前、その逆もそうです。

特に、小売業はどうしても「前年比」という短期視点に一喜一憂しがちですが・・・

もう少し中期から長期視点で事業の推移を見るべき(3年平均成長率など)である、ということは、

筆者が「ユニクロ対ZARA」の取材時にスペイン、インディテックス社のインタビューに伺った際に、同社広報部の方とのディスカッションの中で気づかされた視点でもありました。

そんな経験もあり、同著執筆以降は、面倒でありますが3年から5年分を時系列に並べて業績を観察することを習慣というか、肝に銘じています。

特に、特定の事業のこれまでの軌跡や健康状態やライフサイクルを知る上で、取っ掛かりとしての長期(5年から10年)時系列推移分析は有効です。

グラフにして、売上や営業利益のアップダウンに着目して・・・

売上や営業利益のピークを発見し、そこで何が起こったのかを深堀りし、その時と比べて、今、何が良くて何が悪化しているのかを見て・・・

今後の伸び代や、改善余地や次の目標を考える。

これ、ここ5ー6年、筆者がコンサル現場でも、よく行っているアプローチです。

最近の例で言えば、前回のしまむらのエントリーであれば、

まず、同社の2000年以降の業績を時系列で並べてみると(以前WWDジャパンの連載で行いました)、

2017年2月期がここ20年間の売上高、営業利益のピークがあることがわかるので、

その時と比べて、足元は何が良くて、何がいまいちなのかを要素ごとに分析したりするわけです。

ところで、WWDジャパンに月イチで連載させて頂いている、
上場企業の決算書の見方を解説しながら、業務改善の切り口を浮き彫りにする連載記事

「ファッション業界のミカタ」

はおかげさまで連載スタートから2年が経過し、3年目に入りましたが、

ここでも、決算書を前年比だけではなく、3年以上時系列で見ることを心がけています。

ご存じのように、通常、決算書は前年比で構成されているので、
3年以上を比較するには、最低2期分以上の決算書を見て並べないといけないことを意味しています。

ひとつの企業にフォーカスして分析する時は

●10年以上の時系列で見て、気になるところを深掘りする

●売上高ではなく、営業利益で考える

●利益を生み出すビジネスモデル(経費構造、BS構造)から考える

また、

●公表されている数値どうしを割り算をして、
単価や単位あたりと言った、購買行動や経営の最小単位にして、その効率の推移を見て考える

●年間ではなく、四半期に分解して、複数年度比較して、アパレル特有の季節ごとのその企業の特徴やクセを掴む

などが、筆者がよく行うアプローチです。

企業の業績は、当然「顧客購買行動」なしには語れませんし、

企業の戦略、戦術には必ず経営者さんや企業のイズムやポリシーが表れますから、

決算書の数字を通して、頭の中で勝手に経営者さんや経営幹部さんと対話をすることを楽しむことにしています。

話を元に戻すと、

大変な時も、平時も、業界企業が健全な中長期ビジョンに基づいて経営するために、

前年比にとらわれず、中長期で業績を考えることを推奨したいと思っています。

【WWDジャパン主催 オンラインセミナーのお知らせ】

5月後半からスタートする、WWDジャパン主催のオンライン連続セミナーに登壇いたします。
昨年は「ユニクロ対ZARA 2020」に登壇させて頂き、好評を頂きましたが、
今年は、世界アパレル専門店企業トップテン、ZARA、ユニクロ、ZOZOの決算書から読み取るべきことが各回のテーマです。
まずは、peatixで申し込みが始まりました。
今回は、ウェビナーではなく、対話型で進めますので、人数限定です。
お早目にお申込み下さい。
WWDジャパン主催オンライン連続セミナー「ファッション業界のミカタ」

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARA。これから進む道も、経営者の経営信念、ビジネスモデルとその変遷を理解すれば、見えて来ます。両社の比較分析が、未来のアパレルビジネスを考える上で、とても参考になると確信しています。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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April 06, 2021

世界アパレル専門店売上ランキング2020 トップ10

4cimg0441 世界中がパンデミックの影響を受けた2020年度。 世界の大手アパレル専門店各社の決算が出揃い、売上高や営業利益などをまとめる機会ができましたので、毎年恒例になりました売上高ランキングTOP10を共有させていただきます。

 円建て比較にあたり、為替レートは2021年1月末の €=127.04円、スウェーデンクローナ=12.54円、US$=104.21円、英国£=142.95円で換算しています。 

順位 社名 本社;決算期 売上高 前年増減 営業利益 営業利益率 期末店舗数 基幹業態
1位 インディテックス (西;2021.1期) 2兆5,918億円 -28% 1,914億円 7.4% 6,829 ZARA
2位 H&M (瑞;2020.11期) 2兆3,453億円 -20%  388億円 1.7% 5,018 H&M
3位 ファーストリテイリング (日;2020.8期) 2兆0088億円 -12% 1,493億円 7.4% 3,630 UNIQLO
4位 GAP (米;2021.1期) 1兆4,380億円 -16% -898億円 赤字 3,715 OLD NAVY
5位 Lブランズ (米;2021.1期) 1兆2,344億円 -8% 1,645億円 13.3% 2,669 Bath&Body Works
6位 プライマーク (愛;2020.9期) 8,436億円 -24%  517億円 6.1% 384 Primark
7位 しまむら (日;2021.2期) 5,426億円 +4%  380億円 7.0% 2,199 しまむら
8位 NEXT (英;2021.1期) 5,183億円 -17%  548億円 10.6% 491 NEXT
9位 アメリカンイーグル (米;2021.1期) 3,917億円 -13% -282億円 赤字 1,078 AEO
10位 アーバンアウトフィッターズ (米;2021.1期) 3,594億円 -13%      4億円 0.1% 645 Anthropologie

