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June 29, 2020

この夏のバーゲン期にニューノーマルを考えよう

緊急事態宣言が解けてから1か月

6月の第2週くらいに西東京の駅ビルをいくつか覗く機会があった時、

赤いPOPを多用して思い切った春物の処分に売場を割いているショップもあれば、

これから着ることができる正価商品を前面に打ち出し、
後方で赤、黄色以外のスペシャルプライスPOPを使って春や初夏の値下げ販売をしているショップもあり、

各ブランドそれぞれの事情がある、それが店頭に表れているのが普通の姿
だよね、と思ったのを思い出しました。

毎年、夏のバーゲンの時期は館(商業施設)ごとのスタート時期が話題になりますが、Dsc02059

今年は

混雑を避けるために、商業施設としてセール期間を設けず
7月の1ヶ月は売り方をテナントに任せるという駅ビル

ブランド(テナント)の在庫消化協力のために、
バーゲンを大々的に告知するという百貨店

などなど                                              

考え方はいろいろですが、館(商業施設)の事情ではない、
お客様の安全と入居テナントの在庫事情を鑑みているという点では共通しているようです。

(画像はロンドンオックスフォードストリート2019夏)

筆者は

適品を
気温にあわせて(適時)、
値下げを前提にしない顧客が求めるプライス(適価)で店頭提案する

不人気商品は早期に消化を図って換金(ECでもよし)、売場から一掃し、
できるだけ早く人気商品、新しい商品に入れ換え店頭鮮度を高める
正価のままで売り切り可能な人気商品はバーゲンになっても値下げしない

のが正常で

イベントとしてのバーゲン期間はあってもよいですが、

そんな時にも前面はセール品でも、奥には今からしばらく着ることができるサイズの揃った新作がある

バーゲン以外のいわゆるプロパー期も
旬な新作が前面を飾り、(売場面積に寄りますが)奥には処分コーナーもある

という状態が普通でよいのではないかと思っています。

まあ、百貨店はプロパー期とバーゲン期で掛け率が違うので同じ時期に混在すると面倒なのかも知れませんが、
そんな事情がなければ、

いつ行っても、店頭にいろんなショッピングの楽しみ方があるのがお客様にとっても
ブランド側にとっても自然体かなと思えてなりません。

特に地球温暖化の影響もあって、年間5か月もある夏シーズン(最高気温25度以上の日々)の在り方は
しっかり考え直さなければますます利益が出なくなることに危機感を感じます。

この夏のバーゲンやセールの在り方がイレギュラーではなく
顧客側もブランド側もWINWINとなる
あるべき姿(ニューノーマル)を考える機会になればいいなと思う今日この頃です。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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【参考書籍】

2013年の本ですが、長年の顧客購買行動分析と在庫コントロールの経験とノウハウを有名企業事例を用いてわかりやすくまとめました書籍です。

人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識 (中公新書ラクレ)

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June 22, 2020

コロナショック後の店舗の役割の変化~固定費をシェアしてフル活用するダークストア併用という生き残り方

6月21日の日経新聞、「料理人『脱店舗』に活路」という見出しで
コロナショックで休業を迫られた飲食店の今後の生き残り策を模索する事例記事が掲載されていました。

記事では、
1軒あたりの固定費を軽くするために
客席を設けず、複数の飲食店が利用できる共同宅配用厨房施設を貸し出すクラウドキッチンの事例や
客席を減らして、厨房を拡張し、移動販売用のキッチンカー向けの仕込みに力を入れる事例などが紹介されていました。

記事には出ていませんでしたが、アメリカでは「ダークキッチン」と言って、
宅配やテイクアウト専門飲食店向けに共同キッチンの賃貸を運営する会社も多数存在していると聞きます。
※ダークというのは、通常の店舗ほど照明が明るい必要がない、作業中心の拠点であることを意味します。

ファッション専門店も、コロナショックで飲食店、宿泊施設と共に大打撃を受けた業種のひとつ

今後も起こりうる疫病ショック時にも耐えうる店舗や施設の在り方について、
これから議論が進むと思いますので、異業種の事例ながら、とても興味深く読ませて頂きました。

そもそも店舗の役割って何でしょう?

店舗の機能を考えられるだけ列挙して、店舗以外に代替えできる機能をそぎ落として行った時、
果たして何が残るか?と考えた時、既述の飲食店で言えば、究極は
シェフが料理を加工する「キッチン」ということになるんでしょうね。

では、ファッションストアでは何でしょう?

