May 31, 2021

理想的な営業利益率は何%?

Plbs

先週金曜日からスタートしたWWDJAPAN連載中「ファッション業界のミカタ」のオンライン連続セミナー。
1回目は、世界アパレル専門店売上ランキングの概要とファッション流通企業の代表的な3つのビジネスモデル(P/Lとそれを支えるB/S構造)について解説しました。
質問タイムに、
損益計算書P/Lの営業利益率は何%が理想でしょうか?
というご質問がありました。とても、いい質問です。
一般的には、小売業は営業利益率10%あれば、優秀と言われます。
損益分岐点も低くなり、不測の売上減のような危機にも比較的耐えやすい体質、周りからの評価も申し分ないでしょう。
しかし、筆者はそのご質問に対し、
まず、その企業が目指すビジョンがあって、それを実現するのに毎年、営業利益額(厳密には繰越利益)がいくら必要か?
が正解であって、率を目指すべきではないのでは?
とお答えさせて頂きました。
つまり、ビジョンの実現に必要な額がはじき出ことが出来れば、20%でも、5%でも、極論それ以下でも、その企業にとっては正解でしょう。
例えば、何年後かに、
無借金経営にしたい、
新しいマーケットに進出したい、
これからの顧客購買行動の変化にあわせて物流やシステムの設備投資をしたい、
などなど。
ビジョンに必要な金額が明確になれば、
毎年の販売管理費、粗利高、売上高も根拠のある予算を設定することができる、という訳です。
ある会社の経営者さんは、わずかな営業黒字でいい、その分、従業員の成長にお金(販売管理費)を使いたいとおっしゃいます。
これも立派なビジョンのひとつかと思います。
ビジョンを決め、それにあわせて稼ぐ金額を決める
これは筆者も学んだキャッシュフローコーチの和仁達也先生に教えて頂いたことのひとつでした。
まずは、どんぶり経営から抜け出すために・・・
ビジョンを決め、P/Lを設計し直すことから始めたい、
そう感じている方には、こちらの書籍がオススメです。
超★ドンブリ経営のすすめ

財務諸表はあくまでも結果を表したもので、税理士や会計士がつくるもの?
いやいや、経営者さん自身が、3年後、5年後にどんな形にしたいか?から逆算して考えるのもありですよね。
もしそんな機会があったら、経営者の皆さんはどんな財務諸表の形を描かれるでしょうか?
身動き取れない訳じゃない、新興企業さんには、是非そんなアプローチで経営を行って頂きたいものです。

【お知らせ】

WWDJAPAN連載中「ファッション業界のミタカ」オンライン連続セミナーは
2回目以降も、ご興味のある回のみでも、お申込みいただけます。

申し込みは >>>こちら

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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May 25, 2021

これからの店舗の役割は、フィッティングルーム(試着室)がカギを握る

20180817_1257325月21日の日経MJの1面に
DtoCブランド fou fou フーフーが代々木上原に開設した
完全無人試着室が紹介されていました。

オンラインで商品を見て、試着を希望するユーザーは、ネット予約を行い、
マンションの1室に設けられたショールームに、事前に伝えられた暗証番号で入室し
一組あたり約1時間内にユーザーは自由に試着をし、
気に入った商品があれば、オンライン注文を行うというもの。

試着した写真を撮って、後で、家に帰ってゆっくり検討し、
オンライン注文することも可能です。

デザイナーのコウサカさんの noteによれば、
週3回、1日あたり3つの時間帯(45分)が予約できるようなので
月に約36組が試着可能ということ。

記事によれば、もともと、この試みは、店舗を持たずにオンライン販売にこだわる同ブランドが行っていた、全国を回る「試着イベント」での気づきから始まったそうです。

・お子さんがいらっしゃる方が、落ち着いて試着ができない、とか

・店舗スタッフのお声がけや周りで試着している人が気になって、自分のペースで試着ができないとか

・店舗スタッフがいると、試着したのに、買わないと申し訳ないとか、

そんなユーザーさんの「心の声」に気づいて、
では、誰もいないところで思う存分、試着をしてもらおう、という発想から生まれたようです。

実際利用された方は、

「試着したら買わなきゃというプレッシャーがなく、納得が行くまでアイテムやサイズを試せた」

「人目を気にせずたくさん写真をとって家でゆっくり検討できるのも嬉しい」

店舗スタッフが好意で行っている、背中を押す接客もプレッシャーに感じる人もいますから・・・

これまで、店舗でのショッピングで、試着がストレスに感じて来た人には受けるサービスではないか、と思いました。

その一方で、想定客単価と稼働率と家賃から、採算はどうなのか?と、つい計算してしまう筆者がおりますが(笑)

 

ショッピングのデジタルシフトが進み、

更に、この1年はコロナ禍で外出自粛、来店客数減で、店舗の役割を考え直す企業が増えています。

「店舗は体験の場」と言われて久しいですが、体験とは、一体、何でしょうか?

きめ細かい接客による、おもてなしでしょうか?

それもひとつだとは思いますが・・・

サイズがあり、コーディネートをして着用することが前提のファッションアイテムにおいては、

商品の現物を手に取って確認する場、そして、

自分に合うかを確かめるフィッティング(試着)の場であることは揺るぎありません。

 

先日、外出自粛で、来客が少なくなったいくつかの商業施設を視察している最中、

いくつかの店舗で、気になった服を試着していて感じたことがあります。

相変わらず、フィッティングルームって狭くて窮屈なところが多いな

そんな狭い中で着替えて、着替えが終わったか、どうかというタイミングで

店舗スタッフから「いかがですか」と声がけされて、自分のペースで試着が出来ていないことを、あらためて痛感しました。

その際、思い出したのが、

2018年に拙著「アパレル・サバイバル」(日本経済新聞出版社)の取材でアメリカに行った時に訪れた、オンライン通販出身のメンズウエア「BONOBOS(ボノボス)」のショールーム店舗での店舗体験でした。

同社は、オンライン販売が出自で、試着をしてから買いたいという顧客のために、ガイドショップというショールーム店舗を全米に展開しています。(当時全米約50店舗)