※お断りですが、大手企業の中で、アメリカのTJXやROSSのようなオフプライス・ストアは過剰在庫の買取販売が中心ということで、除外させて頂きました。
また、非公開企業で欧州大手アパレルチェーンC&Aおよび中国で急成長中の越境ECファストファッションSHEIN(シーイン)あたりもTOP10にランクインする規模と思われますが、それぞれ、売上高がつかめなかったため、除外しております。                              

【解説】

全体を見渡すと、経営破綻した米アセナリテール(前年7位)が消え、10位以下に控えていたアメリカ企業がランクインした格好ですが、上位6位までのランキングは2019年と変わりはありません。

以下、1位から5位について、そして、気になるところにコメントさせて頂きますね。

1位のインディテックスは

通期コロナの影響を受けて大幅減収、減益も、7.4%の営業利益率を上げたのはお見事でした。

全世界の店舗でRFIDの導入と各国EC在庫と店舗ストックルーム在庫の一元管理が完了し、世界のどのアパレル専門店よりも、いち早くオムニチャネル化が完成した、と言ってもよいでしょう。

EC売上比率は店舗の売上減もあって33%に。これからは同社のDXは顧客のスマホを使った店舗での拡張体験へ、そして、次のテーマである、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に力が入ります。

関連エントリーーZARA(ザラ)のインディテックス2020年度決算。大幅減収減益も、全世界でECと店舗の在庫一元化が完了し、盤石体制に。

2位のH&Mは

第1四半期に売上、利益の改善が見れたものの、その後、3つの四半期がコロナの影響を受けて、大幅減収、減益も、何とか黒字着地させた経費コントロールと仕入コントロール力はさすがです。

店舗閉鎖の影響もあり、EC売上比率は28%に。

これからは、遅れていたデジタル化へのアクセルが回復のカギとなるか?それとも、やはり、低価格品はECでは損益が取りづらく、苦戦するのか?注目の1年になります。

関連エントリーーH&Mとインディテックス(ZARA)の決算進捗に見る パンデミックの欧州グローバルチェーンの業績への影響

3位のファーストリテイリングは

年間のうち、半期分、コロナの影響を受けながら、市場は日本、中国が中心。欧米に比べ、市況回復が進んでいるため、欧州勢よりは、有利な環境と言えるでしょう。

特に国内ユニクロ事業の第4四半期の体質改善と踏ん張りは、柳井会長の執念を感じ、目を見張るものがありました。

今期は、3月から消費税分値下げした分を、同社がどう利益を確保するのかに注目です。

関連エントリーーファーストリテイリング20年8月期決算に見る、国内ユニクロ事業の凄さ

4位のGAPは

大幅減収赤字、GAP、バナリパで228店舗閉店とリストラが続きます(GAP事業売上前比73.0%、バナリパ事業は同57.5%)。

店舗売上減で、オンライン売上は54%伸びて、EC売上比率は45%に(前年は25%)。

5位のLブランズは

ヴィクトリアズシークレット(VS)のリストラ後の見事なV字(利益)回復と言ってよいでしょう。営業利益額だけを見ると、インディテックスに次ぐ、世界第2位の位置づけです。

ヘルス&ビューティのバス&ボディワークス(B&BW)は、パンデミックに関わらず、店舗が前年並みをキープし、既存店+ECが45%増と大躍進。ECは倍増で、いよいよVSとB&BWの売上が逆転しました。

ヴィクトリアズシークレットの店舗の整理はついたようなので、今期は大幅増収増益が期待できそうです。

関連エントリーーファッション&ビューティー市場の変化を見極め、事業ドメイン転換で勝ち残る、米 L Brands(エル・ブランズ)

以下、6位以下で、めぼしいところを付け加えますと、

しまむらがトップ10企業の中で唯一の増収増益。なんと、7位に浮上です。

これは、品揃え改革(同社らしい多品種小ロット高速回転の原点回帰)によって、かつての販売効率を回復しつつあるのが大きな要因です。

一旦、かつての販売効率まで戻った後、出店余地の限られる日本国内で、どのように、収益を伸ばすのかが、焦点になります。

8位のネクストは、得意の店舗網、物流網を活かし、クリック&コレクト(オンライン注文の店舗受取り)を上手く併用しながら、オンライン売上比率が昨年の50%から65%まで高まりました。

今後、力を入れるのは、そのインフラをフル活用した、他社ブランドのEC事業(オンライン受注から配送まで)を、まるっと代行するという、NEXT TOTAL Platform戦略への取り組みとのこと。これは、興味深いです。

この取り組みは、確立されたチェーンストアとして、違った意味で、世界一のインディテックスよりも先を行っている発想かも知れません。

今後、デジタルシフト後のチェーンストアのありかたの一例として、今後、深堀りしたいと思います。

さて、まだまだ、パンデミックの影響が残る、2021年度のランキングはどうなるでしょうか。

筆者としては、ZARAのインディテックス、ヘルス&ビューティへのドメインチェンジが進むLブランズ、チェーンストアの強みを活かしつつ、プラットフォーマーとしての付加価値を追求するNEXTの3社に注目したいです。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARAの共通点とアプローチの違いを体系的にまとめ、多くのファッション専門店のブランディング、マーケティング、商品開発、販売戦略、ひいては経営理念の参考にしていただける内容に仕上げました。ユニクロが売上規模も世界2位になるのは時間の問題。ますます、両社の比較分析は世界のアパレルビジネスにとって参考になることでしょう。

 「ユニクロ対ZARA」(2014年発売) を2018年のデータでアップデートした文庫本です。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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March 29, 2021

ZARA(ザラ)のインディテックス2020年度決算。大幅減収減益も、全世界でECと店舗の在庫一元化が完了し、盤石体制に。

Zara-onlineZARAを展開するインディテックスグループの2020年1月期決算報告 FY2020 RESULTS

に目を通しました。

同社の決算期は2月~翌1月期なので、通期(全四半期)すべてがパンデミックの直撃を受けた1年でした。

但し、営業赤字だったのは、1Q(2-4月期)のみで

通年では、

売上高 20,402百万ユーロ(日本円換算2兆5918億円)と前年比72.9%(27.1%減)

