ユナイテッドアローズのサンキューノート
先月末に出版された「ユナイテッドアローズ 心に響くサービス」(丸木伊参著 日経新聞出版社)という本を読みました。
同社の接客がなぜ他社より優れているかの理由がわかりますので、ファッションビジネスに従事されている方にお勧めしたいと思います。
特に、第一章に登場する「サンキューノート」はその象徴のひとつだと思います。
これは、ユナイテッドアローズ(UA)のスタッフひとりひとりが店頭で行った接客サービスに対して、一般顧客やファッションビルのデベロッパーから感謝された時の手紙や逸話が伝説のように詰まっているもので、日々更新され、イントラネットで社内公開され、なぜそれがすばらしいことなのかが幹部からコメントされ、特にすばらしいスタッフは表彰されるというものです。
ファッションリテーラーとして、お客様に「ありがとうございます」と言うのは当たり前ですが、
お客様に「ありがとう」と言われたことが何回ありますか?
その時、素直にうれしかったですか?それをやりがいと感じられますか?そして、またがんばろう、もっと喜んでもらおうと思えますか?
これが店頭を持っている小売業の醍醐味であり、楽しさであり、それを多くのスタッフと分かち合うのが、ファッションビジネスのマネージメントクラスの使命ではないでしょうか?
この「サンキューノート」のいくつかの事例を読むとわかるのですが、ファッション販売という行為や販売スタッフのイメージが、店頭でお客さんに商品を気に入っていただき、ご納得の上、実際に購入頂くところまでで完結していては、正直、そのようなサービスは実現できないであろう、とあらためて思いました。
そうではなく、その時点はもちろんですが、その先、つまりご購入頂いた後のお客さんの状況や気持ちまでイメージして思いやることができるかどうかでその時々の対応が変わってくるわけで、その実行の差が顧客の感動を呼ぶというわけです。
そして同社がすごいところは・・・
「束矢(たばや)ルール」という社内ルールに以下のような文章があります。
「お客様の要求を満たすことは、時には面倒くさく、能率が悪く、経費がかかることを肝に銘じ、ただひたすらお客様にサービスすることがユナイテッドアローズのつとめである。正しいサービスを行うことにより、正しい報酬をいただかねばならない。お客様あっての私たちである」
一般的に顧客第一主義を掲げている企業でも、実際には、売上や効率や経費削減が優先される中で、同社は、会社をあげて「能率が悪くても、経費がかかってもお客様の要求を満たすこと」を奨励、バックアップしているという点ではないでしょうか。
同社には、顧客からの感謝の「サンキューノート」と同様に、顧客からのクレームとその対処の事例が赤裸々に記されている「クレームノート」もあります。
ところで、マニュアルにとらわれず、理念のもとに、考える商人育成を目指す同社の新入社員研修は、
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応でうれしかったことは
どんなことですか?」
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応で嫌だったことは
どんなことですか?」
のグループディスカッションから始まるそうです。
当然、前者を励行し、後者をやらないようにしようという話です。
これらの話を読んでいて、私が、カジュアルチェーンで、カスタマーサポートの責任者を兼務していた時のことを思い出し、少々目頭が熱くなりました。
どちらかというと、立場上、重いクレームの対処に当ったものでした。いつも「そりゃ誰でも怒るよなぁ」と共感、同情しながらスタートし、できる限りお客さんの気持ちになって、誠心誠意対処し、実際、自分が納得するところまで突き詰めるまで体も動かしました。正直、経費も時間もかかりましたし、それをスピーディーにこなさなければならないことは言うまでもありません。
結果、「そこまでやってくれるとは思わなかった。最初はもう二度と利用しないと思ったけれど、あなたのような人が働いている会社はこれからも利用させていただきます。ありがとう」というメールを頂いたことは、今でも忘れはしません。それ以来、クレームが来ると、「よーし、この方をうちの会社のファンにするぞー」と思いながら対処を始めたものです。
私も、そんなお客様からクレーム転じて感謝された事例、そうできなかった事例、もちろんスタッフが感謝された事例、含めて、社内のグループウエアの掲示板にそのプロセスを事細かに掲載して、お客さんが望んでいる「何か」をスタッフのみんなに伝えようとしたものでした。
このUAの本には、他にも、明日から使える顧客満足向上のためのキーワードをいろいろ拾うことができます。是非一読ください。
また、私の「顧客サービスのバイブル」、アメリカの百貨店、ノードストロームでパートから役員に上り詰めた女性が書いた同じく是非読んで頂きたい良書をお勧めしておきます。
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Comments
いつも楽しく拝見させていただいております。