顧客は店頭にならぶ商品の中から、気にいた商品を試着をし、

購入を決めた商品は、店舗スタッフに手伝ってもらって、タブレットからオンライン注文をし、

購入商品は倉庫から自宅に宅配されるというしくみです。

このお店が、通常のファッション専門店と違うのは、

◆タブレット決済なので、レジスペースがない
◆バックストック在庫がないので、店内が広い

その分

◆フィッティングルームが通常の専門店より広い
◆一緒に来た人がくつろげる、大きなソファーがある

というものでした。

これは、これから、オンライン販売比率30%台が常態化する、と予測される

リアル店舗を中心に展開するファッション専門店の未来の店舗の姿のひとつを示唆しているように思いました。

筆者は、店舗のすべてがショールームになるべきとは思っていません。

なぜなら、買ったものを持って帰りたい、あるいは、そのまま着て帰りたい、という需要は確実にあるからです。

しかし、坪効率を上げるために、店舗に、ストック在庫含めてぎゅうぎゅうに店舗に商品を詰め込むために、

契約面積に対して、商品の陳列スペースを最大限に取る、という考え方は時代遅れになって行くと思っています。

では、その時、何を起点に考え直すべきか?

常に、顧客購買行動起点で考えたいです。

店舗は、商品を確認する場、フィッティングを体験する場

そう考えると、これまで、狭く設計せざるを得なかったフィッティングルームのありかたから見直すべきではないだろうか、と

オンラインで情報を取り、店舗で商品を確かめ、試着し、自分のペースで店舗で買うか、オンラインで買うかの選択をする時代に

顧客体験としてのショッピングをデザインし直す際、

顧客が最も大切にする、フィッティングの場である「試着室」の見直しに
まずは取り組んで行くべきではないか、と痛切に感ます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギは、服のライフサイクルを意識し、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環をお手伝いすること。大量生産、過剰供給時代を超えて、新しい時代のお客様との関係構築がテーマです。

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May 10, 2021

足し算だけでなく、引き算をする勇気

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5月9日の日経新聞のサイエンス面に「現代人は『引き算』が苦手」という見出しで、米バージニア大学のチームが英科学誌ネイチャーに発表した「人間は引き算の決断が苦手で、足し算にこだわる」とする説を紹介する記事が掲載されており、興味深く読ませて頂きました。

要は、
チームがいくつかの実験で、調査対象者に、問題解決のためのいろいろな問いかけをしたところ、
多くの人が、「引く(減らす)」ことよりも「追加(増やす)」するで物事を解決する傾向があることに気づいた、という話です。

本文で紹介されていた例をいくつか抜粋して紹介させていただくと、

〇エッセーを改善するように頼まれると、多くの人は文章を長くした

〇レシピを改善するように言われると、人々は多くの材料を投入した

〇旅程を整えれるように頼まれると、多くの人は立ち寄る場所を追加した

など、足し算をする(増やす)行動をとる人が多かったとのこと。

一方、別の質問で、

改善にあたり、追加することも取り除くこともOKであることを伝えると
引き算のアイデアが増えたそうです。

記事の後半では、専門家の方々が

「引き算の発想があっても、引く決断は葛藤を生む」
「引き算は過去の労力が無駄になる負い目もある。」

ことを指摘しながら、

ウォークマンやiPhoneの例を挙げて
「勇気をもって引き算を」と推奨する一方、

「注意すべきは大切なものを引き去らないことだ。重要な何かを見極められたら引き算もしやすいが、それができないから苦労する。」

と結んでいます。

社長さんや上司に「改善しろ」、と言われると、
多くの人が、今のままでは物足りないのでは?と忖度し、

どうしても、選択肢や仕事を増やすこと=足し算中心に考えてしまうのは、
企業現場でもよくある話ではないでしょうか?

この話を、日頃、業務改善に当たる仕事の現場で感じていることに照らし合わせて
考えてみたいと思います。

1)在庫の中身の改善

在庫は金額や数量ではなく、中身(鮮度)が大事な時代。
多くの現場では、
過去から現在の売れ筋商品の仕入を増やそうと考えがちですが(足し算)、
同時に、期限までに売り切れない死に筋商品を換金して(引き算)、
未来に売れる、鮮度のよい在庫の中身に入れ替えるアクションが大事。 

2)利益体質づくり

販促費の手を尽くして、伸びしろがあり、純増となる、新販路であるECの売上増に躍起ですが(足し算)、 
その一方で、既存店の利益額が増える方策や不採算店舗を整理するなど、
引き算による利益体質づくりが求められています。

3)未来への投資のための現預金増

先行き不透明なご時勢に、借入を増やして、しばらくの運転資金は確保されたと思いますが(足し算)
在庫や資産などお金に換わるもの(埋蔵金)を換金(引き算)、回転させて、現預金を増やしたい時です。
増えた現預金は、未来に利益を稼ぐ新鮮な商品仕入や生産性向上のためのソフトウエア投資に使いたいです。

4)無駄な仕事をなくして生産性向上

人員減らして(リストラ)1人あたりの仕事を増やす(足し算)ようなことが行われていますが、
人件費は下がっても、生産性は上がらず、モチベーションが下がるばかり。
業務棚卸で無駄な仕事を見つけて、勇気をもって止めて(引き算)、利益向上のために優先度の高い仕事に集中させる環境をつくり、1人あたりの生産性(利益)を増やしたいところです。  

などなど、アイデア出ししていると、いろいろ出て来そうです。

是非、皆さんも、足し算だけでなく、引き算も選択肢に入れて、
身の回りの仕事を見直してみてはいかがでしょうか?