粗利率 は前年55.9%→55.8%とほぼ変わらず

販売管理費 は 前年比83.2%(16.8%減)に抑え、

営業利益 1,504百万ユーロ(日本円換算1,914億円)前年比31.5%(68.5%減)

営業利益率は前年16.9%→7.4%と下がりましたが

営業黒字で着地しました。

インディテックス社の決算発表により、大手3社が出揃い、

2020年度の世界アパレルチェーン売上高ランキングのトップ3は

1位 インディテックス(ZARA)  1月期  2兆5,918億円(1,914億円 営業利益率7.4%)
2位 H&M           11月期  2兆3,752億円(227億円 同1%)
3位 ファーストテイリング    8月期  2兆0,088億円(1493億円 同7.4%)

に確定しました。

2019年度のランキング

世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

とトップ3の順位の入れ替わりはありません。

同社の期末店舗数は

7469店舗から→6829店 と640店舗の純減です。

内訳は閉店 751店 新店 111店 96店改装(うち45店が大型化)です。

これは慌てて閉めた、というより、中長期計画の計画通り。

在庫に関しては、期末在庫は前年よりも9%少なく、

4半期ごとに見ても前年よりも10%少ない在庫水準で回していたようです。

 

今回の同社の決算の最大のトピックはECの大幅売上拡大と世界全店舗のオムニチャネル体制の完成でしょうか。

EC売上高は77%増の6,600百万ユーロ(日本円換算 8,384億円)

EC売上比率は32.3%と前年の13.2%から急増です。

このEC売上の拡大に寄与したのが、

同社のオムニチャネル施策(Fully integrated store and online platform)のコアにある

SINT(Single Inventory Integration)というコンセプトです。

要は、各国のEC向け在庫と店舗のストックルーム(バックヤード)の在庫を一元化し・・・店舗のストックルーム在庫をEC需要の引き当て対象にできるようにした、という話です。

これをリアルタイムに可能にしたのが、RFIDの全店導入完了です。

このRFIDも、自社開発。

ほとんどの企業が使っているRFIDは、主に、値札や洗濯絵表示に埋め込まれている、安価で使い捨てのチップですが、インディテックス社の場合は、全商品に、スペインの倉庫で取り付けられたセキュリティタグの中に埋め込まれています。

丈夫で高性能、更に、回収することで、何回も再利用ができるという優れものです。(高性能、1回あたりのコスト減、リサイクルで環境にも優しい)

使えるものは、再利用をするという同社のポリシーはこんな最先端のテクノロジーにも活かされているわけですね。

話をSINT(在庫一元化)に戻しますが、

同社によれば、これが、売上高比率32.3%になったEC売上高全体の中の12%分に寄与したとのことです。

通年COVID19の影響を受けても、まだ、世界一の売上規模と利益を確保したインディテックス社。

今後、同じような、ロックダウンで店舗を閉めなければならない事態になっても、商売を継続できる体制が整いました。

さまざまな変化に対して、柔軟な対応ができる、

という世界最強クラスのオペレーション・エクセレンスを見せつけた決算と言ってもよいのではないでしょうか?

近日中に世界アパレル専門店売上高ランキング2020年版も更新したいと思います。

お楽しみに。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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March 15, 2021

ファッション&ビューティー市場の変化を見極め、事業ドメイン転換で勝ち残る、米 L Brands(エル・ブランズ)

Bbwアメリカでヴィクトリアズ・シークレットを展開する米Lブランズ社の2021年1月期決算速報が発表されたので、目を通しました。

売上高  1兆2403億円  (前年比92%)
営業利益 1,653億円  (前年比611%)
営業利益率 13.3%
($=104円換算)

コロナ禍のアメリカ市場中心の同社が減収ながら、増益という恐るべき数字をたたき出しました。

実は、前年の2020年1月期、パンデミック前にヴィクトリアズ・シークレットのダイナミックなリストラを敢行して、大幅減益としていたので、リストラを経てのV字回復なわけですが、それにしても、この規模でのこの利益は素晴らしいです。

その理由を探ってみましょう。

まず、主力業態のヴィクトリアズ・シークレットは全体の2割にあたる248店舗の大量閉店および店舗のFC移管で同事業自体の売上高は前年比72%と大幅減。

店舗とオンラインの内訳は、店舗売上高が前年比55%、残った既存店は前年比増収、そして、オンライン売上高は131%と伸びました。

一方、もう一つの主力業態である、ヘルス&ビューティー部門のバス&ボディワークスの店舗売上高は前年並み(100%)、オンライン売上が209%増と倍増し、事業全体としては前比120%の大躍進です。

この結果、ヴィクトリアズシークレットとバス&ボディワークスの2つの事業売上規模が入れ替わり、同時に、見事な復活を果たしたというわけです。
              2019年度 → 2020年度
バス&ボディーワークス      42%  → 54%
ヴィクトリアズ・シークレット   58%  → 46 %

また、この1年で、会社全体のオンライン売上比率は21%から35%となりました。

 

同社は、THE LIMITED STORE(リミテッド)やEXPRESS(エクスプレス)といったレディースウエア業態で、GAP社よりも先にSPA(アパレル製造小売業)ビジネスモデルで全米一位に登りつめたアパレル企業です。

店頭でのテスト販売や生産地からの空輸を駆使した、独自の高速サプライチェーンやQR対応も十八番です。

ヘンリ・ベンデル(今回のリストラで廃業)やアバクロンビー&フィッチ(分社化、別会社)も同社が買収後に規模を拡大したことで知られています。

同社は、2000年にH&Mがアメリカに上陸し、フォーエバー21と競合しながら、全米がファストファッションの渦に飲み込まれると、

2007年に、レッドオーシャン市場になったアパレル事業に見切りをつけて売却し、

一方、ランジェリー&ホームファッションのヴィクトリアズシークレットやピンクに事業の軸足を移し、ファストファッションと競合をせずに営業利益率の高い高収益企業として、