小生は長年現場で販売をしておりますが、最近、売上=顧客満足度と考え仕事をしてきたことが揺らいできております。私も含めお客さんの立場になったときに、この過保護、過剰顧客主義的にな状態は異常であります。「お客様は神様です」という言葉を間違って理解している販売員、顧客、経営者が多く残念です。
確かにクレーム対応がすばらしいと褒めることは、良いことなのかもしれませんが、クレームありきの考えかたが多く、本当に残念に思います。生産から、店頭まですべてどう考えているのか疑問であります。
と思いながらながら、今日もどんな出会いがあるか楽しみにしながら、お店に向かいます。
Posted by: 山下太郎 | February 05, 2007 08:04 AM
いつも楽しく拝見させていただいてます。
突然の質問なんですが、ご存知でしたらご教授ねがいます。
日本ではスタイリスト=雑誌やTVタレント、アーティストの服飾コーディネイトをする仕事、人。
と解釈していますが、アメリカでは ドレッサーdresserといわれる
という情報を得ました。アメリカでスタイリストというと、アパレル企業において自社の方向性を調整する人。つまりファッションコーディネイターを意味する・・・・・・。
英和辞書でみると 舞台衣装などの着せ替えや衣装を準備する とあったりします。 実際アメリカのファッション業界では日本でい「stylist」はなんという職業名になるのでしょうか。(業界の言葉として)
このブログ中に ファッションショーの花道を ランウェイともありました。
アメリカではfashion showイコール runwayといわれているのでしょうか。(業界の言葉として)
いきなりの質問。よかったらお答えください。
Posted by: 御宿 | February 05, 2007 12:33 PM
山下様
コメントありがとうございました。
顧客最前線にいらっしゃるご様子で、とても臨場感があるご意見大変参考になります。ありがとうございます。
おっしゃるとおりで、誰にでも過剰にすればよい、というものではなく、相手にあわせて上手に配慮したいところですね。
クレームありきも、確かに、本末転倒で、いかにクレームがおきないようにするか(現場の叫びを感じます)が第一義だと思いますが、この業界のことですから、起こってしまった時にどうするかを考えるのもリスクマネージメントなんでだと思います(汗)
これからもまた気軽にコメントしてくださいね。
どうぞよろしくお願いいたします。
Posted by: taka | February 05, 2007 10:43 PM
斉藤殿
以前コメントさせて頂いた販売員です。
覚えておいでであれば光栄です。
この記事に、私の経験や毎日の仕事の中で感じることに共通した部分がありましたので、投稿いたします。
UAの「サンキューノート」に関して
弊社にもお客様からのお申し出(お褒めやクレーム)を共有するツールがあります。また、スタッフの表彰も同様にあります。
私も有難い事に一度この表彰をもらいました。
受賞者は東京本部に呼ばれ、表彰状と報奨金の授与、本部での研修(社員育成部署による講義など)、そして「CS(Customer Satisfaction)」と刻まれた金のバッヂが授与されます。
今度弊社の店舗をご利用の際は、スタッフの名札のストラップにもご注目ください。(遭遇できる確立は低いかもしれませんが)
私が受けた講義でも
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応でうれしかったことは
どんなことですか?」
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応で嫌だったことは
どんなことですか?」
と、まったく同じ質問がありました。
これらを思い起こして自分の仕事に落とし込んで活用することの重要性は何もファッションリテーラーに限ったことではなく、販売はもちろん、それ以外の人と向き合う仕事全てにおいて共通であると考えます。
本来であれば、全店舗スタッフが上記の講義を受けた上で売り場に立つべきなのですが、なかなかそうもいかない。だからこそ店長をはじめ現場の管理者が同じ基準の教育を確実に実施しなければならない。しかしそれができていない、伝わっていないのが現状です。
私はここ最近、一販売員から販売員兼管理者に移行中で、部下育成の難しさを痛感している日々です。自分の経験や知識をもっと伝えていかなくては、と今一度反省しています。
「目配り、気配り、心配り」をしてお客様の期待以上のサービスを提供して初めて満足してもらえる、期待を大きく超えるサービスを提供すると感動につながる
全てのお客様にご満足頂くことは現実にはなかなか難しいですが、少しでも「全て」に近づけるように、一人ひとりのお客様を大切にして心のこもったサービスを提供する、ホスピタリティの精神をもってこれからも励みたいと思います。
お客様あっての販売員、店舗、会社なのですから。
以上、長文にて失礼いたします。
また機会があればコメントさせていただきます。
Posted by: takmi | February 09, 2007 01:51 AM
御宿様
コメントありがとうございました。
しっかりお答えしないと、と思いながら、考えているうちに遅くなりました。
