8月末のロンドン視察のもうひとつの目的はイギリスで普及しているクリック&コレクトの現場を視察し、実際に体験してみることでした。
「クリック&コレクト(CLICK&COLLECT)」とは・・・オンライン(自社ECサイト)で購入を決めた商品を宅配ではなく、顧客の都合のよい店舗で受け取ることです。
このクリック&コレクトがEC売上急増中の日本のファッション消費の未来図のひとつになるかどうかにとても関心があったためです。
実際、ロンドンのオックスフォードストリートやリージェントストリートを歩くと・・・
2年前の視察と比べて、明らかに、百貨店から専門店、TOPSHOP、NEXT、H&M、ZARA、UNIQLOのようなチェーンストアまで、店頭のウィンドウに「CLICK&COLLECT」のロゴや店内でも受け取り場所を案内するサインがたくさん見受けられ、かなり普及して来たのだなと感じられました。
それらの店舗の受け取り場所で観察すると・・・
私が訪問したチェーンストアでは日中の時間帯だったからでしょうか・・・商品を受け取りに来ている顧客をほとんど見かけませんでしたが、
セルフリッジやジョンルイスといった百貨店の専用カウンターの夕方近くでは常時3-4人の受け取り顧客がカウンターに滞留し、セルフリッジではその場でプレゼントラッピングを依頼する顧客や鏡の前で婦人靴を試着し、スーツ姿の販売員に接客を受けるという姿も見受けられました。
店舗に在庫がない商品のオンライン購入を勧めている英老舗アパレルチェーンNEXTではレジ前のカタログとパソコンが置いてあるカウンターで店舗スタッフと一緒に商品を検索する女性の姿も見かけました。
IR(広報)によれば、NEXTではオンラインで注文して、都合のよい店舗で受け取るクリック&コレクト比率は注文件数の55%にあたるそうです(イギリス国内)。 一方、ZARAでは66%(グローバル平均)とのことです。
日本でいろいろな方々とこの「クリック&コレクト」の話をすると・・・
ヤマト運輸を筆頭にきめ細かい宅配便のサービスをかつ安価で当たり前のように享受している日本において、クリック&コレクトの顧客にとってのメリットに疑問をもつ方が大多数なのが実情です。
英NEXTでクリック&コレクト比率が高い理由は
- 夜12時までに注文すれば翌日12:00以降に商品が指定の店頭で受け取れること
- 宅配の場合3.99ポンド(600-700円)かかる運賃が無料になること
- 国内540店舗という店舗網により生活圏、通勤圏に受け取り易い店舗があること
- 一方、英国にはヤマト運輸のような2時間単位の時間帯で配達指定ができる宅配便がそうそう存在しない
などが挙げられます。 ちなみに店舗受け取りは1-2点の購入者が多く、多数注文の場合は運賃を払って宅配にするケースが多いそうです。
実際、数日の滞在期間中に外国人旅行者でもクリック&コレクトが可能だった百貨店のジョンルイス(John Lewis)と国内に多数の受け取り専用店舗を持つ通販会社アルゴス(Argos)で購入体験をしましたが・・・
オーダーから受け取りまで実に事務的で、スムーズに済む印象を受けました。
購入心理からすると、早朝でも夜でも自分が時間に余裕のある時間帯で商品を選び、クレジットカードで決済まで済ませておく。
自宅でいつ届くか?と待つことなく、外出ついで、仕事帰りなど、自分の都合で近くに寄った時に店舗でピックアップすればよい。待ち時間はほとんどない。
という感覚です。
EC発達の理由は、ECの方が安いから、という商品もあると思いますが、
第一は利便性と時短だと思います。
忙しい中、買い物時間を短縮できる、レジ待ちや代金支払い処理が短縮できる、短縮というか、自分の都合がよい時にお買いものの面倒な工程を自分のペースで済ませる、という感覚でしょうかね。
日本でこの「クリック&コレクト」の普及を考える時のネックはいくつかあります。
ひとつは
日本では、百貨店にしても、駅ビルやSCにしても、ECモールにしても、何かと場所を貸している商業施設側(館)と借りているテナント(ブランド店舗)という構図が多く、
なおかつ、固定家賃ではなく、売上歩合家賃制が多いので、ブランド側の自由が利かないことが多いところでしょう。
したがって、オンラインで決済を済ませておくのではなく、商品はあくまで仮予約で店舗に取り寄せておいて、店舗で決済するという形になるでしょうね。(日本では「無印良品」がそのパターン)
それには他社任せのECモールではなく、自社EC(オンラインサイト)の活用が前提になりますが・・・
もうひとつは
これまできめ細かいサービスで届けてくれていた宅配便の未来です。
果たしてECの普及が今の倍になったとしても、今までのように同じ良質なサービスをかつ安価で提供できるのでしょうか?それが難しくなってきているのは昨今の宅配便クライシスの報道の通りです。
また、コンビニ受け取りや駅の宅配ロッカーが普及すれば倍の量に耐えきれるのでしょうか?という疑問もあります。
いずれにしても、ブランド側が自社ECに力を入れ、物流も整え、店舗での受け取りのメリットを明確に打ち出すことによって、サービスの認知度が高まれば・・・
受け取りのひとつの選択肢として、これまでよりも件数が増えて行くであろうし、そこに実店舗を持つ企業のオムニチャネル時代のビジネスチャンスがある、というのが私の見方です。
最後に、クリック&コレクトを世界的に推奨しているZARAのインディテックスグループが昨年から経営方針に掲げているフレーズをご紹介しましょう。
Seamlessly integrated on-line and off-line store model
(継ぎ目なく統合されたオンラインと実店舗のストアモデル)
彼らが目指しているのは、オンラインでもオフラインでも、
顧客がいつどこにいても情報を得ることができて、
欲しい商品をスムーズに見つけることができ、
どこでも購入でき、都合のよいところで受け取ることができる。
返品交換する時も同様である。
顧客をビジネスの中心において・・・それをいかにサポートして行くか?
そんな世界を目指して同社はインフラを着々と整えています。
日本の小売ビジネスは「顧客満足」と言いながら・・・
百貨店、ショッピングセンター、ECモールなど「販路(チャネル)」に頼った発想が強く・・・
何かとそれらの都合が先に立ち、顧客が不便を被ることも少なからずありますよね。
SPAが製販垂直統合によってサプライチェーンの分業の常識を崩したように・・・
Vertically integrated manufacturing and distribution store model
これからのオムニチャネル時代は「販路」の常識を崩す必要がある、
Seamlessly integrated on-line and off-line store model
と同社が宣言しているフレーズのように思えてなりません。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
【おススメ本】
2008年のH&Mの日本上陸以降、グローバル競合の波に飲み込まれた日本のファッション流通市場。グローバルな視点で考える上でも参考にしていただければ幸いです。
「ユニクロ対ZARA(ザラ)」単行本 ソフトカバー(日本経済新聞出版社)