右肩上がりでない市況においては、引き算が利益確保の決め手になることも少なくないと思っています。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【お知らせ】5月20日(木)15:00~ 
筆者が講師を務める、経営者様、事業責任者様向けビジネスセミナー(有料)

3つの視点を共有すれば、過剰在庫が粗利とキャッシュに換わる!
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 2021.5.20 15:00~18:00 @オンライン開催 

これから事業で本格的に店舗およびECの在庫コントロールに取り組みたい、
再構築をしたい、組織と役割を見直したいという企業経営者様、事業責任者様向けの内容です。

定員10名様限定、参加2大特典あり

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https://dwks.jp/2021/04/22/seminar-20210520/

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April 26, 2021

着なくなった衣服の廃棄を減らすためにできること~環境省の「ファッションと環境」レポートから

Sustainable-fashion4月23日の繊研新聞に環境省が日本で消費される衣料と環境負荷について2020年12月から2021年3月の間に調査した内容をまとめた「ファッションと環境」に関する調査結果の解説記事が掲載されていました。

記事で紹介されていた環境省の調査によれば、
2020年度 78.7万トンの不要となった衣服が家庭や事業所から手放されましたが、
うち95.4%にあたる75.1 万トンが家庭から、
残り4.6%の3.6万トンが企業や事業所から手放されたとのことです。

そのうち、家庭から手放された衣料の行き先の内訳は

・49.6万トン(66%)が可燃ゴミ、不燃ゴミとして「廃棄」され
・15万トン(20%)がリユースショップやフリマアプリ再販されたり、海外に輸出されたり古着として「リユース」され
・10.4万トン(14%)が資源回収から服の原形をとどめない、別の用途で再利用される「リサイクル」に回ったようです。

ちなみに事業所からのものは、
それぞれ、廃棄1.4万トン(38%)、リユース0.4万トン(11%)、リサイクル1.9万トン(51%)だったそうです。

※重さ(トン)ではピンとこないので、以下に数量(点数)化した数字をご紹介します。

要は、家庭から手放された衣服の2/3がリユース、リサイクルされずに、そのまま廃棄されているという実態です。

もう少し詳しく知りたかったので、

この調査結果をエンドユーザーや企業向けにまとめた環境省の関連サイト「SUSTAINABLE FASHION(サステナブルファッション)」を閲覧してみました。

https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html

このサイトの主な目的は、

範囲が広すぎてどこから行動に移したらよいのかが判りづらい、
「サステナブル」という言葉を、より具体的な行動につなげてもらうために、

環境に負荷が大きいと言われるアパレル製品が
今後、大量生産、大量消費の末、大量廃棄とならないよう、

まずは、不要となって「手放された衣服」の廃棄問題にフォーカスして、
この問題を軽減するために、これから、消費者と企業が具体的に取り組めることを伝えることにあります。

こちらのサイトを見て、

まず、上記でも触れた手放された衣服の重さ(トン)ではピンと来なかったので、同サイト内の数字を使って数量化(点数化)を試みました。

計算してみると、服1着あたり平均480グラム相当

すると、

家庭から手放された点数は年間約15億点となります(一人あたりで言うと12点)

内訳は
廃棄    約10億点
リユース  約3億点
リサイクル 約2億点分

となります。こうして、点数化すると、少しは実感が湧いて来ますね。

この結果に対し、圧倒的に大多数を占める廃棄を、今後、いかに少なくするか?

このレポートでは、結果や抽象的な提言にとどまらず、

1 今持っている服を長く大切に着よう
2 リユース(再利用)でファッションを楽しもう
3 先のことを考えて買おう
4 作られ方をしっかり見よう
5 服を資源として再活用しよう

の5つトピックに対し

それぞれ

〇消費者として取り組めること

〇企業として取り組めること

を、具体的な提案(啓蒙)と共に、実際の取り組み事例が紹介されていることは評価に値します。

単に、服を買わない、持たない、という消極的な姿勢を取るのではなく・・・

服の特性をもっと理解して、1着の服と大切につきあう、活かす。

手放す時も、可燃ごみや不燃ごみとして、捨てるのではなく、

リユース店に持ち込んだり、フリマアプリなどで再販したり、寄付に回せるようにハードルを下げたり、

それでも面倒なので、消費者が手放そうとする時も、よりストレスの少ない回収インフラを整え、

着なくなった服に、第2の生命を与えるチャンスをつくることを企業が応援する。

消費者も企業も、そんなことを意識する時代に向かっている、というわけです。

この時代の流れ、筆者も2019年2月に出版した「アパレル・サバイバル」の後半部分で同様の論説を展開をしていましたので・・・

いよいよ省庁が旗を振って、そんな世の中に向かい始めるのだな、と共感、歓迎をしながら、サイトを閲覧したものでした。

こちらのサイト、最近、SNS上でも話題になり始めているので、関心のある方は閲覧をされることをお薦めします。

環境省:SUSTAINABLE FASHION(サステナブルファッション)

注:1か所だけ、服の国内供給量について触れている部分、「1990年と比較し、衣服の購買量は横ばいですが、供給量は約1.7倍に増えています。」というところ。「購買量が横ばい」という表現は間違いだと思います。
このサイトに実際に出ている数字どうしを計算しても、服の購買単価が、1990年比で47%に下がり、同購入点数は1.5倍に増えていることになりますから。購買量以上に供給量が増えていることはあり得るかな、と思います。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギは、服のライフサイクルを意識し、顧客の持続可能なクローゼットのワードローブの循環をお手伝いすること。大量生産、過剰供給時代を超えて、新しい時代のお客様との関係構築がテーマです。

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April 19, 2021

前年比だけにとらわれない経営を

2昨年(2020年)3月から業界がコロナショックの影響を受け始め、
多くの企業で前年同月の実績と今年の同月の業績の対比(前年比)が困難になりました。

そのため今年は前々年(2019年)の実績を参考に計画を立てたり、
今年の実績を前々年対比でどうなのかを評価する機会が増えました。

販売検証をする実務の現場では、以前から前年に異常値があると、2年前対比や3年前対比はよくやる切り口なのですが、

ここのところ、各メディアのニュースでも「前々年対比」に触れる記事が多くなったように感じます。

これは2011年の東日本大震災時が比較にならなかった2012年の時以来でしょうか。

もちろん、災害については、心から、二度と起こらないことを祈りますが、
世の中が前年比だけにとらわれず、今後も、もう少し長い視野(スパン)で業績評価をするようになる傾向については歓迎したいと思います。

