ファーストリテイリング2016年8月期決算と今後の課題
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10月13日に発表されたユニクロを展開するファーストリテイリング(ファストリ)の16年8月期決算発表の報道やリリースIR資料に目を通しました。
売上高は1兆7864億円と前年比6%の増収、本業の儲けである営業利益は1272億円と同22%減の増収減益、営業利益率は7.1%(前年9.8%)に終わりました。
同社はここ何年間、売上高に関しては年率20%超の高成長を続けて来ましたが・・・
昨年度は一桁増(6%)に減速、また、今期2017年8月期も3.6%増の1兆8500億円の予測とのことなので、同社はひとつの踊り場を迎えたようです。
これは大黒柱である国内ユニクロ事業の伸び悩みと成長エンジンであるはずの海外ユニクロ事業の減速が要因です。
また、7.1%という営業利益率を見ると・・・いよいよファストリも普通の企業レベルの収益性に戻ってしまったのか、という印象を否めません。
この現状を踏まえて、同社は2020年にグループ年商5兆円を達成する目標を取り下げ、3兆円に下方修正をし、17年8月期は各事業のやり方を見直すための1年になる模様です。
とは言っても、その後、2020年までに3兆円の目標を達成するためには、それに続く18年~20年の3年間は18%の年平均成長率を維持しなければなりませんので、これもまた簡単なことではなさそうです。
今回の決算発表でファストリの売上規模が米GAPを抜いて世界3位になったという報道がありますが、
これは米GAPが今期第3四半期までが前年比3%減の減収基調であることと、1ドル=103円という円高の為替をベースにしたもので・・・
もし、今後ドル高が進めば、GAPを売上で抜くのは2018年度まで待たなければならなくなりそうです。
今回の決算発表は通期のネガティブな結果に対して、下期の回復基調(増収増益)を強調した決算発表でしたが・・・
通期を通しても評価すべき点が何点かあります。
ひとつは海外ユニクロ事業の中のグレーターチャイナ地域(中国、香港、台湾)の収益性です。
売上高は3328億円(前年比9.3%)で営業利益は365億円と11%の営業利益率を上げています。
海外ユニクロ事業合計が6554億円の売上、374億円の営業利益ですので、グレーターチャイナ地域の売上シェアは50%ながら、営業利益のほとんどを稼いでいるわけで、差し引くといかにそれ以外の地域が規模だけが拡大しているだけで儲けていないかがわかります。
もうひとつは、GU(ジーユー)の成長率と収益率です。年商は1878億円(32.7%増)に対して、222億円の営業利益で営業利益率は11.8%にまで高まって来ました。これは立派なものです。
メディアでは国内ユニクロ事業の伸び悩みだけが語られることが多い中で 国内のユニクロとGUの売上を足すと、
7998億円+1878億円=9876億円
日本のアパレル小売市場規模は約9兆3500億円(繊研新聞推計)と言われていますので、そうすると、ファストリの2ブランドだけで10.6%の市場占有率にもなるわけです。
おそらく、これ、ユニクロだけだったら成し遂げることができなかった国内シェア率の高さではないでしょうか?
しかも、同社の広告宣伝費の使い方はアパレル業界に限らず消費財マーケットの中でもトップクラスですので、
ユニクロやGUの価格設定や売り方や在庫の処分のしかたが毎シーズンアパレル消費市場全体に大きなインパクトをもたらすことは間違いありません。
ちなみに同社の中で構成比と収益力のあるセグメントだけを抜きだして売上高と営業利益を合算すると次の通りになります。
売上高 営業利益 (率)
国内ユニクロ(UQ)事業 7998億円 1024億円(12.8%)
UQグレーターチャイナ地域 3328億円 365億円(11%)
GU 1878億円 222億円(11.8%)
3事業計 1兆3204億円 1611億円 (12.2%)
グループシェア 73.4% 126.7%
この三つの事業に特化している方が、世界の株主もお喜びになるのではないかと思われる数字ですね。
さて、これからの同社の見通しと課題ですが、
GUに関しては、今までのようなユニクロとの棲み分けを行っていれば、しばらくはこの伸びを継続できると思われます。
もし喰い合うとしたら、ユニクロが売上の伸び悩みに業を煮やして売価変更を含めてGUとバッティングする価格帯を増やした時に起こりうるくらいでしょうか?
海外ユニクロ事業に関しては、経営資源をグレーターチャイナ地域に徹底的に集中して突き進むべきでしょうね。
ユニクロは中国ではすでに業界NO1で独走状態。
業務上、中国に研修講師で招かれて、いろいろなチェーン店の幹部の方々をお相手に話をしたり、当地のアパレル流通業界を見聞きする限り・・・しばらくユニクロを脅かすチェーン店が現れる可能性は薄いと思われます。
一方、100億円規模の大赤字で海外ユニクロ事業の収益を喰ってしまっているアメリカ事業はいい加減リストラすべきではないかと思えてなりません。
そして、屋台骨となるユニクロ国内事業ですが・・・実は、私は悲観的には見ていません。
以前も世界アパレル専門店売上高ランキングのエントリーでもご紹介しましたが・・・ファストリさんは自身よりも格下?と思っているかも知れませんが、第8位の英NEXT(ネクスト)の取り組みは大いに参考になります。
英NEXT(ネクスト)はイギリスにおけるGAPやユニクロのようなベーシックカジュアルの代名詞的なSPAであり、ファストリの柳井会長もユニクロを立ち上げるにあたりベンチマークした老舗ブランドのひとつとして知られています。
同社の高い営業利益率=20%のその理由のひとつは
成熟市場イギリスにおいて、早くから通販(カタログ、EC)に力を入れ、通販売上高比率が40%を超えているところにあります。
国内に540店舗ある直営店はここ数年、店舗数を増やすことなく、スクラップアンドビルトで、大型化を図り、総売場面積は着実に増やして微増収を続けています(既存店ベースでは微減傾向)。
独自の店舗網と物流網をフル活用して、ECサイトでの商品注文の翌日には顧客が指定店舗で商品を受け取れるサービスを提供し、通販事業の営業利益高は直営店よりも格段に高いという現実。
世界を見渡しても、マルチチャネルではなく、オムニチャネルリテイリングを本格的に実践している事例として、チェーンストア企業各社がお手本にすべきなのは・・・
アメリカの先端IT技術を駆使する新興業態などではなく・・・イギリスの老舗NEXTではないかと思っています。
ということで、NEXTの事例を見れば、ファストリが掲げるEC売上比率30%の目標も夢ではありませんし、営業利益構造の回復も見えてくる、そして、何より、ユニクロを購入する生活者の利便性も高まる・・・おそらく現在有明プロジェクトで試行錯誤している物流改革はその準備だと思われます。
国内ユニクロ事業には成熟マーケットでの出店飽和の中でもまだまだやることがたくさんありますね。海外の先輩たちが背中を見せてくれています。
【おススメ本】
すべてはお客様の期待を店頭で叶えるためにある。それが本書を書き終えた時に感じた、ユニクロとZARAからの最大の学びでした。
出版から2年経った今でも、おかげさまでアマゾン小売ジャンルランキング1位になることもしばしばあり、感謝しております。
「ユニクロ対ZARA(ザラ)」単行本 ソフトカバー(日本経済新聞出版社)
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