ZARA(ザラ)のデマンド型ファッションバリューチェーン
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5月中旬から月末にかけて日経新聞、日経MJ、繊研新聞、WWDジャパン各紙に
先ごろスペインのZARA(インディテックス)本社および物流施設で開催された日本の記者向けメディアツアーのレポートが掲載されていました。
私が2014年に「ユニクロ対ZARA」(日本経済新聞出版社)の執筆の際に同社を現地取材させて頂いた3年前からどんなことが変わったのか?に関心をもって各紙の記事を大変興味深く読ませて頂きました。
記事の内容の中で当時(3年前)と変わったこと、そして、私にとって琴線に触れた部分をまとめてご紹介したいと思います。
一番大きな変化は
全世界のZARAの店舗にRFID(ICタグ)の導入が完了し、物流の精度が上がり、店舗の作業軽減が図られたことでしょう。
同社では3年前(2014年)の取材時もRFIDの導入を着々と進めておりました。
RFIDと言えば、世界の多くの小売チェーンが値札にチップを埋め込み、使い捨てで運用しているのに対し、
同社は導入当初から「コスト」と「サステイナブル」の両方の観点から、回収再利用ができるように、値札ではなく、セキュリティタグ(防犯管理タグ)の中にチップを埋め込んで運用している説明を受けて、大変感心したものでしたが・・・
今回の報道では、彼らが使っているRFIDタグは100回再利用(書き換え)が可能なものであり、その後もタグそのものがリサイクルできるという話(WWD)に驚かされました。
RFIDの導入により、店舗では
-毎月2日間かけて行っていた棚卸が1時間で終わる、
-売れた商品をすぐに店頭に補充できる、
-その際、在庫のロケーションを確認するのに短時間で済む
などの作業軽減が図られたようです。
作業の効率アップとタイムリー性によって、売り逃しを削減できたことにより、
同社2016年度決算での既存店売上高10%増収にも寄与したことでしょう。
2つめは
同社ではトレンド商品の的中率を上げ、在庫リスク軽減を図るために全生産の6割を近隣国(PROXIMITY)で行っていますが、その近隣国の4カ国目にトルコが加わったことです。
3年前はスペイン、ポルトガル、モロッコの3か国を近隣国として挙げていましたが、
私が「今後、グローバル展開を進めた時にスペイン、ポルトガル、モロッコの3つの近隣国の生産キャパシティで対応しきれるのか?」と質問したのに対し
ヘスス・エチェバリア広報本部長は「その時はトルコを『近隣国』に入れることを想定している」とおっしゃっていましたのでそれが現実のものになったようです。
実際、トルコは既存の近隣国と比べてスペインからだいぶ離れています(ZARAの物流拠点のあるスペインガリシア州からトルコまでは4000km強)。
しかし、トルコのイスタンブールは、同社が毎週2回世界の店舗に商品を空輸する際のルート便の定期ルート上にあるため、多少距離はあっても同社にとって近隣国と変わらないとの返事でした。
スペイン-トルコと言えば、東京-ベトナムと同じくらいの距離でしょうか。
そんな距離も空輸でつないで近隣国として手の内に入れてしまうのも真のグローバル企業ならではです。
そして、3つめは
シーズン前に素材展で買い付けた素材の「6割を備蓄する」という話(繊研新聞)。
同社が素材(生地)を早めに手当てして、いつでもすぐに商品生産にかかれるように準備しておくことは周知のことでしたし、3年前にも本社併設の素材備蓄倉庫を拝見したものでしたが・・・
買い付けた素材の6割もの量を自社で備蓄しているとは驚きでした。
ここに、ZARAがシーズン中に店頭で顧客の声に真剣に耳を傾ける理由のひとつがあります。
つまり、買い付けた素材はシーズントレンドから予測して決めたもの、そして、それらの素材を使ってどんな商品をつくるかの構想はもともとあったはずです。
しかし、それが製品になった時、予想通りの量が売れるとは限らない、
ここが多くの企業が頭を痛めるファッションビジネスの難しいところです。
そのため、同社では、シーズンの始めに、まずは店頭に商品を並べる分だけ製品化しても(約3週分)・・・
残りの素材をどんなデザイン、サイズバランスの製品にして店頭に送り込むかは決めていない、
むしろ、シーズン中にどんなデザインが欲しいかは顧客に聴け、と考えているわけです。
ファッションビジネスにおいては・・・
デザイン、色、サイズ別の製品になったとたんに在庫リスクが発生します。
一方、素材の状態であれば、他のデザイン、サイズへ転用ができますし・・・
染色前の生地であれば色ごとの売れ行きに合わせて染める色の構成を考え直せばいい話です。
そして汎用性のある素材なら翌年でも使えます。(実際ZARAには毎年コートに使っているウール生地があります)
同社では、結構リスクを取って買い付けた素材を、
売れるかどうかわからない商品にしてしまうではなく、
できるだけ売れ筋商品になるように活かすために、
毎週 仮説としての店頭商品に対する顧客の反応をヒントとして世界の店舗から本部へフィードバックして、
改良版としてつくり足し続ける訳なんですね。
そういう意味ではZARAが毎シーズン行っている行為は・・・
シーズン中の「マス・テーラーメイド」なのかも知れません。
日頃から交流もあるWWDジャパンの記者である松下さんはZARAのオペレーションを
「顧客のニーズや店頭情報を基点としたデマンドチェーン」
と表現されました。
まさしくこのフレーズが日経MJの記事に取り上げられた私のコメントにある
「マーケットイン」の意味するところです。
マーケットインとはすでに店頭にある自社や他社の売れ筋を後追いすることではありません。
顧客の反応をヒントに未来の需要を予測して手を打つことです。
プロダクトアウト型のサプライチェーンからマーケットイン型のデマンドチェーンへ
グローバル競合の勝ち残りのために企業の発想の転換が迫られています。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
【おススメ本】
各紙の記事の内容や記事では触れられていないZARAのオペレーションを詳しく解説しています。
「ユニクロ対ZARA(ザラ)」単行本 ソフトカバー(日本経済新聞出版社)
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