・ブランドの世界観を見せる場所?
・商品の現物を確かめる場所?
・思いがけなかった商品に出会う場所?
・スタッフから商品の説明を受け、知識を得る(接客の)場所?
・気に入った服や靴を試着するための場所
・買いたい商品を手に入れる、そこから商品を持ち帰えることができる在庫拠点
などなどと列挙して行きます。

そんなブレストをしたら、いろいろな意見が出ると思いますが(楽しそうです♪)、
筆者は「試着」というキーワードが究極の機能のひとつとして残ると思っています。

もちろん、正解はひとつではないと思いますが・・・
ブランドまたはショップが行きついた究極の機能にまずは絞って、そこに付加価値を肉付けして行くという作業をしたら、

お客様にとっても、店舗スタッフにとっても、そしてそれに合わせて採算を考えて行ったら
理想の店舗の在り方に行くつくかも知れませんね。

100年に一度の疫病ショック、
10年に一度のファッション流通革新の節目が重なった今、

新常識(ニューノーマル)を模索するにあたって、
過去の延長線上の「改善」ではなく、
白紙からグランドデザインを考え直すことも大事ではないかと思った次第です。41cimg0394

実は、先日、これから2-3年間で1200店舗を閉めると発表した 

ZARAを運営するインディテックスグループも
店舗のスクラップ&ビルドを行うことでそんなビジョンを描いているようです。

いつ行っても新商品が入荷していて、トレンディな着こなしのアイデアがもらえて、商品を試着出来て、
店舗からでも、自宅からでもオンラインで購入できるステーション

RFIDの導入と店舗作業(フロント・バック)の分業によって、
店舗のバックヤード在庫もEC販売できるインフラを整えています。 (画像はスペイン・ア・コルニャのZARA;2014年取材時)

これが世界的に完成したら、(以下は筆者の想像です)
今後、今回のようなコロナショックのようなことが起こっても、

世界の店舗から商品情報・在庫情報を発信して、
顧客に最も近い近隣店舗でオンライン注文品を受け付け、店舗から出荷するのでしょうね。
テイクアウト専用に入店せずとも受け取れる受取カウンターを設置してもいいかもです。

普段はVMDが楽しめ、フィッティングが出来る体験店舗が、有事の時にはダークストア(EC専用店舗型倉庫)として機能し、
送料無料、返品無料の施策を打って顧客の自宅をフィッティングルーム代わりにするのでしょう。

普段から試着体験を提供する店舗としての信頼があれば、日頃からも、そして、有事の時でもオンラインからでも顧客の要望、需要をフォロー出来る。

これからのファッションストアの在り方って、そんな姿もありなのではないでしょうか?

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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June 15, 2020

インディテックスグループ(ZARA)既存店の大量スクラップ&ビルドによりEC連動型店舗へのモデルチェンジを加速

6月10日に発表されたZARAのインディテックスグループの2020年度第1四半期決算に目を通しました。
4cimg0441_20200615133601 日経新聞や繊研新聞などの一部の報道では
コロナショックによる店舗休業によるダメージが甚大で売上高前年比45%の減収により、営業利益は大幅減益となり、四半期赤字に転落したと共に

グループ全体で現在世界に7412ある店舗を2022年までに1200店舗閉鎖することが強調され、

この3カ月間で5割伸ばしたECを強化する(現在の年間EC売上比率14%から25%へ)、さすがの世界一のアパレル企業も新型コロナによってデジタルシフトが迫られた、というような論調で書かれていますが・・・

 

それらに抜け落ちている大事な視点を補足をさせて頂くと、

実際は 
・これら1200店舗が役目を終えたZARA以外のブランドの小型店が中心であり、
・閉店の一方で並行して450店舗のEC連動型の大型店を新規出店することで、
結果、
・店舗は全体で600店舗くらい減るものの、売場面積は逆に毎年2.5%増え、既存店売上も4~6%伸ばす計画であること

が同社のオリジナルプレスリリースを読むとわかります。

ですから、同社の場合は、業績不振のアメリカのチェーン店とは違って、閉店数が多いことだけを取り上げて「ヤバいのか?」

悲観することではなく、より健全な状態に向かっていると見るべきでしょう。

これらの施策は、メディアが言うようなコロナショックがあったからの急展開ではなく、もともと同社が2012年あたりから始め、ここ3年で加速していたいわゆるオムニチャネル(OMO)施策の総仕上げに過ぎないんですよね。
同社ではこれを fully integrated store and online platform と呼びます。

実際、過去6年間に
1729店舗を閉店して、
1106店舗を増床し、
2556店舗を改装し、
3671店舗を新規出店しています。

その間は店舗数も売場面積も純増でしたが、
これからは、店舗数は純減も、売場面積の純増は維持し、
よりECを店舗と連動させ、

同社が以前から描いていた
「新しい顧客購買行動のビジョン」に投資を続ける
というだけの話なんです。

今回の赤字には閉店予定店舗の減価償却の積み増しも多く含まれています。
(前期は売上が落ちることを見越して、在庫引当金=評価損の原資を計上しました)

また、大量閉店と言うと、雇用はどうするんだ?という意見もあると思いますが、同社はEC対応する大型店のEC対応要因として受け皿を用意していると言い、雇用に対する配慮も欠かせません。

危機に背中を押されるのではなく、
まずは未来の顧客像やビジネスのビジョンを描き、
顧客は進化して行くにも関わらず、自分たちが変わらないことへの危機感に対し
行動を続けているのがインディテックスグループの姿です。