そもそも、「前年対比」は、平時においては、

上場企業であれば、既存店売上高の前年比が目先の株価に影響したり、

営業現場では、売上が予算に届かない時に、
予算には届かなかったが、前年よりは売れている、など、前年比を言い訳に引っ張り出すなど・・・

ある意味、最も身近な尺度のひとつかも知れません。

一方、「前年比」は比較しやすい(出しやすい)ものの、前年の状況次第では参考にならない尺度であることも少なくありません。

前年が天候やトラブルで売れなかった、逆に特需があったなど
前年のハードルが低ければ前年比が大きく伸びるのは当たり前、その逆もそうです。

特に、小売業はどうしても「前年比」という短期視点に一喜一憂しがちですが・・・

もう少し中期から長期視点で事業の推移を見るべき(3年平均成長率など)である、ということは、

筆者が「ユニクロ対ZARA」の取材時にスペイン、インディテックス社のインタビューに伺った際に、同社広報部の方とのディスカッションの中で気づかされた視点でもありました。

そんな経験もあり、同著執筆以降は、面倒でありますが3年から5年分を時系列に並べて業績を観察することを習慣というか、肝に銘じています。

特に、特定の事業のこれまでの軌跡や健康状態やライフサイクルを知る上で、取っ掛かりとしての長期(5年から10年)時系列推移分析は有効です。

グラフにして、売上や営業利益のアップダウンに着目して・・・

売上や営業利益のピークを発見し、そこで何が起こったのかを深堀りし、その時と比べて、今、何が良くて何が悪化しているのかを見て・・・

今後の伸び代や、改善余地や次の目標を考える。

これ、ここ5ー6年、筆者がコンサル現場でも、よく行っているアプローチです。

最近の例で言えば、前回のしまむらのエントリーであれば、

まず、同社の2000年以降の業績を時系列で並べてみると(以前WWDジャパンの連載で行いました)、

2017年2月期がここ20年間の売上高、営業利益のピークがあることがわかるので、

その時と比べて、足元は何が良くて、何がいまいちなのかを要素ごとに分析したりするわけです。

ところで、WWDジャパンに月イチで連載させて頂いている、
上場企業の決算書の見方を解説しながら、業務改善の切り口を浮き彫りにする連載記事

「ファッション業界のミカタ」

はおかげさまで連載スタートから2年が経過し、3年目に入りましたが、

ここでも、決算書を前年比だけではなく、3年以上時系列で見ることを心がけています。

ご存じのように、通常、決算書は前年比で構成されているので、
3年以上を比較するには、最低2期分以上の決算書を見て並べないといけないことを意味しています。

ひとつの企業にフォーカスして分析する時は

●10年以上の時系列で見て、気になるところを深掘りする

●売上高ではなく、営業利益で考える

●利益を生み出すビジネスモデル(経費構造、BS構造)から考える

また、

●公表されている数値どうしを割り算をして、
単価や単位あたりと言った、購買行動や経営の最小単位にして、その効率の推移を見て考える

●年間ではなく、四半期に分解して、複数年度比較して、アパレル特有の季節ごとのその企業の特徴やクセを掴む

などが、筆者がよく行うアプローチです。

企業の業績は、当然「顧客購買行動」なしには語れませんし、

企業の戦略、戦術には必ず経営者さんや企業のイズムやポリシーが表れますから、

決算書の数字を通して、頭の中で勝手に経営者さんや経営幹部さんと対話をすることを楽しむことにしています。

話を元に戻すと、

大変な時も、平時も、業界企業が健全な中長期ビジョンに基づいて経営するために、

前年比にとらわれず、中長期で業績を考えることを推奨したいと思っています。

【WWDジャパン主催 オンラインセミナーのお知らせ】

5月後半からスタートする、WWDジャパン主催のオンライン連続セミナーに登壇いたします。
昨年は「ユニクロ対ZARA 2020」に登壇させて頂き、好評を頂きましたが、
今年は、世界アパレル専門店企業トップテン、ZARA、ユニクロ、ZOZOの決算書から読み取るべきことが各回のテーマです。
まずは、peatixで申し込みが始まりました。
今回は、ウェビナーではなく、対話型で進めますので、人数限定です。
お早目にお申込み下さい。
WWDジャパン主催オンライン連続セミナー「ファッション業界のミカタ」

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARA。これから進む道も、経営者の経営信念、ビジネスモデルとその変遷を理解すれば、見えて来ます。両社の比較分析が、未来のアパレルビジネスを考える上で、とても参考になると確信しています。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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April 06, 2021

世界アパレル専門店売上ランキング2020 トップ10

4cimg0441 世界中がパンデミックの影響を受けた2020年度。 世界の大手アパレル専門店各社の決算が出揃い、売上高や営業利益などをまとめる機会ができましたので、毎年恒例になりました売上高ランキングTOP10を共有させていただきます。

 円建て比較にあたり、為替レートは2021年1月末の €=127.04円、スウェーデンクローナ=12.54円、US$=104.21円、英国£=142.95円で換算しています。 

順位 社名 本社;決算期 売上高 前年増減 営業利益 営業利益率 期末店舗数 基幹業態
1位 インディテックス (西;2021.1期) 2兆5,918億円 -28% 1,914億円 7.4% 6,829 ZARA
2位 H&M (瑞;2020.11期) 2兆3,453億円 -20%  388億円 1.7% 5,018 H&M
3位 ファーストリテイリング (日;2020.8期) 2兆0088億円 -12% 1,493億円 7.4% 3,630 UNIQLO
4位 GAP (米;2021.1期) 1兆4,380億円 -16% -898億円 赤字 3,715 OLD NAVY
5位 Lブランズ (米;2021.1期) 1兆2,344億円 -8% 1,645億円 13.3% 2,669 Bath&Body Works
6位 プライマーク (愛;2020.9期) 8,436億円 -24%  517億円 6.1% 384 Primark
7位 しまむら (日;2021.2期) 5,426億円 +4%  380億円 7.0% 2,199 しまむら
8位 NEXT (英;2021.1期) 5,183億円 -17%  548億円 10.6% 491 NEXT
9位 アメリカンイーグル (米;2021.1期) 3,917億円 -13% -282億円 赤字 1,078 AEO
10位 アーバンアウトフィッターズ (米;2021.1期) 3,594億円 -13%      4億円 0.1% 645 Anthropologie

