成熟市場イギリスで高収益を上げるNEXT(ネクスト)のオムニチャネルリテイリング戦略
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毎年このブログで最もアクセスを頂いているエントリーのひとつに世界アパレル専門店売上ランキングがありますが、2015年度のランキングで最も注目すべき企業は8位にランクするイギリスのNEXT(ネクスト)でしょう。
英NEXT(ネクスト)は1864年創業のベーシックカジュアルの老舗アパレルチェーンで、
米GAPと並び、ユニクロのSPA(製造小売業)お手本のひとつになったことでも知られています。
売上規模ではプライマークに抜かれ、TOP10の中では成長率も左程高くない成熟ブランド、日本でもゼビオがフランチャイズ展開をしていますが、コンサバでちょいとイケていないブランド(失礼!)に見られがちなため、これまで業界関係者もあまり注目して来なかったのが正直なところです。
しかし、NEXT(ネクスト)は2016年1月期決算で年商7152億円、20.5%の営業利益率をたたき出す世界の中でもトップクラスの高収益率の企業です。
以下は事業ごとの売上構成比と営業利益に関する数値です。
事業 売上構成比 前年比 営業利益シェア 営業利益率
英国直営店事業 57.2% +1.1% 47.2% 16.9%
通販事業 40.0% +7.7% 47.6% 24.4%
他海外FCなど 2.8% -15.5% 5.2% 37.9%
合計 100% +3.0% 100% 20.5%
通販事業の売上構成比40.0%は小売チェーンの中でも極めて高いですが、営業利益構成比47.6%には驚かされますね。
同社の通販事業(NEXT DIRECTORY)は英国を中心に世界70か国に展開し、過去20週以内に1回以上オーダーしているアクティブユーザーが457万人いるNEXTが手掛けるカタログおよびECビジネスの総称です。
同事業は
事業内シェア 営業利益率
1)英国通販事業 77.4% 27.5%
2)LABEL事業 10.8% 12.2%
3)海外通販事業 11.8% 15.7%
の3つから構成されます。
ネクストの通販事業の構成比の高さと収益性の理由をまとめると・・・
まずは、1988年にカタログ通販を始め、1999年にはインターネット通販を開始するなど、業界の中でも早くから取り組んだ先行者利得があるでしょう。
次に、ZOZO TOWNの「ツケつけ払い」ではありませんが、通販購入者は代金を分割払いができるクレジット決済(掛け売り)口座を設けていることも挙げられます。これにより、顧客の購買のハードルは下がりますね。
また、自ら築いた顧客網、通販および物流インフラを活用して・・・
本来競合するはずのナショナルブランドやインターナショナルブランドをセレクトし、ネクストの通販アカウントを持っている顧客に販売代行するLABEL(レーベル)というファッション商品のECモールのような機能を果たす事業があります。
これも既存顧客のまとめ買いや囲い込みに一役買っているようです。
さらに同社の通販事業の資料に目を通していて、着目すべきことは、
EC購入客の店舗での受け取り比率55%という高さでしょう。これは5年前の13%から飛躍的に上がった数字のようで、その理由はいくつかあります。
イギリスでは日本のヤマト運輸ほどきめ細かい対応を取る業者が出てきていないため、ECで注文した商品を不在により自宅で受け取りできない確率が高いことが挙げられます。
これに対して、NEXTは国内540の店舗網(アクセスポイント)と独自の物流網をフル活用し、注文した翌日の昼には送料無料で顧客の指定した店舗で商品を受け取れるというサービスを実施した結果です。
同社の資料を見ていて、ECモールを活用して通販売上を上げることに躍起になっている日本企業にとって、意外と「店舗での商品受け取り」というのは盲点だったのではないか?と思いました。
店舗での商品受け取りは顧客にとって、
運賃を払う必要がなく、自分の都合にあわせて受け取ることができ、あらかじめ決済を済ませていれば、お会計をする手間もいりません。
もし、商品を確認したり、試着をしたければ、店舗のフィッティングルームを使えますし、場合によってはその場で交換返品もできるでしょうし、また、店舗で気に入った商品が見つかれば買い足しも可能です。
一方、小売り側も
既存の物流網に載せることができれば追加の運賃コストはかからないし、顧客が来店してくれれば、ついで買いも期待できます。
接客販売するお店であれば、そんな絶好のご提案のチャンスはないでしょう。
ある商品を受け取りに来られるお客様がいらっしゃるとなれば、それに合うこんな商品もご提案してみよう、あんな商品はどうだろうか?とお待ちしている間も店舗スタッフさんのモチベーションが高まるのではないでしょうか?
あと余談ですが、通販で使われるダンボールの廃棄問題や無駄にトラック便や運転手さんを走らせたりする環境問題、労働問題も少なくなるでしょうから環境的、社会的にもよいのではないでしょうか?
もちろん、商品をどのように受け取りたいかは、お客様のお望み次第ですが・・・
以上のように店舗受け取りには顧客、店舗双方にたくさんのメリットがありますね。
そこに徹底的に投資をして来たNEXTの事例は・・・直営店とECのインフラを顧客のためにフル活用した、業界の中でも極めて正統派のオムニチャネルリテイリングのお手本のひとつだと思います。
昨今、ゾゾタウンやアマゾンなどECモールを経由しての通販売上の向上に努力してきたアパレルブランドは少なくありません。
その結果、各社の売上に占めるEC売上比率は高まり、業界平均も5%を超え10%へと向かっています。
しかし、以前ご紹介したエントリーのように
ECモールに任せきりにして、店舗業務との調和を取らないことによる課題も徐々に顕在化し始めているようです。
15年度のファッション商品のEC売上比率は7.8%に。10%目前に次なる課題は?
やはり、直営店を持つファッション専門店であれば、倉庫で宅配業者さんにダンボールを渡して、あとはよろしく!ではなく・・・
商品を自らの手でお客様に届けるところまでしっかりとフォローしたいですよね。
2008年に始まった流通革新である「ファストファッション」からまもなく10年、
次の10年のテーマとなる流通革新がはっきり見えてきました。
それは「オムニチャネルリテイリング」に他なりません。
これまでのECモール依存から今後は自社ECの強化へ、そして、
商品の店舗での受け取りを促進し、直営店とECインフラが一丸となった本格的なオムニチャネルリテイリングに取り組む時です。
ECモール~宅配便に任せていたお客様との接点を店舗をキーステーションにして取り戻そう!
【おススメ本】
すべてはお客様の期待を店頭で叶えるためにある。それが本書を書き終えた時に感じた、ユニクロとZARAからの最大の学びでした。
出版から2年経った今でも、おかげさまでアマゾン小売ジャンルランキング1位になることもしばしばあり、感謝しております。
「ユニクロ対ZARA(ザラ)」単行本 ソフトカバー(日本経済新聞出版社)
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