売上規模もGAPに続く全米2位、グローバルでも4ー5位クラスのファッションチェーンとしての企業規模もキープします。

2016年頃から、メイン業態であるヴィクトリアズ・シークレットが時代に合わなくなって業績失速するや、

その事業に執着することなく、ヘルス&ビューティー部門のバス&ボディワークスに軸足を移し、この度、何と、コロナ禍の最中にも関わらず、事業転換を完了させてしまうという、実に見事な変身を成し遂げました。

アパレルからランジェリー&ホームウエアへ、そしてヘルス&ビューティーへ

女性を取り巻く、ファッション&ビューティーマーケットで既存ビジネスに執着せず、顧客にとって、付加価値のあるところに機を見て乗り換え・・・得意のサプライチェーンマネジメントを活かしながら、応用して行く、創業者のレスリー・ウェクスナー氏のビジネスマンとしての商才には脱帽せざるを得ません。

市場の変化に対して、ここまで先を見て事業転換をできる経営者さんは、世界を見渡しても、そうはいらっしゃらないでしょう。

日本を見渡すと、マッシュホールディングスの近藤社長の着眼点がそれに近いかも知れません。

同グループは、常に、顧客のライフスタイルを中心に考え、上手にアパレル→ホームウエア→ヘルス&ビューティと多角的な事業拡大を果たしていらっしゃいますね。

Lブランズ社は日本ではあまり知られていないファッション&ビューティ系チェーンですが、その変遷をたどると、世界のファッション系チェーン企業が見習うべきことはたくさんありそうです。

是非、過去から今後の動向をお見逃しなく。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 ファストファッションブーム後の顧客のファッションライフスタイルを考える。10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギ、これからの顧客との関係構築がテーマのビジネス読本です。

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March 01, 2021

アパレル製品のサーキュラーエコノミーの現状と課題

Circular-economy以前、筆者もオフプライスストアに関するセッションで登壇させていただいた、業界の勉強会組織、FashionStudiesさんからご案内を頂き、

 以前の投稿はこちらーオフプライスストアは日本で拡大するのか?

さすてなぶるファッション® オンライン ♯02
衣服リサイクル 基礎編 #02 リサイクル素材をどうマーケットに浸透させていくか 

の公開動画を視聴させていただきました。(リンク先に3本の動画があります)

 

内容は伊藤忠商事が取り組む、回収した古着、裁断くず、残反を新しいアパレル製品・繊維製品にリサイクルするプロジェクト「RENU」についてと、そのプロジェクトに参加するH&Mの取り組みについて、そして、繊維素材のリサイクルの現在と、今後の課題についてでした。

このRENUプロジェクトについて、筆者が理解したところを簡単にまとめると、

・従来から、ペットボトルなどの非繊維原料を繊維素材にリサイクルして、アパレル製品化する試みはあったが、RENUは不要繊維製品から新しい繊維素材やアパレル製品にリサイクルする試みである。

・まずは、アパレル素材で最も使われている原料のひとつである、ポリエステル素材から取り組んでいる。

・主に、中国で回収した古着、裁断くず、残反、を粉砕、分解して、薬品を使って、精度の高いポリエステル原料(チップ)に再生し、それをもとに、ベトナムなど他国も含めてアジアでポリエステル生地を製造し、アパレルおよびスポーツ衣料とする。

・従来のペットボトル原料だと、原色を抜くのに手間がかかったり、希望の色を再現する上で制限があるが、当プロジェクトはバージンポリエステル原料(従来のポリエステル原料)と同じ発色が可能になる。

・バージンポリエステル製造には石油が必要となるが、当プロジェクトでは、すでにポリエステルになっているものが原料のため、石油を使う必要がない。

・従来のペットボトルからのアパレル製品は、リサイクルは1回のみ、その後は、廃棄の対象にならざるを得ないが、このプロジェクト(回収→リサイクル→製品化→使用後→回収)の流れに乗せれば、永遠に繊維製品を繊維製品に再生できる。

とのことです。

実際、日本でも、H&M、GU、グローバルワーク、デサントなどがRENUの素材を使って、アパレルへの製品化と販売を行っているようです。

この、繊維製品から繊維製品のリサイクルの課題としては、

ひとつは、コストです。伊藤忠の方も通常のポリエステル素材よりは、生地値は高め、とおっしゃっています。

これは、現在、業界の中でも、議論が重ねられていますが、

大手、特に上場企業はESG、エンドユーザーへのアピールも含めて、サステナブルなモノづくりが喫緊の課題になっているので・・・多少、コストが高くても、企業姿勢としては、取り組むかも知れませんが、

一方、エンドユーザーである消費者は、ファッション商品は、おしゃれであること、リーズナブル価格であることが前提にありますので・・・

理解あるエンドユーザーが増えているとは言え、価格転嫁されたら、当然、販売(購入)に支障が出ますし、また、高くて、売れ残り在庫をたくさん残してしまう原因になってしまっては、もともこもありません。

伊藤忠の方は、「エンドユーザーがRENUだから買ったのではなく、たまたま、購入を決めた商品の素材がRENUだった」というビジョンを理想としています。

もうひとつは、古着の回収から再生素材にするための国際規制です。

今回のセッションの質疑応答部分で触れていますが、バーゼル条約という国際協定があって、廃棄物のひとつである古着の国際間移動は法律で制限されています。

古着や裁断くずや残反を回収した国または地域で、せめて、繊維原料、ポリエステルの場合、チップにまでする加工を施した上でないと、海外に持ち出せないということになります。(日本の古着を中国に持って行って加工はNGと理解。)