※お断りですが、大手企業の中で、アメリカのTJXやROSSのようなオフプライス・ストアは過剰在庫の買取販売が中心ということで、除外させて頂きました。
また、非公開企業で欧州大手アパレルチェーンC&Aおよび中国で急成長中の越境ECファストファッションSHEIN(シーイン)あたりもTOP10にランクインする規模と思われますが、それぞれ、売上高がつかめなかったため、除外しております。                              

【解説】

全体を見渡すと、経営破綻した米アセナリテール(前年7位)が消え、10位以下に控えていたアメリカ企業がランクインした格好ですが、上位6位までのランキングは2019年と変わりはありません。

以下、1位から5位について、そして、気になるところにコメントさせて頂きますね。

1位のインディテックスは

通期コロナの影響を受けて大幅減収、減益も、7.4%の営業利益率を上げたのはお見事でした。

全世界の店舗でRFIDの導入と各国EC在庫と店舗ストックルーム在庫の一元管理が完了し、世界のどのアパレル専門店よりも、いち早くオムニチャネル化が完成した、と言ってもよいでしょう。

EC売上比率は店舗の売上減もあって33%に。これからは同社のDXは顧客のスマホを使った店舗での拡張体験へ、そして、次のテーマである、サーキュラーエコノミー(循環型経済)に力が入ります。

関連エントリーーZARA(ザラ)のインディテックス2020年度決算。大幅減収減益も、全世界でECと店舗の在庫一元化が完了し、盤石体制に。

2位のH&Mは

第1四半期に売上、利益の改善が見れたものの、その後、3つの四半期がコロナの影響を受けて、大幅減収、減益も、何とか黒字着地させた経費コントロールと仕入コントロール力はさすがです。

店舗閉鎖の影響もあり、EC売上比率は28%に。

これからは、遅れていたデジタル化へのアクセルが回復のカギとなるか?それとも、やはり、低価格品はECでは損益が取りづらく、苦戦するのか?注目の1年になります。

関連エントリーーH&Mとインディテックス(ZARA)の決算進捗に見る パンデミックの欧州グローバルチェーンの業績への影響

3位のファーストリテイリングは

年間のうち、半期分、コロナの影響を受けながら、市場は日本、中国が中心。欧米に比べ、市況回復が進んでいるため、欧州勢よりは、有利な環境と言えるでしょう。

特に国内ユニクロ事業の第4四半期の体質改善と踏ん張りは、柳井会長の執念を感じ、目を見張るものがありました。

今期は、3月から消費税分値下げした分を、同社がどう利益を確保するのかに注目です。

関連エントリーーファーストリテイリング20年8月期決算に見る、国内ユニクロ事業の凄さ

4位のGAPは

大幅減収赤字、GAP、バナリパで228店舗閉店とリストラが続きます(GAP事業売上前比73.0%、バナリパ事業は同57.5%)。

店舗売上減で、オンライン売上は54%伸びて、EC売上比率は45%に(前年は25%)。

5位のLブランズは

ヴィクトリアズシークレット(VS)のリストラ後の見事なV字(利益)回復と言ってよいでしょう。営業利益額だけを見ると、インディテックスに次ぐ、世界第2位の位置づけです。

ヘルス&ビューティのバス&ボディワークス(B&BW)は、パンデミックに関わらず、店舗が前年並みをキープし、既存店+ECが45%増と大躍進。ECは倍増で、いよいよVSとB&BWの売上が逆転しました。

ヴィクトリアズシークレットの店舗の整理はついたようなので、今期は大幅増収増益が期待できそうです。

関連エントリーーファッション&ビューティー市場の変化を見極め、事業ドメイン転換で勝ち残る、米 L Brands(エル・ブランズ)

以下、6位以下で、めぼしいところを付け加えますと、

しまむらがトップ10企業の中で唯一の増収増益。なんと、7位に浮上です。

これは、品揃え改革(同社らしい多品種小ロット高速回転の原点回帰)によって、かつての販売効率を回復しつつあるのが大きな要因です。

一旦、かつての販売効率まで戻った後、出店余地の限られる日本国内で、どのように、収益を伸ばすのかが、焦点になります。

8位のネクストは、得意の店舗網、物流網を活かし、クリック&コレクト(オンライン注文の店舗受取り)を上手く併用しながら、オンライン売上比率が昨年の50%から65%まで高まりました。

今後、力を入れるのは、そのインフラをフル活用した、他社ブランドのEC事業(オンライン受注から配送まで)を、まるっと代行するという、NEXT TOTAL Platform戦略への取り組みとのこと。これは、興味深いです。

この取り組みは、確立されたチェーンストアとして、違った意味で、世界一のインディテックスよりも先を行っている発想かも知れません。

今後、デジタルシフト後のチェーンストアのありかたの一例として、今後、深堀りしたいと思います。

さて、まだまだ、パンデミックの影響が残る、2021年度のランキングはどうなるでしょうか。

筆者としては、ZARAのインディテックス、ヘルス&ビューティへのドメインチェンジが進むLブランズ、チェーンストアの強みを活かしつつ、プラットフォーマーとしての付加価値を追求するNEXTの3社に注目したいです。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARAの共通点とアプローチの違いを体系的にまとめ、多くのファッション専門店のブランディング、マーケティング、商品開発、販売戦略、ひいては経営理念の参考にしていただける内容に仕上げました。ユニクロが売上規模も世界2位になるのは時間の問題。ますます、両社の比較分析は世界のアパレルビジネスにとって参考になることでしょう。

 「ユニクロ対ZARA」(2014年発売) を2018年のデータでアップデートした文庫本です。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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March 29, 2021

