« ロンドン視察から 日本でのクリック&コレクトの普及を考える | Main | しまむらが2018年からネット通販を開始 独自の物流網をどう活かせるか? »

September 18, 2017

在庫データの精度を高めて「ラスいち」を売り切れ

注:この記事は2017年9月に投稿されたものです。

先日、東京ビッグサイトで開催されたRFIDなどの最先端自動認識技術で製造・流通・物流などをソリューションする企業事例を紹介する「自動認識総合展」に行って来ました。

 目的は「自動認識のベストプラクティス」というセミナーで

・アダストリア社が行っているRFIDを使った海外工場~店頭までの国際物流実証実験の経過報告や

・国内物流~店頭でのRFID活用の先進事例であるビームス社の取り組み

の話を聴講するためでした。

 システム会社が売り込むほどは万能ではないRFIDの活用を・・・

 現場主義の両社がどのように運用しているかについての具体的な話を伺うことができ、同技術との付き合い方についてとても腹落ちして勉強になりました。

 最も印象に残っている話のひとつが

 ビームス社のシステム担当役員さんからの話の中で・・・

 RFIDによる棚卸作業の効率化、そのご利益としての在庫データ精度の向上によって・・・

 これまで閾値(しきいち)の設定上の関係でECの販売対象にできなかったラスト1点(ラスいち)が販売可能になり、今年の夏のセール初日の売上が過去最高になったという話です。

 話しによれば、なんと、販売品番の約3割が「ラスいち」品番だったとのことで、これらが過去最高売上の要因のひとつであったことは間違いないでしょう。

 閾値(しきいち)とは、実際の在庫データに対し、どれだけを販売対象にするかという数値の設定です。 

 例えば、在庫データの精度が低ければ、未知の棚卸ロスのために、在庫にないものを販売してしまうことを回避するため、

 各社は在庫が最低2-3点以上の商品をEC販売の対象にし、ラスト1点というものはその対象から除外する(販売対象にしない)ものでした。

 同社では年間10回棚卸をするという、もともと棚卸業務に試行錯誤の上、磨きをかけていた会社さんですが、

 RFIDのおかげで棚卸時間作業が10分の1となり、時間短縮された分、在庫データの精度を上げることに注力できたというもので・・・

 ご苦労の結果、データ精度に自信が持てたため、ECのラスいちの販売に踏み切ったようです。

 これ、すごくいい話だなと思ったのは、

 RFIDもECもなかったころの私自身の専門店勤務時代の話になりますが、バイヤーや在庫コントローラーとして店舗と一緒に「ラスいち」在庫の売り切りに取り組んでいた時に同じようなご利益を感じていたからです。

 在庫過多に苦しんだ服飾雑貨と靴のバイヤー時代、在庫回転を悪化させる要因のひとつが・・・

 「ラスいち」品番を含む一桁在庫数の品番群であることに気付いたからです。

 在庫を整理しようと思って、意識的に在庫帳票を見たことがある方はおわかりだと思いますが、

 帳票のページ(データであれば行数)の大方が過去何年間か放置されたこれらの売れ残り在庫ではなかったでしょうか?

 売れ筋商品で消化率がよい商品でも、各店では数量が少なくなるとお客様の目に届かないところに置いてしまうものです。店舗によってはバックヤードの中のダンボールの中ということもあるでしょう。

 店舗も本部商品管理チーム(バイヤー、在庫コントローラー)もそれらが眼中になくなっているのが実情で、放置しておくといつの間にか塊状態で「死に筋」になっているものです。

 これらをお客様の目に触れるように、各店にラスいちコーナー(またはラック)を設けたり、定期的に集約店舗に集めたり、回収してアウトレットで販売したり、福袋に入れたり・・・そんなルーティンができている会社さんだったらいいのですが、

 私の前職時代含め、独立後、関与したクライアント企業さんの在庫データを見させていただいても、多くの企業で同じことが起こっていることに気が付きます。

 それを放置したままで、「うちは在庫回転が悪い、在庫回転を上げるにはどうしたらいいか?」と悩んでいることも少なくないものです。

 おそらく、そんなものに時間を掛けるのであれば、新商品を、直近の売れ筋を売れ、というのが多くの企業さんの考えでしょう。 

 しかし、放置しておけばおくほど、在庫回転が悪化(在庫日数が膨らむ)してゆくのが実態です。

 これらの売り切りにしっかり取り組めば

○ 売上のプラスになる
○ 在庫回転がよくなる
○ 商品管理が楽になる データも軽くなる

そして、

○ 商品管理に携わるすべてのスタッフが より前向きにお客様が望む売れ筋商品に集中できる

 というご利益がありますね。 

 ラスいち商品はかつての売れ筋商品の残りですから、サイズさえ合えば、商品自体はお客様にとって魅力的なはずですから・・・手遅れにならなければ値下をしなくても売り切れる可能性は高いですね。

 今では、ビームス社のようにEC店に集めて、ECで上手に売り切るという有力な選択肢も加わりましたね。

 そのためには、日ごろから商品管理をしっかり行い、在庫データの精度を意識する習慣をつけておくことが大切なのは言うまでもありません。

 オムニチャネル時代に・・・

 欲しいと思った商品を手に入れたい!と望むお客様のためにも、それをお手伝いしながら、商品をしっかり売り切る商売人にとっても・・・

 業務を円滑に行い、お客様に向き合うことに集中する上でもRFIDの上手な運用は大切である、

 とあらためて感じたものでした。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【参考書籍】

顧客購買行動に対して品揃え計画(MD)およびシーズン中の在庫運用(DB)を考えるビジネス読本

人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識 (中公新書ラクレ)

こちらは電子書籍 Kindle版 です。経営者様、経営企画の方、MD、DB職の方に読んで頂きたいです。

| |

« ロンドン視察から 日本でのクリック&コレクトの普及を考える | Main | しまむらが2018年からネット通販を開始 独自の物流網をどう活かせるか? »