日本同様、アメリカも俗語化することも少なくないので、最近の現地の業界動向はわかりませんが、あくまでも自分の認識を書かせていただきますね。
stylist は、2つあると思います。おっしゃるように、企業が決めた方向性をデザイン、色、素材に落とし込む職種の意味と、日本でいうところの雑誌撮影や個人のためにそのシーズンのトレンドにあったスタイルをコーディネートする人の両方の意味があると思います。日本では、後者の方が一般的に通っていて、逆に前者はクリエイティブディレクター(こっちはより方向性を決め、その後も調整する役ですね。)やチーフデザイナーという言葉を使うことが多いように思います。
dresserは、どちらかというと、着る側の人ではないか、と。たとえばベストドレッサーとかいいますよね。また、俗語化しているとしても、そのシーズンシーズンの方向性を表現するstylistよりもより、パーソナルスタイリストに近いニュアンスのような気がします。つまり、ファッショントレンドにあっているかどうかより、その人らしいかどうかが大切な職種であったり。
runwayは、基本的にはモデルが歩く花道ですが、たとえば「この前のパリのグッチのrunwayは素敵だった」なんて言い方する人もいますので、ショー自身を指すときもあるような気がします。
ざっとそんなところですが、もし、このコメントをごらんになって、もっと詳しい方がいらっしゃったら是非コメントいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
Posted by: taka | February 10, 2007 02:33 PM
takmi さん
もちろん覚えてますよ、今回もコメントありがとうございます!
>弊社にもお客様からのお申し出(お褒めやクレーム)を共有するツールがあります。また、スタッフの表彰も同様にあります。
私も有難い事に一度この表彰をもらいました。
すばらしい。おめでとうございます。これはホント励みになりますね。
>今度弊社の店舗をご利用の際は、スタッフの名札のストラップにもご注目ください。(遭遇できる確立は低いかもしれませんが)
気をつけてみてみます。
>私が受けた講義でも
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応でうれしかったことは
どんなことですか?」
○「あなたが、お客さんとして、店頭で受けた対応で嫌だったことは
どんなことですか?」
と、まったく同じ質問がありました。
これらを思い起こして自分の仕事に落とし込んで活用することの重要性は何もファッションリテーラーに限ったことではなく、販売はもちろん、それ以外の人と向き合う仕事全てにおいて共通であると考えます。
本来であれば、全店舗スタッフが上記の講義を受けた上で売り場に立つべきなのですが、
まったくその通りですね。
>全てのお客様にご満足頂くことは現実にはなかなか難しいですが、少しでも「全て」に近づけるように、一人ひとりのお客様を大切にして心のこもったサービスを提供する、ホスピタリティの精神をもってこれからも励みたいと思います。お客様あっての販売員、店舗、会社なのですから。
現場では、大変なことも多いかと思いますが、その気持ちをずっと忘れずに是非、多くのスタッフの方に身をもって伝えていってください。
今後も気軽にコメントください。よろしくお願いいたします。
Posted by: taka | February 10, 2007 02:45 PM
今回ご紹介いただいた本2冊とも読みました。
ヘルスケア・サービス(主に健診と医療)に従事する私たちにとっても、示唆に富むものでした。
明日も、エクセレントな仕事を目指します。
Posted by: ほそD | February 13, 2007 02:46 AM
ほそDさん
おはようございます。
いつもコメントありがとうございます。
2冊ともお読みいただいたとのこと、うれしい限りです。
そう、そのスピリッツはファッション業界に限らず普遍的なものだと思っていますので、少しでも日々の業務の「気づき」につなげていただければと存じます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by: taka | February 13, 2007 07:02 AM
いつも楽しく拝見させていただいております。
初めてコメントさせて頂きます。
ファッション系専門学校で教員をしているものです。販売職育成学科を担当する身として、大切にして欲しいと考えていることが、凝縮されている内容に驚きとうれしさを感じました。これからも販売員の地位の向上を自分たちで達成していけるような人を送り出していけるよう頑張って行こうと思える一冊でした
Posted by: 真田 | February 19, 2007 02:08 PM
真田様
コメントありがとうございます。
また、教育現場からのご感想、感謝いたします。
是非、その情熱を、明日の業界の楽しい売場を担ってゆく方々に伝えていってください。応援しています。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by: taka | February 20, 2007 06:59 AM