ZARA(ザラ)のインディテックス2020年度決算。大幅減収減益も、全世界でECと店舗の在庫一元化が完了し、盤石体制に。

Zara-onlineZARAを展開するインディテックスグループの2020年1月期決算報告 FY2020 RESULTS

に目を通しました。

同社の決算期は2月~翌1月期なので、通期(全四半期)すべてがパンデミックの直撃を受けた1年でした。

但し、営業赤字だったのは、1Q(2-4月期)のみで

通年では、

売上高 20,402百万ユーロ(日本円換算2兆5918億円)と前年比72.9%(27.1%減)

粗利率 は前年55.9%→55.8%とほぼ変わらず

販売管理費 は 前年比83.2%(16.8%減)に抑え、

営業利益 1,504百万ユーロ(日本円換算1,914億円)前年比31.5%(68.5%減)

営業利益率は前年16.9%→7.4%と下がりましたが

営業黒字で着地しました。

インディテックス社の決算発表により、大手3社が出揃い、

2020年度の世界アパレルチェーン売上高ランキングのトップ3は

1位 インディテックス(ZARA)  1月期  2兆5,918億円(1,914億円 営業利益率7.4%)
2位 H&M           11月期  2兆3,752億円(227億円 同1%)
3位 ファーストテイリング    8月期  2兆0,088億円(1493億円 同7.4%)

に確定しました。

2019年度のランキング

世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

とトップ3の順位の入れ替わりはありません。

同社の期末店舗数は

7469店舗から→6829店 と640店舗の純減です。

内訳は閉店 751店 新店 111店 96店改装(うち45店が大型化)です。

これは慌てて閉めた、というより、中長期計画の計画通り。

在庫に関しては、期末在庫は前年よりも9%少なく、

4半期ごとに見ても前年よりも10%少ない在庫水準で回していたようです。

 

今回の同社の決算の最大のトピックはECの大幅売上拡大と世界全店舗のオムニチャネル体制の完成でしょうか。

EC売上高は77%増の6,600百万ユーロ(日本円換算 8,384億円)

EC売上比率は32.3%と前年の13.2%から急増です。

このEC売上の拡大に寄与したのが、

同社のオムニチャネル施策(Fully integrated store and online platform)のコアにある

SINT(Single Inventory Integration)というコンセプトです。

要は、各国のEC向け在庫と店舗のストックルーム(バックヤード)の在庫を一元化し・・・店舗のストックルーム在庫をEC需要の引き当て対象にできるようにした、という話です。

これをリアルタイムに可能にしたのが、RFIDの全店導入完了です。

このRFIDも、自社開発。

ほとんどの企業が使っているRFIDは、主に、値札や洗濯絵表示に埋め込まれている、安価で使い捨てのチップですが、インディテックス社の場合は、全商品に、スペインの倉庫で取り付けられたセキュリティタグの中に埋め込まれています。

丈夫で高性能、更に、回収することで、何回も再利用ができるという優れものです。(高性能、1回あたりのコスト減、リサイクルで環境にも優しい)

使えるものは、再利用をするという同社のポリシーはこんな最先端のテクノロジーにも活かされているわけですね。

話をSINT(在庫一元化)に戻しますが、

同社によれば、これが、売上高比率32.3%になったEC売上高全体の中の12%分に寄与したとのことです。

通年COVID19の影響を受けても、まだ、世界一の売上規模と利益を確保したインディテックス社。

今後、同じような、ロックダウンで店舗を閉めなければならない事態になっても、商売を継続できる体制が整いました。

さまざまな変化に対して、柔軟な対応ができる、

という世界最強クラスのオペレーション・エクセレンスを見せつけた決算と言ってもよいのではないでしょうか?

近日中に世界アパレル専門店売上高ランキング2020年版も更新したいと思います。

お楽しみに。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARA。これから進む道も、経営者の経営信念、ビジネスモデルとその変遷を理解すれば、見えて来ます。両社の比較分析が、未来のアパレルビジネスを考える上で、とても参考になると確信しています。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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March 15, 2021

ファッション&ビューティー市場の変化を見極め、事業ドメイン転換で勝ち残る、米 L Brands(エル・ブランズ)

Bbwアメリカでヴィクトリアズ・シークレットを展開する米Lブランズ社の2021年1月期決算速報が発表されたので、目を通しました。

売上高  1兆2403億円  (前年比92%)
営業利益 1,653億円  (前年比611%)
営業利益率 13.3%
($=104円換算)

コロナ禍のアメリカ市場中心の同社が減収ながら、増益という恐るべき数字をたたき出しました。

実は、前年の2020年1月期、パンデミック前にヴィクトリアズ・シークレットのダイナミックなリストラを敢行して、大幅減益としていたので、リストラを経てのV字回復なわけですが、それにしても、この規模でのこの利益は素晴らしいです。

その理由を探ってみましょう。

まず、主力業態のヴィクトリアズ・シークレットは全体の2割にあたる248店舗の大量閉店および店舗のFC移管で同事業自体の売上高は前年比72%と大幅減。

店舗とオンラインの内訳は、店舗売上高が前年比55%、残った既存店は前年比増収、そして、オンライン売上高は131%と伸びました。

一方、もう一つの主力業態である、ヘルス&ビューティー部門のバス&ボディワークスの店舗売上高は前年並み(100%)、オンライン売上が209%増と倍増し、事業全体としては前比120%の大躍進です。

この結果、ヴィクトリアズシークレットとバス&ボディワークスの2つの事業売上規模が入れ替わり、同時に、見事な復活を果たしたというわけです。
              2019年度 → 2020年度
バス&ボディーワークス      42%  → 54%
ヴィクトリアズ・シークレット   58%  → 46 %

また、この1年で、会社全体のオンライン売上比率は21%から35%となりました。

 

同社は、THE LIMITED STORE(リミテッド)やEXPRESS(エクスプレス)といったレディースウエア業態で、GAP社よりも先にSPA(アパレル製造小売業)ビジネスモデルで全米一位に登りつめたアパレル企業です。

