ファッション専門店のオムニチャネルリテイリングの取り組み事例の記事を読んで~在庫運用編
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2月10日の繊研新聞に折り込まれていたオムニチャネル特集は大変読み応えがありました。
広告を除く記事の部分はECに取り組む企業へのアンケートと業界オムニチャネル担当者の対談から構成されており、先進企業とその背中を追う企業のECやオムニチャネルリテイリングへの取り組みから業界全体が向かっている方向やステージと進捗度がとてもよく理解できました。
そもそも、同じブランドが複数販路で販売するマルチチャネルの先にあるオムニチャネルのオムニという概念は「全能」の意味、つまり理想郷なのでゴールに到達することは極めて難しい道のりです。
しかしながら、理想的なゴールのイメージを想像して、仮説を立てて、信念を持って進まなければ、
IT業者が提案する最新技術論やすぐにできる他社のものまねや目先の施策の延長に終始し、
担当者や現場がどこに向かっているのか?何のためにやっているのか?と振り回され、迷子になってしまい、投資も無駄になってしまうことでしょう。
ゴールとは・・・
店舗、オンラインにとらわれることなく、顧客のお悩みを解決する 「ユーザー・エクスペリエンス(顧客体験)」 に基づくものでなければならないことは言うまでもありません。
私は店頭在庫最適化のための在庫コントロール支援を生業にしているため、オムニチャネル関連の記事の中でも、特に在庫運用のところに目が行きますので、在庫関連の話題をご紹介しましょう。
まず、店舗とECの在庫連携に関するアンケート結果からは
質問項目別の「実現済み」の取り組みと「実現したい」取り組みの回答数の差を出してみると
業界各社の在庫連携の進捗度と今後の課題を読み取ることができます。
簡単に整理すると・・・
「ECでの実店舗の在庫表示」 (どの店に行けばその商品を手に取ることができるか)
は「実現済み」数が「実現したい」数を上回り、多くのの企業で実現し始めているようですが・・・
EC在庫の活用、すなわち
・店頭での欠品をEC在庫からお客様のご自宅にお届けること、
・EC注文商品の店舗での受け取り、
・ECからの店頭在庫の取り置き
・店頭での欠品をEC在庫から店舗にお取り寄せすること、
の順に、
「実現したい」数が「実現済み」数を大きく上回り、
お客様が実際に買いたい商品を特定した後に、お客様と商品在庫をマッチングさせるための運用部分が現時点で実現途上であることがわかります。
これらは、お客様とその要望を実現しようとする店舗スタッフのためにも是非、早く実現していって欲しいですね。
次に、具体的な企業の事例紹介を読む中で感じたことは、
百貨店アパレルよりも専門店の方が、EC担当に店舗販売経験者が多いこともあると思いますが、
顧客目線で店頭起点のオムニチャネル実現の意識が高く、それに向けた動きが進んでいるのはもちろんのことなのですが、
その中でも、駅ビル、SCで好調が続く婦人靴SPA、「オリエンタルトラフィック」の事例にあるように、
やはり、SKUが多く、在庫過多になりがちで、その一方でぴったりのサイズが無いと売り逃しが発生しがちなアイテム(靴など)を扱っている業態の方が、
一般アパレルよりも顧客の需要と在庫をマッチングさせる在庫運用に対して切実である、ということです。
記事によれば、同社は、昨年から
・店舗在庫とEC在庫を共有し、
・店頭の欠品をEC在庫から店舗に取り寄せたり、
・お客様のご自宅にお送りすることが実現できるようになったことで、
店頭での売り逃し削減の効果に手ごたえを感じ始めているようですね。
これはとてもいい感じでオムニチャネル時代の在庫運用が着々と進んでいると思いました。
オリエンタルトラフィックの取り組み事例を読みながら・・・
私が独立以来、現在まで10年以上も「在庫コントロール」を生業にして、多くのファッション専門店さんのコンサルティングやお手伝いをして来た、その背景にある「原体験」を思い出しました。
話は少し長くなりますが、オムニチャネル時代にも大事なことだと思いますので、ご参考になればと思いお話させていただきます。
私のコンサルティングのバックグラウンドには、アパレルチェーン勤務時代に、多店舗出店中のチェーンストアにおける在庫コントロールを会社ぐるみで運用したプロジェクトリーダーとしての実務体験があるわけですが、
さらに、その原点になっているのは、服飾雑貨バイヤー時代の靴の仕入と在庫運用の経験です。
アパレルチェーンの中でも服飾雑貨バイヤーは孤軍奮闘(特に中途採用ですし)、仕入から店頭在庫管理まで、何から何までひとりで行わなければなりませんでした。
当時は、商品仕入を行いながら、毎週末にはどこかの店頭に立ち、売場とバックヤード在庫を整理しながら、自ら靴を接客販売するとともに、同時に全店の靴の在庫コントロールに気を回す苦労の毎日。
サイズが少なく、選択肢の豊富なアパレルと比べて、お客様にぴったりのサイズでないと買って頂けない靴について、
せっかく店頭でお気に入りの商品を見つけて頂いたのに、その店にサイズがないことでお客様をがっかりさせないように、
たとえその時、その店にサイズ在庫がなくても、いかにしてどこかの店にある在庫を探し出してお客様の手に届けるか
に躍起になっていたものでした。
当時、前任者が全くサイズ登録していなかった靴の在庫を(ひどい!)、順次サイズ管理ができるようにシステムに再登録しながら、JANコード(値札)も貼り替え始めると・・・
靴の売上が徐々に上がり、過剰だった在庫がみるみる消化し始める現象が起こりました。
これは各店の各商品のサイズ別在庫が各店でデータ上確認できるようになり、それを知った各店のスタッフたちが積極的に客注を取り始めたためでした。
お客様は欲しい商品を手にすることが出来た、それを店舗スタッフがお手助けできた。
その後、社内で在庫コントロールのプロジェクトが全店の賛同と協力を得て進めることができた背景には、
そんな店頭での「ユーザー・エクスペリエンス」を思い浮かべながら、自らがお客様最適、店頭在庫最適に取り組んだ原体験に基づく信念が社内に通じたからだと思っています。
私の体験談は、お客様との接点である各店の在庫を最適化しながら、更に、全店で正しい在庫を把握できるように努めれば、同時に「客注」もストレス少なく進むという話ですが・・・
今、小売業界では在庫の精度はともかく、「客注」という行為はどこでもあたりまえの話になりましたよね。
それは「客注」がお客様のためになるし、どこでも当たり前のように行われているから「標準装備」になったわけです。
そして、今そして、これからもビジネスがリアル店舗だけでなく、EC(オンライン)にも広がっても、たとえ技術は以前と変わっても、
お客様が欲しい商品を実際に手に入れたい、それをお手伝いするのが小売業のミッション
であることに変わりはありません。
むしろ、店頭在庫と倉庫在庫とEC在庫を正しく把握できれば、オムニチャネル時代は昔よりも、ずっとお客様のお役に立てる時なのですよね。
IT技術論に煙に巻かれず、また、事業部の垣根(リアルvsEC)を飛び越えて・・・
小売業は「ユーザー・エクスペリエンス」に真摯に向かい合い、そしてそれを早く実現したものがお客様にますます喜ばれる時代になるはずです。
ちょっと古い記事ですが・・・
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