つまり、回収とリサイクルテクノロジーは同じ国または、経済圏の中で完結しなければならない、ということになります。

整理すると、

1)現状は割高となるリサイクル後の生地と製品コスト

2)回収とリサイクル素材(原料)にするまでの技術および加工を現地で完結させなければならないこと

この2つが、今回のRENUに限らず、繊維製品のサーキュラーエコノミー型リサイクルの世界的な拡大に向けての課題になるようです。

以上を理解した上で、あらためて、以前、ご紹介した、インディテックス(ZARA)のサーキュラーエコノミーの取り組みがこの2点を上手く、解決している試みであることに気が付きました。

ファッション業界のサーキュラーエコノミーの取り組み


つまり、スペイン国内(店頭と街頭)で古着を回収したり、裁断工場を持って、多くの製品の裁断をスペインおよび近隣の自社工場で行っているインディテックスは、自ら、原料となる古着や自社裁断工場から出る裁断くずや残反を供給することができます。

これらを原料として、リサイクル素材を製造するレンチング社に供給できるため、出来上がった再生素材は安価に買い戻せるのではないか?(あくまでも、筆者の憶測です。)

次に、回収、リサイクル素材製造までがEU圏内(スペインとオーストリア)で完結するので、バーゼル条約には抵触しない。

それゆえに、買い上げたリサイクル素材を使って、つくられたZARAの製品コレクション「JOIN LIFE」が従来のZARAの商品価格の変わらない価格で販売できる所以なのではないか、ということです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)はアパレル業界が未来に向けて避けて通れない課題。

伊藤忠は再生ポリエステルに続いて、再生ナイロンのアクアフィルとも業務提携をしたというニュースが入って来ました。

今後、日本においても、繊維再生テクノロジーが開発され、日本で回収された古着から始まるサーキュラーエコノミーが実現することを期待しています。

繊維素材・繊維製品のリサイクルに関しての現状を知る上での基礎知識が得られ、問題意識も整理できますので、関心のある方は上記リンク先のfashionstudiesさんの動画の視聴をおススメします。

今後もこのブログでは、サーキュラーエコノミーのテーマにも関心をもって取り上げて行きたいと思います。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギは、服のライフサイクルを意識し、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環をお手伝いすること。大量生産、過剰供給時代を超えて、新しい時代の関係構築がテーマです。

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February 22, 2021

メルカリ、ペイペイフリマ、フリマアプリの1次流通通販(EC)とのデータ連携

Closet

2月17日の日経MJにフリマアプリ大手のメルカリが、アパレル専門店大手アダストリア社他、8つのECサイトと連携し、ユーザーがECサイトで購入した新品商品が着用後に不要になった場合、手軽にメルカリに出品できるサービスを拡げて行くことに関する記事が掲載されていました。

記事によれば、20年春から始まったメルカリの提携先は・・・

アパレルECの「ショップリスト」、家電の「プレモア」、雑貨の「イデアオンライン」、今回発表したアパレル大手アダストリアの総合 ECサイト「.st(ドットエスティ)」など8社。

提携先は、今のところ、すべて、メルペイでの決済を行っているサイトのようで、

購入ユーザーがそれぞれのECサイトでメルペイで決済した商品が、メルカリのユーザーのアプリ内のマイページの中にある、「持ち物一覧」に自動で取り込まれ・・・

ユーザーが将来、その商品が不要になり、メルカリで売却したい、と思った場合、

その商品がメルカリで取引されている相場価格を元に推奨価格が表示されたり、出品の際に必要な、商品カテゴリーや商品紹介が自動表示されてユーザーの出品の手間が簡素化されるというものです。

今後、提携先とは、メルペイで決済していない場合(クレジットカードなど)も同様のサービスを提供する方向で話を進めているとのこと。

そうなると、いずれは、メルペイ決済を前提としない、多くのEC購入商品がメルカリに出品しやすくなるかも知れません。

同記事では、メルカリのライバルとなるペイペイフリマでも、ヤフーショッピング、ペイペイモール、ZOZOTOWNと同様の連携を進めていることも紹介されており、

フリマアプリ大手が

売ること(出口)を考えて、新しい商品を購入する(入口)購買行動

という、リユースショップやフリマアプリを賢く活用する、ユーザーから始まった新しい購買行動の促進を後押ししていることがわかります。

ファストファッションの市場浸透後、コロナショックによる巣ごもりの後押しもあり、
溢れ始めた自分のクローゼットの服を見直す機会が増えたエンドユーザー

流通企業が、エンドユーザーの「クローゼットのワードローブの循環」をどう手伝うか

が新品を販売する企業も避けて通れない、生き残りのカギになるであろうことを

拙著「アパレル・サバイバル」の後半部分で結構なページを割いて問題提起をさせていただきました。

一次流通企業にとっては、

大手であれば、これから、不要品回収から始まるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みが、進むことでしょう。

一方、大手ほど資金力、組織力がない中小企業にとっては、

自身の体力内で回収、リサイクル、リメイク、アップサイクル(染め直しも含む)をすることもできるでしょうし・・・

フリマアプリなど、第三者的なデジタル企業と組んで、ユーザーが不要になった商品を、それを求める他の人に届けるための手伝いをすることもできるでしょう。 

ある意味、それも、サーキュラーエコノミーへの取り組みの一環かと思います。

過剰生産、過剰供給を見直しするだけでなく、

お客様のクローゼットを健全にメンテ、循環させることをお手伝いしながら、

顧客の既存のワードローブと相性のよい、今シーズン風の新しい服をご提案する。

それが、これから求められるファッション流通企業の姿のひとつだと思っています。

それを牽引するのは、従来のファッション企業自身なのか、
それとも、未来から逆算するテクノロジー企業なのか?