店頭でのテスト販売や生産地からの空輸を駆使した、独自の高速サプライチェーンやQR対応も十八番です。

ヘンリ・ベンデル(今回のリストラで廃業)やアバクロンビー&フィッチ(分社化、別会社)も同社が買収後に規模を拡大したことで知られています。

同社は、2000年にH&Mがアメリカに上陸し、フォーエバー21と競合しながら、全米がファストファッションの渦に飲み込まれると、

2007年に、レッドオーシャン市場になったアパレル事業に見切りをつけて売却し、

一方、ランジェリー&ホームファッションのヴィクトリアズシークレットやピンクに事業の軸足を移し、ファストファッションと競合をせずに営業利益率の高い高収益企業として、

売上規模もGAPに続く全米2位、グローバルでも4ー5位クラスのファッションチェーンとしての企業規模もキープします。

2016年頃から、メイン業態であるヴィクトリアズ・シークレットが時代に合わなくなって業績失速するや、

その事業に執着することなく、ヘルス&ビューティー部門のバス&ボディワークスに軸足を移し、この度、何と、コロナ禍の最中にも関わらず、事業転換を完了させてしまうという、実に見事な変身を成し遂げました。

アパレルからランジェリー&ホームウエアへ、そしてヘルス&ビューティーへ

女性を取り巻く、ファッション&ビューティーマーケットで既存ビジネスに執着せず、顧客にとって、付加価値のあるところに機を見て乗り換え・・・得意のサプライチェーンマネジメントを活かしながら、応用して行く、創業者のレスリー・ウェクスナー氏のビジネスマンとしての商才には脱帽せざるを得ません。

市場の変化に対して、ここまで先を見て事業転換をできる経営者さんは、世界を見渡しても、そうはいらっしゃらないでしょう。

日本を見渡すと、マッシュホールディングスの近藤社長の着眼点がそれに近いかも知れません。

同グループは、常に、顧客のライフスタイルを中心に考え、上手にアパレル→ホームウエア→ヘルス&ビューティと多角的な事業拡大を果たしていらっしゃいますね。

Lブランズ社は日本ではあまり知られていないファッション&ビューティ系チェーンですが、その変遷をたどると、世界のファッション系チェーン企業が見習うべきことはたくさんありそうです。

是非、過去から今後の動向をお見逃しなく。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【オススメ本】 ファストファッションブーム後の顧客のファッションライフスタイルを考える。10年後のアパレル業界でのサバイバルのカギ、これからの顧客との関係構築がテーマのビジネス読本です。

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March 01, 2021

アパレル製品のサーキュラーエコノミーの現状と課題

Circular-economy以前、筆者もオフプライスストアに関するセッションで登壇させていただいた、業界の勉強会組織、FashionStudiesさんからご案内を頂き、

 以前の投稿はこちらーオフプライスストアは日本で拡大するのか?

さすてなぶるファッション® オンライン ♯02
衣服リサイクル 基礎編 #02 リサイクル素材をどうマーケットに浸透させていくか 

の公開動画を視聴させていただきました。(リンク先に3本の動画があります)

 

内容は伊藤忠商事が取り組む、回収した古着、裁断くず、残反を新しいアパレル製品・繊維製品にリサイクルするプロジェクト「RENU」についてと、そのプロジェクトに参加するH&Mの取り組みについて、そして、繊維素材のリサイクルの現在と、今後の課題についてでした。

このRENUプロジェクトについて、筆者が理解したところを簡単にまとめると、

・従来から、ペットボトルなどの非繊維原料を繊維素材にリサイクルして、アパレル製品化する試みはあったが、RENUは不要繊維製品から新しい繊維素材やアパレル製品にリサイクルする試みである。

・まずは、アパレル素材で最も使われている原料のひとつである、ポリエステル素材から取り組んでいる。

・主に、中国で回収した古着、裁断くず、残反、を粉砕、分解して、薬品を使って、精度の高いポリエステル原料(チップ)に再生し、それをもとに、ベトナムなど他国も含めてアジアでポリエステル生地を製造し、アパレルおよびスポーツ衣料とする。

・従来のペットボトル原料だと、原色を抜くのに手間がかかったり、希望の色を再現する上で制限があるが、当プロジェクトはバージンポリエステル原料(従来のポリエステル原料)と同じ発色が可能になる。

・バージンポリエステル製造には石油が必要となるが、当プロジェクトでは、すでにポリエステルになっているものが原料のため、石油を使う必要がない。

・従来のペットボトルからのアパレル製品は、リサイクルは1回のみ、その後は、廃棄の対象にならざるを得ないが、このプロジェクト(回収→リサイクル→製品化→使用後→回収)の流れに乗せれば、永遠に繊維製品を繊維製品に再生できる。

とのことです。

実際、日本でも、H&M、GU、グローバルワーク、デサントなどがRENUの素材を使って、アパレルへの製品化と販売を行っているようです。

この、繊維製品から繊維製品のリサイクルの課題としては、

ひとつは、コストです。伊藤忠の方も通常のポリエステル素材よりは、生地値は高め、とおっしゃっています。

これは、現在、業界の中でも、議論が重ねられていますが、

大手、特に上場企業はESG、エンドユーザーへのアピールも含めて、サステナブルなモノづくりが喫緊の課題になっているので・・・多少、コストが高くても、企業姿勢としては、取り組むかも知れませんが、

一方、エンドユーザーである消費者は、ファッション商品は、おしゃれであること、リーズナブル価格であることが前提にありますので・・・

理解あるエンドユーザーが増えているとは言え、価格転嫁されたら、当然、販売(購入)に支障が出ますし、また、高くて、売れ残り在庫をたくさん残してしまう原因になってしまっては、もともこもありません。

