ZOZOARIGATOが問う、各社の販売価格設定とオムニチャネル時代の経営ポリシー
ZOZOTOWNが12月25日に始めたZOZOARIGATOが業界で大きな話題になっています。
月額500円または年間3000円の会費を払えば、常時サイト上の商品が全品10%OFFになるというもの
新規登録者は初月の購入はすべて30%オフになるようです。
このメンバーシッププログラムの建前は
割引された金額は購入者が日本赤十字のような団体に寄付したり、
購入ブランドを応援するために還元できるというチャリティー企画ですが、
多くの購入者は割引分すべてをご褒美として自分で受けとるでしょうから
実態は会員割引プログラムと見るべきでしょう。
ZOZOの平均出荷単価から考えると
年4回おおよそ年間30,000円以上買う人はお得になるって感じでしょうか。
割引原資はZOZOが全額負担というものの
サイトでカテゴリーまたはブランド検索後のページを見た人には
すべての商品にご丁寧に
「ZOZOARIGATOメンバーなら今すぐ30%OFF」
というバナーとともに割引後の価格のバナーがついていますので・・・結構なディスカウントサイトのような見えかたです。
この施策に対して、
昨年内にアウトレットモールへの出店も慎重なオンワード樫山が、
続いて百貨店でもセール販売をしないミキハウスなどが
ZOZOTOWNからの撤退を決め
多くのブランドがセール品を残しながらも、春夏の新商品を非表示にしたり、出品を取り下げたとのことです。
その後、出店ブランド多数からの苦情を受け
ZOZOはブランド側が会員割引のバナーを表示するかしないかのオプションが選択できるようにシステム改修すると発表しています。 (1月23日付日経新聞)
これは表示、非表示の話であって・・・
全品割引することに変わりはありませんから、
果たしてこれで済む話なんでしょうかね。
そもそも
在庫を買い取った小売業がいくらで売るかは自由でしょうが
在庫所有権と価格決定権がブランド側にあるはずなのにZOZOが割引分は負担するとは言え
ZOZO側がOFFタグをつけて割引後の新価格表示をして、常時一律割引をするような表現をしてもよいものかと違和感を覚えます。
理屈としては
大手百貨店だってカード会員には常時5%-10%のポイントを還元してますし、
ルミネだって期間限定ルミネカード10%OFFキャンペーン以外の時にも同社のカードで決済すれば引き落とし時5%OFFになりますから
何が違うんだ?ということでしょうが、
派手な直引きにより、
明らかに、同じ商品が、直営店よりも、自社サイトよりも、つまり、常時何処よりもZOZOTOWNが安くなることは出店ブランドにとって大問題でしょう。
もっと多くの会社がオンワード樫山のような経営判断をしても良さそうなものの…
表示を選択式に変えてくれればそれでよいと
売れているから、まあ、それでいいかと
多くのブランドがこのまま黙認してしまうような状態になることを懸念しています。
そんなこと上記のようにどこでもやってるでしょう、
どこだって売れなければすぐ値下げだってしているから同じじゃないか
と感じるようであれば、すでに感覚が麻痺していると言わざるを得ないでしょう。
常時全品同率割引と
売れない商品の価格見直しや消化促進のための単品値下げ
とは意味が違いますから…
いいんでしょうか?
ZOZOTOWNが常時一番安く買える場所になってしまって…
今回の施策はクーポン乱発の効き目が一巡して、
ゾゾスーツによって見込んでいたPBによる売上増が暗礁に乗り上げてでも
計画通りの高成長を維持し続けようするZOZOTOWNの執念でもあり、焦りでもあるように思います。
そして
期間限定でもない
常時会員割引という最終兵器級の荒業・・・
それを出店ブランドに対する告知から2週間後に実施したという話を聞くと結構な強引さも否めません。
セールでもないのに当初から値引きされたらブランド価値が云々
という話もありますが、
消費者からの価格の信頼性というか
こういうことがきっかけでマーケットにこれまで以上に割引が蔓延して、常態化してしまうことが問題でしょう。
いつも割引、そもそも、当初価格の設定の根拠って何なの?定価で買うなんて馬鹿らしい
どうせ、割引前提の上乗せ価格なんでしょう?
という、価格設定そのものの信ぴょう性が、
これまで以上に問われることでしょう。
バーゲンでの値下げを前提にした定価設定ではなく、
お客様がバリュー、コスパを感じられる適価を最初からつけるという
あるべき姿からますます遠のいて行くことが心配です。
そして、設定価格に対して、ますます低い原価でものづくりが進み・・・
商品の品質が劣化して行くことがもっと心配です。
報道によれば今回のZOZOの施策に対して、
各ブランドの担当者たちは「施策に乗るか、撤退か」しか選択はないと返答されたとのこと。
ZOZOTOWN依存度の高いブランドは当然、会社の存続がありますから、
直ぐに撤退などという話には出来ないと思いますが、
経営者さんの経営判断として、中長期的に
・売上確保のためにこのまま黙認したまま同じようなスタンスで出品を続けるのか?
・期限を決めて将来的には自社運営サイトにシフトする準備を加速するのか?
あるいは、この施策に乗るか、撤退するのかではなく、
・ZOZOTOWNは在庫処分やアウトレットのような専売品を売って儲ける販路と割り切って
メインのビジネスはリアル店舗と自社ECを活用した本格的オムニチャネル体制に舵を切り
各販路を上手く使い分けるのか?
アメリカではすでにAmazonとそんな共存を図る大手ブランドがいくつも現れているようです。
かつて百貨店とアパレルメーカーとの関係がアパレルをダメにしたと指摘されたように
時代変わってZOZOTOWNで急成長しているブランドたちが将来そう言われないように
今、EC担当者レベルではなく、経営者さんに今後のビジョンと経営判断が問われている時ではないでしょうか?
確かに、ZOZOTOWNの強引なやりかたには疑問ですが・・・
今回の同社の施策は、時代の大きな転換期に、各社へ
ブランドがどっちの方向に行くのか、腹を決めることを迫っている
とも見ることができるのではないでしょうか?
ZOZOARIGATOは単にファッションECモール最大手の過激な施策という話ではなく
将来、ファッション流通の歴史を振り返った時に
あの時が時代の転換点だったねと
語られるようになる大きな出来事に思えてなりません。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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【関連おススメ本】
5年前の本ですが、バーゲンで売ることを前提とした価格をつけない、そのためにむやみにつくり過ぎない
適品、適時、適価、適量を追求することが大切であることをお伝えしたくて著したビジネス読本です。
『人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識』
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