今回のメルカリやペイペイフリマの取り組みは、そんな未来図に向かうはじめの一歩のように感じられます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギは、服のライフサイクルを意識し、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環をお手伝いすること。大量生産、過剰供給時代を超えて、新しい時代の関係構築がテーマです。

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February 01, 2021

英ファッションEC企業による、破綻した百貨店や専門チェーンの買収目的

Topshop2017先週、イギリスのファストファッションECサイト、Boohooブーフーが、昨年12月に破綻した老舗百貨店、デベナムズを買収するニュースが流れました。

Fashionsnap.com 英ファストファッションEC「ブーフー」が経営破綻の大手百貨店デベナムズを買収

Boohooはデベナムズのブランドとウェブサイトを5500万ポンド(約78億円)で買収し、その他の資産である124の実店舗と12,000人の従業員は買収対象から外しています。

また、同様に昨年11月に経営破綻したアルカディアグループのTOPSHOPなどのブランドを、やはり英ファッションECモール大手のASOSエイソスが買収を検討しているというニュースも入っています。

WWDジャパン 英ECエイソスが「トップショップ」買収に意欲 ブーフーは百貨店デベナムズを獲得

こちらもASOSがアルカディアから買いたいのは、ブランドとウェブサイトが持つ顧客だけで、店舗は要らないとしています。

ちなみに、世界最大級のファッションストアと言われる、かのTOPSHOPのオックスフォードサーカスの旗艦店(右上画像)は現在、別途、売りに出されているとのこと。

更に、速報ベースですが、こちらのイギリスのyahoo!financeのニュースに寄れば、ASOSが狙っているのはアルカディアグループのTOPSHOPとMissSelfridgeの2ブランドで、その他のブランド、Dorothy Perkins, Burton および Wallisについてはデベナムズを買収したBoohooが現在交渉中とのことです。

Asos edges closer to sealing Topshop and Miss Selfridge acquisition

これらのニュースを聞いて、恐ろしく感じたのは、アメリカのアマゾンやアリババは、オンラインのみのビジネスに限界を感じて、リアル店舗が欲しくてスーパーや百貨店を買収していますが(店舗と従業員付で)、

BoohooやASOSは、欲しいのはブランドと顧客だけとし、固定費である店舗や従業員はいらない、と割り切っていることです。

イギリスでは、アマゾンが世界で牽引するオンラインショッピングや顧客のショッピングのデジタルシフトに対して・・・

ここ10年間で、多くの百貨店や専門店が、自社ECサイトを立ち上げ、EC販売を強化しながら、オンライン注文を店舗で受け取ることができる、クリック&コレクトに力を入れて、顧客をオンラインに寄せ、新しい小売業として生まれ変わる努力をして来ました。

ところが、そんな新しいプラットフォームが完成するかどうか、という矢先にコロナショックによって数回に渡るロックダウン、店舗閉鎖に追い込まれたイギリスで、力尽きたデベナムズやTOPSHOP(アルカディア)やこれからも出てくるであろう破綻企業は、

これまで構築の努力をして来たブランドとオムニチャネルプラットフォーム上の顧客たちを、そっくり、そのままEC企業たちに掻っ攫われる、という話です。

これらのニュースを聞いた時、これは決して、対岸の火事ではない、と思いました。

今、日本においても、一生懸命、EC化率を高めて、顧客の購買行動の変化に合わせて生まれ変わろうとしているアパレル企業や専門店がたくさんあると思いますが・・・

利益体質を取り戻せないまま、なまじっか、EC化率だけを高めても、・・・それこそ、勢いのあるEC企業にブランドとECプラットフォームと登録会員だけを持っていかれてしまう標的になりかねない、ということです。

本来であれば、オムニチャネル(あるいはOMO)型の新しいビジネスモデルとして生まれ変わるつもりでも、その脱皮に時間がかかれば、キャッシュが持たず、力尽き、その結果、せっかく構築したECプラットフォームだけをみすみすEC企業に持って行かれ、店舗および店舗で働く従業員を守り切れない、という話にもなりかねません。

イギリスで起こっているEC企業が破綻小売業にしかける買収劇は、実店舗や従業員の雇用が守られない、という厳しい話ではありますが・・・

日本においても、それらを教訓に、あらためて、しっかり儲かる利益体質をつくり、必要十分なキャッシュフロー経営を行いながら、新しい購買行動に合った企業にモデルチェンジをして行きたいものです。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギ、顧客とのこれからの関係構築がテーマです。本書中でウルトラファストファッションとして、ASOSやBoohooも紹介しています。

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January 25, 2021

ユニクロアプリのウォレット機能UNIQLO Pay実装と同社が目指すゴール

Uq1月19日からユニクロアプリ内に決済機能であるUNIQLO Payを実装しました。

プレスリリース ユニクロアプリにウォレット機能「UNIQLO Pay」が登場

メディアでは、PayPayやメルぺイなどと比較する記事もありましたが、
あくまでも、同社内での決済が目的のようです。

3,000万ダウンロードという日本の小売りでも最大級のダウンロード数を誇るアプリのひとつ。

顧客は、クレジットカードまたは銀行口座(現段階では一部の銀行に限られます)を紐つければ、店舗での決済の際に、アプリを開けば、QRコードを提示するだけでキャッシュレス決済ができるというもの。

これまでは、ポイントをつけるために、アプリを提示し、決済や現金やクレジットカードやその他の決済手段が使われていましたが、

顧客はUNIQLO Payを提示すれば、財布を出さずに済む。というわけです。

ユニクロとGUはここ数年で、レジのセルフレジ化を進め、混雑時以外の人件費を大幅に軽減して、販管費を下げ、営業利益率を高めて来ました。

その間、顧客にお会計の作業ストレスを強いて来たわけですが、これからUNIQLO Payを推奨することで、財布を出す作業がひとつ軽減されることになるわけです。

また、企業側のメリットを想像すると、短期的に言えば、銀行口座紐付けが増えれば、クレジットカード手数料やその他決済手段の決済手数料が軽減され、

利用者が増えれば、顧客データを取得しやすくなり、中期的には、その分析から、品揃えやサービスやオンライン経由の顧客セグメント提案の改善につながるでしょう。

実は、この小売業のアプリの決済機能の実装ですが、日本では、まだ対応していませんが、ZARAのインディテックス社が自社開発したアプリの中にIn Walletという機能を実装し、先行しています。ヨーロッパの一部の国では、数年前から利用できるようになっています(紐つけはクレジットカードのみ)。