伊藤忠の方は、「エンドユーザーがRENUだから買ったのではなく、たまたま、購入を決めた商品の素材がRENUだった」というビジョンを理想としています。

もうひとつは、古着の回収から再生素材にするための国際規制です。

今回のセッションの質疑応答部分で触れていますが、バーゼル条約という国際協定があって、廃棄物のひとつである古着の国際間移動は法律で制限されています。

古着や裁断くずや残反を回収した国または地域で、せめて、繊維原料、ポリエステルの場合、チップにまでする加工を施した上でないと、海外に持ち出せないということになります。(日本の古着を中国に持って行って加工はNGと理解。)

つまり、回収とリサイクルテクノロジーは同じ国または、経済圏の中で完結しなければならない、ということになります。

整理すると、

1)現状は割高となるリサイクル後の生地と製品コスト

2)回収とリサイクル素材(原料)にするまでの技術および加工を現地で完結させなければならないこと

この2つが、今回のRENUに限らず、繊維製品のサーキュラーエコノミー型リサイクルの世界的な拡大に向けての課題になるようです。

以上を理解した上で、あらためて、以前、ご紹介した、インディテックス(ZARA)のサーキュラーエコノミーの取り組みがこの2点を上手く、解決している試みであることに気が付きました。

ファッション業界のサーキュラーエコノミーの取り組み


つまり、スペイン国内(店頭と街頭)で古着を回収したり、裁断工場を持って、多くの製品の裁断をスペインおよび近隣の自社工場で行っているインディテックスは、自ら、原料となる古着や自社裁断工場から出る裁断くずや残反を供給することができます。

これらを原料として、リサイクル素材を製造するレンチング社に供給できるため、出来上がった再生素材は安価に買い戻せるのではないか?(あくまでも、筆者の憶測です。)

次に、回収、リサイクル素材製造までがEU圏内(スペインとオーストリア)で完結するので、バーゼル条約には抵触しない。

それゆえに、買い上げたリサイクル素材を使って、つくられたZARAの製品コレクション「JOIN LIFE」が従来のZARAの商品価格の変わらない価格で販売できる所以なのではないか、ということです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)はアパレル業界が未来に向けて避けて通れない課題。

伊藤忠は再生ポリエステルに続いて、再生ナイロンのアクアフィルとも業務提携をしたというニュースが入って来ました。

今後、日本においても、繊維再生テクノロジーが開発され、日本で回収された古着から始まるサーキュラーエコノミーが実現することを期待しています。

繊維素材・繊維製品のリサイクルに関しての現状を知る上での基礎知識が得られ、問題意識も整理できますので、関心のある方は上記リンク先のfashionstudiesさんの動画の視聴をおススメします。

今後もこのブログでは、サーキュラーエコノミーのテーマにも関心をもって取り上げて行きたいと思います。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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February 22, 2021

メルカリ、ペイペイフリマ、フリマアプリの1次流通通販(EC)とのデータ連携

Closet

2月17日の日経MJにフリマアプリ大手のメルカリが、アパレル専門店大手アダストリア社他、8つのECサイトと連携し、ユーザーがECサイトで購入した新品商品が着用後に不要になった場合、手軽にメルカリに出品できるサービスを拡げて行くことに関する記事が掲載されていました。

記事によれば、20年春から始まったメルカリの提携先は・・・

アパレルECの「ショップリスト」、家電の「プレモア」、雑貨の「イデアオンライン」、今回発表したアパレル大手アダストリアの総合 ECサイト「.st(ドットエスティ)」など8社。

提携先は、今のところ、すべて、メルペイでの決済を行っているサイトのようで、

購入ユーザーがそれぞれのECサイトでメルペイで決済した商品が、メルカリのユーザーのアプリ内のマイページの中にある、「持ち物一覧」に自動で取り込まれ・・・

ユーザーが将来、その商品が不要になり、メルカリで売却したい、と思った場合、

その商品がメルカリで取引されている相場価格を元に推奨価格が表示されたり、出品の際に必要な、商品カテゴリーや商品紹介が自動表示されてユーザーの出品の手間が簡素化されるというものです。

今後、提携先とは、メルペイで決済していない場合(クレジットカードなど)も同様のサービスを提供する方向で話を進めているとのこと。

そうなると、いずれは、メルペイ決済を前提としない、多くのEC購入商品がメルカリに出品しやすくなるかも知れません。

同記事では、メルカリのライバルとなるペイペイフリマでも、ヤフーショッピング、ペイペイモール、ZOZOTOWNと同様の連携を進めていることも紹介されており、

フリマアプリ大手が

売ること(出口)を考えて、新しい商品を購入する(入口)購買行動

という、リユースショップやフリマアプリを賢く活用する、ユーザーから始まった新しい購買行動の促進を後押ししていることがわかります。

ファストファッションの市場浸透後、コロナショックによる巣ごもりの後押しもあり、
溢れ始めた自分のクローゼットの服を見直す機会が増えたエンドユーザー

流通企業が、エンドユーザーの「クローゼットのワードローブの循環」をどう手伝うか

が新品を販売する企業も避けて通れない、生き残りのカギになるであろうことを

拙著「アパレル・サバイバル」の後半部分で結構なページを割いて問題提起をさせていただきました。

一次流通企業にとっては、

大手であれば、これから、不要品回収から始まるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みが、進むことでしょう。

一方、大手ほど資金力、組織力がない中小企業にとっては、

自身の体力内で回収、リサイクル、リメイク、アップサイクル(染め直しも含む)をすることもできるでしょうし・・・

フリマアプリなど、第三者的なデジタル企業と組んで、ユーザーが不要になった商品を、それを求める他の人に届けるための手伝いをすることもできるでしょう。 

ある意味、それも、サーキュラーエコノミーへの取り組みの一環かと思います。

過剰生産、過剰供給を見直しするだけでなく、

お客様のクローゼットを健全にメンテ、循環させることをお手伝いしながら、

顧客の既存のワードローブと相性のよい、今シーズン風の新しい服をご提案する。

それが、これから求められるファッション流通企業の姿のひとつだと思っています。

それを牽引するのは、従来のファッション企業自身なのか、
それとも、未来から逆算するテクノロジー企業なのか?

今回のメルカリやペイペイフリマの取り組みは、そんな未来図に向かうはじめの一歩のように感じられます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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