ラナ・プラザ崩壊事故に心を痛めて~片手は工場に、もう一方の手は顧客に触れていなければならない
1か月前、4月24日にバングラデシュ、ダッカ近郊の商業ビルラナ・プラザで起きた縫製工場崩壊の事故のニュースを聞いてショックを受けました。
その後、死者が1000人を超え、その犠牲者の方の数が増え続けるニュースを経済紙、業界紙で読むたびに今でも胸が張り裂ける思いがしています。
亡くなられた方々のご冥福、負傷者の方々のご回復をお祈りするとともに、こんなことがもう二度と起こらないことを願っています。
今回の事故は私がファッション業界で働き始めて以来、業界最大の惨事のひとつに違いありません。
私はバングラデシュに行ったことはありませんが、15年以上前まで商社勤務時代に欧米アジアたくさんの国でアパレル生産をしていて、現場の状況と商品のクオリティを自分の目で見て確認をするために生産オーダーをした縫製工場のほとんどすべてに足を運んだものでした。
その間、駐在員、現地社員が認め、セッティングしてくれたサプライヤーとの取引だったため、狭い工場、空調のイマイチの工場、汚いと思われる工場は稀にありましたが、危険を感じる工場は一軒もありませんでした。
文化も宗教も国民性も考え方も全く違うとは思いますが、隣国インドには頻繁に足を運びました。
その時、一生懸命ミシンを踏むオペレーター(縫い子さん)の方々に
「みなさんが作ってくれた服を同じくらいの年ごろの日本の若い人たちが喜んで着ているんですよ。」
と現地語に訳してもらった言葉に今でも覚えている、笑顔を返してくれた縫い子さんたちとの思い出が事故のニュースを聞いて崩れ落ちた思いがしました。
中国に続き、「世界の工場」と注目されるようになったバングラデシュ。繊維産業が外貨を稼ぐ最大の輸出産業と呼ばれるこの国で・・・
いち工場の経営者による人災ではなく・・・
ふつうに考えたら、いまさら欧州が業界ぐるみで、ファッションチェーンの多くが国の業界全体に改善を求める協定にサインをするかしないかとか、またEUも特恵関税を取り消すとかしないとか・・・
何んだか、管理不能な何か?信じられないこと?が起こっているようです。
5月11日付の日経新聞によれば、
・ 米ウォルトディズニーは事故以前の3月末までに工場事故の多発を理由にバングラデシュでの生産を打ち切っていた模様。
・ ZARAのインディテックスグループは事故を受けて同国で生産する会社との取引を中止したとのこと。
・ (商品生産の20-30%をバングラデシュに委ねる)H&Mはビルの防火対策について利害関係者と協議中とのこと(情報ソースはロイター)。
事故が起こってしまったら、いままでちゃんとやっていても再確認を、やっていなかったら今後繰り返さないようにしっかりやることは大事なことです。もし、管理不能なら止める決断も必要でしょう。
しかし協定にサインするか否かで済ます話ではなく、
自己完結型のSPA企業であれば、顧客に提供している商品がどんなところで、どんな風に作られているのかは知った上で、できる限り自社で責任を持って管理をする姿勢が大切なことは間違いありません。
今回のタイトル
「片手は工場に、もう一方の手は顧客に触れていなければならない」
“You need to have five fingers touching the factory and five touching the customer”
はインディテックスグループの創業者でオーナーのアマンシオ・オルテガ氏がビジネスの教訓にしているファッション小売業、特にSPA(アパレル製造小売)企業にとっての名言のひとつです。
このフレーズは、「(作りっぱなしではなく)顧客が購入するまで商品から目を離してはいけない」という意味で、商品を売り切るための在庫管理の信念として引き合いに出されることが多いですが、
同様に顧客に安心して買ってもらえる商品を供給するために、製造現場を、責任をもって、しっかり自己管理しなければならないという解釈もできるでしょう。
分業が進み、業者に頼めば商品が出来上がり、SPA(アパレル製造小売)ができる時代に・・・
今回の事故とこのタイトルフレーズの意味するところを忘れないようにして頂きたいと思いでいっぱいです。
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