ZARAの目的は、レジでの決済の効率化(顧客、スタッフ双方の会計作業軽減)、店舗で買っても、オンラインで買っても、同じアプリの中に電子レシートが生成され、レシート発行不要にできる(ペーパレス)と共に、双方の購買履歴が残ることから、オン・オフどちらで買っても、どちらでも返品できる顧客の利便性です。ちなみにZARAのアプリにはポイント付与はありません。

ユニクロはそんなZARAの先行事例を参考にしたのか、業務提携しているGoogle Payを展開するGoogleのアドバイスなのかはわかりませんが、いずれにせよ、日本のファッション小売業の中ではユニクロは先行組と言えますね。

現在は、ファーストリテイリンググループ内での決済しか想定していないようですが、ゆくゆくは、もちろん、Amazon Pay Google Pay のように、社外でも使えるようにすれば、プラットフォーマーとして、決済手数料を稼せぐ、金融事業が成り立つかも知れません。

これからのライバルは小売業ではなく、GAFAだとおっしゃった柳井会長の言葉が思い出されます。

関連エントリーー世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARAの共通点とアプローチの違いを体系的にまとめ、多くのファッション専門店のブランディング、マーケティング、商品開発、販売戦略、ひいては経営理念の参考にしていただける内容に仕上げました。ユニクロが売上規模も世界2位になるのは時間の問題ですね。実はZARAも以前からベーシックが稼ぎ頭。ますます、両社の比較分析は世界のアパレルビジネスにとって参考になるでしょう。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

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January 19, 2021

ウォルマートが描くDX(デジタルトランスフォーメーション)の未来

20180818_1035181月14日の繊研新聞に、現在、開催中の全米小売業大会(NRF)、初のオンライン開催に関する記事が掲載されており、関心を持って読ませて頂きました。

この全米小売業大会は世界の小売業の未来を示唆するテーマが話題になることが多く、毎年、発信されるトピックに注目しています。

今回の記事で印象に残ったのは、アマゾンエフェクトが吹き荒れ、収まらないパンデミックの渦中にあるアメリカの小売業界で、オンラインを活用して業績を伸ばし続ける、ディスカウントストア、ウォルマートの最高顧客責任者であるジェイニー・ホワイトサイド氏のコメントの数々でした。

その中から、3つほど取り上げてみたいと思います。

ひとつめは、

「5年かけて起きると思われていたデジタルトランスフォーメーションが5週間で起きた。」

コロナ以前から、全米でアマゾンとの小売業頂上対決をしながら、デジタルトランスフォーメーションの準備を着実に進めていたウォルマート。

顧客の購買行動の変化を見越して、準備をしていたからこそ、コロナ禍の外出自粛下においても、同社は宅配対応、ストアピックアップ(オンライン注文の店舗受取り)、カーブサイドピックアップ(オンライン注文の駐車場受取り)に対応し、業績を伸ばし続けているわけですが・・・

そんな彼らにとっても、そう言わしめる程の急激な購買行動の変化が起こっていることを感じ取れるフレーズです。

準備をしていなかった企業、準備中にコロナショックに見舞われた企業がどんな目に合っているかは、言うまでもないでしょう。

2つめは

「(ストア)ピックアップと宅配が急増(中略)特に65歳以上のお客からの要望が顕著」

ショッピングのデジタルシフトの完全定着は、ジェネレーションX(1960年代後半生まれ~)以降のデジタルを不自由なく活用する世代がシニア世代になった時、つまり、あと10年はかかる、と思っていた方は少なくないと思います。正直、僕も心の底ではそう思っていたかも知れません。

しかし、コロナショックは、それまで、ほとんどオンラインやデジタルを活用していなかった、現シニア世代にも強制的にデジタルシフトを迫りました。
これは、今後の流通の変化のスピードに大きな影響を及ぼすのではないか、と見ています。

日本の話になりますが、昨年、6月、緊急事態宣言が解除された直後に、カフェで老人たちがアマゾンでの購入体験を話していた時のことを思い出します。

まさか、このおばあちゃんたちの口から「アマゾンで・・・」という言葉が出てくるとは想像もつかなかったからです。どうやら、ご家族に手伝ってもらって、アマゾンでの購入を始めたようです。その後、同じようなシニアの会話のシーンに何回か、出くわしたものでした。

シニア層が当たり前のようにオンラインを活用するようになると、ショッピングのデジタルシフトの市場定着は一気に進むことでしょう。

3つめは

「ウォルマートが顧客の冷蔵庫の中身を補充する時代が来るとみている」

という話。

1月15日の日経新聞の記事で補足すると、

ウォルマート本社のあるアーカンソー州ベントンビルで、スマホアプリで3種類の温度調節が可能な宅配BOXを顧客に提供する準備をしている、とのこと。

つまり、ウォルマートからの生鮮の宅配を、不在時でも、あるいはコンタクトレスでも顧客に届けることを実現する試みです。

おそらく、ジェイニー・ホワイトサイド氏のNRFでの発言の背景には、この試みがあったのでしょう。

話は変わりますが、2019年2月に上梓した拙著「アパレル・サバイバル」では、

これから10年スパンで考えると、顧客のクローゼットの中のワードローブ情報を顧客に共有していただける信頼関係の構築ができるかどうかが、今後のサバイバルのカギになる、と述べました。

それを読んだ、読者の方が、

服だけではなく、食品でも、自宅の冷蔵庫の中身と食材の賞味期限が管理され、

外出先からでも、帰宅したら、それらでどんな夕食の献立が出来るか、

あるいは、あと、どんな食材を買い足したら、どんな献立のバリエーションが広がるか、

のレシピ提案をしてくれるIOT冷蔵庫とスマホアプリがあったらいいね、

とコメントされていたのを思い出します。

確かに、あったらいいねのデジタルトランスフォーメーションですね。

ウォルマートは、アマゾンと競いながら、そんな顧客の未来の購買体験を考えているのか、と思いました。

この間、ジェネレーションXの上の世代、シニア世代以上に関してはコロナ後の購買行動は元に戻るだろう、

という調査結果も目にしました。

確かにその傾向もあると思いますが、DXの準備をしていた企業と遅れた企業の差は確実につきそうな気がしています。

いずれにせよ、

消費者は一度手にした便利さは手放さない

この教訓だけは肝に銘じておくべきでしょう。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギ、顧客とのこれからの関係構築がテーマです。

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January 11, 2021

越境ECに特化して急成長を続ける中国新興アパレル企業、SHEIN(シーイン)の勢いと中国アパレルEC市場の事情

20210111_1533201月8日の日経新聞に中国から越境ECで世界に販売する新興ファストファッション企業SHEIN(シーイン)に関する記事が掲載されていました。

中国発の新興アパレル 最大手「ZARA」に挑む

同社はトップスで日本円で1000円前後から2000円くらいまでの低価格ファストファッションに特化し、中国企業ながら、中国市場ではなく、むしろ世界に越境ECで拡販する急拡大中の企業。

記事によれば、19年の年商は日本円換算で約2500億円、中国メディアによれば、20年には1兆円を超したのでは?とのことです。

この前年比4倍の1兆円!?はちょっと眉唾ですが・・・

昨年、世界でSHEINのショッピングアプリが1億1200万ダウンロードされたと聞くと相当の急成長は見込まれます。(右の画像はSHEINサイトから)

彼らの勢いは、すでに数年前から中国で耳にしていましたので、今回、日経の記者の方からこの記事のためにインタビューの依頼を頂いた時に、いよいよグローバルプレゼンスが高まって来たのだな、と思いました。

拙著「ユニクロ対ZARA」が2017年に中国語翻訳され、2017年~2019年に中国に研修講師として頻繁に招かれていた時に、多くのナショナルチェーンの幹部の方々に参加頂きました。

当時(2018年頃)、「中国で元気のよいローカルのアパレルチェーンはどこですか?」と聞くと、多くの方が口を揃えて、SHEIN(ヤングレディース中心)やPATPAT(子供服)などの越境ECをやっている新興企業の名が返って来たものでした。
実際、当事者であるそれらの企業の幹部の方々も熱心に研修をお聴きになっていらっしゃいました。

その背景には、中国のアパレル業界では、すでに大手チェーン間の競合も激しく、かと言って、ECに手をつけても、すでに広告宣伝費や販促費が高くなり過ぎて儲からない。

そんな、中国アパレルEC市場に見切りをつけて、産地としての中国のアドバンテージを活かし、海外で、しかも、出店ではなく、越境ECで売上を伸ばそうと考えた新興ブランドに最も勢いがある、という話です。

彼らは、素材と縫製の基地がある広州などに生産拠点を置き、すでにレッドオーシャンとなった中国アパレル市場ではなく、アメリカ向けや中東向けなど、ターゲットとするマーケット専用のサイトをつくり、中国で次々に小ロット、短サイクルで商品をつくり、低価格で販売して売り切ることで成長して来ました。

日経の記事が世界最大手のZARAと比較をしていますが・・・、比較には及ばない、と思われるかも知れませんが

実は、共通点があって、それは、目の行き届く本国、本社の近くで作って、世界に売り込むというビジネススタイルなのです。

とかく、トレンドファッションはトレンドの変化によって在庫リスクを抱え込むもの。
遠くで、時間をかけて安く作って商売をすることは大きなリスクになります。

ZARAが他のファストファッションチェーンにアドバンテージがある理由は、
母国スペインや近隣のポルトガル、モロッコなど、目の行き届くところでトレンド変化と過剰在庫リスクに注意しながら、小ロット短サイクルでつくり足して行くところです。

これに対して、イギリスでASOS、BooHoo、ミス・ガイデッドなどのオンライン系のファストファッション企業(ウルトラファストファッション)が台頭したのも、その多くがイギリス国内での移民労働力を活用したモノづくり(MADE IN UKの地産地消)とオンラインによるローコスト及びスピードオペレーションが背景にあります。(詳しくは「アパレル・サバイバル」をご参照下さい)

そして、今、世界の工場である中国から、同じ発想で世界に売り込む越境EC企業が台頭しているという話です。

ZARAにどれだけ迫るか?というのは面白い議論だと思います。

もちろん、ZARAが長年き築き上げて来た店頭起点のディマンドチェーンのPDCAの回し方と国際高速物流のインフラの安定性にはそう簡単にはかなわないでしょう。

しかし、

目の行き届くところで作って、世界に売るという発想を、
より人件費の安い産地から行う

しかも

オンラインで多店舗出店よりローコストと柔軟性を持って、高速で行う

というプレーヤーが出て来たことは、新しい時代の幕開けと言えるかも知れません。

目の行き届く産地でつくってリスク回避 x オンラインで世界にリーチする 
+オンラインで顧客の反応を解析しながら、つくり足す

市場低価格政策ゆえ、競合に価格で下をくぐられるリスクを抱えていることを指摘しながら、彼らが今後どんな発展をするのかに注目しておきましょう。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 ファストファッションの次の流通革新に挙げられるイギリス発ウルトラファストファッションとは?これまでの流通革新を振り返り、これから10年の流通革新を模索しています。

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