彼らが今、何を考えているのかを常にウォッチしていれば、
規模にかかわらず、我々も活用できる未来へのヒントが得られます。
なぜなら、彼らが長年観ているのは、競合ではなく、「顧客だけ」ですから。

まだまだその背中から学ぶことはたくさんありそうです。

関連エントリー‐世界アパレル専門店売上ランキング2019 トップ10

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

いつもお読み頂きありがとうございます。


 

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June 08, 2020

ファッション小売業の在庫は在庫日数(週数)で考えよう~H&Mの中長期時系列分析から

WWDジャパンさんの月イチ連載20200608_144754中 上場企業の決算書からビジネスの視点を学ぶ「ファッション業界のミカタ」が2年目に入りました。先月の5月11号と今週の6月8日号は
2回に分けてH&Mの①大量出店による成長の課題と②年々重くなる在庫問題について
レポートさせて頂きました。

企業の業績をよくありがちな前年比だけで見るのではなく、
中長期の数字を時系列に並べて・・・見つけた課題を深堀するのが
筆者が採るアプローチですが、

H&Mの日本上陸後、2009年以降の4半期の業績を並べてみて、気が付いたことをまとめてみました。

まず、同社の営業利益のピークは2015年11月期です。

その後、出店による売上増は続くものの・・・

残念ながら営業利益は一度もピークを超えることが出来ていません。

直近の2019年11月期は前年比、増収増益ながら、
ピークの2015年11月期対比 店舗数は129% 売上高は128% 営業利益は64%、
10年前対比でみると、    店舗数は255%、売上高は229%、営業利益は80%
という状況です。

要は、規模は肥大しているのに、販売効率が下がって儲からなくなっているという、チェーンストア拡大のジレンマです。

これは筆者の持論ですが、営業利益高のピークアウトはその企業や業態が成長期を終え、成熟期に入った時期と考えられ、
従って、あそこが営業利益のピークアウトだったのかも、と2年連続で減益を実感したら、

何か次の手を打たなければ、衰退期を待つだけ、ということになると思っています。

その頃(2016~2017年)、H&Mがどういう状況だったかというと、ZARAのインディテックスとの世界シェアトップ争いの真っただ中で、
H&Mは出店余地の大きい、世界の2大大国であるアメリカと中国で店舗数と売上高を積み上げていましたが、
中国では大量出店して店舗数を増やしても・・・販売効率(1店舗あたり売上高)は下がる一方、それでも、出店を続けていたのでした。

一方のインディテックスは・・・店舗のスクラップ&ビルト、店舗数拡大よりも店舗の大型化(売場面積拡大)に力を入れ、
ECへの集中投資を進めていたのですね。

両者の明暗は、過去3年間の業績の通りです。

次に、今月号では、H&Mの在庫状況に着目しました。

H&Mは11月決算で、冬物をたんまり持っている時期なので、冬が終わって在庫が軽くなる1月決算や2月決算の会社と期末の在庫回転率を比較するのはフェアではない、と長年思っています。

あと、小売業の実務に携わるものとして、会計期末だけで計算する在庫回転率にはいつも違和感を持っています。
正直、期末だけ在庫を絞れば回転率は高回転に演出できますからね。銀行や投資家には高効率の会社という印象を持ってもらえます。

従って、今回はH&Mの四半期ごとの期末の在庫日数の推移で評価をしてみました。

それから、在庫日数の計算式って、通常は 

在庫日数=期末在庫原価÷過去の期間中1日あたりの平均売上原価

で計算される方が多いと思いますが、

ファッションビジネス、特にアパレルビジネスにおいては、期末在庫ってものは、これから迎える月あるいは四半期に売るシーズン在庫をどれだけ持っているのかが大事なことなので、筆者は期末在庫を翌四半期(あるいは月)の1日あたりの売上原価で割るアプローチを取ります。

(筆者流)在庫日数=期末在庫原価÷翌四半期の1日あたりの売上原価

※実務レベルで試してみたい方は翌月または翌四半期の予算ベースの売上原価で割ってみて下さい。

以上の前提でH&Mの四半期ごとの在庫日数を時系列に眺めてみると、

やはり、健全なのは、2014年から2015年にかけてです。実際に、90日台で在庫が回っています。

日本企業のように商社を介さず、直貿のH&Mからすれば、Ex-Factorベースの在庫なら90日台なら上等でしょう。インディテックスもそんなもんです。

ところが、その後、じわりじわりと在庫は重くなり、2017年には130日台に膨らみ、
最悪だったのは2019年11月期1Q(冬の終わり)の142日、
2019年11月期末(冬真っただ中)には何とか、128日まで落とすことができたという状態です。

でも、まだ、業績がよかった時に比べても1.35倍くらい抱えているのです。

ユニクロや無印良品のようなベーシックならまだしも、
高速で在庫を回したいトレンドファッション系のH&Mが130日台=4か月以上分の在庫を常に抱えながら商売をしているのって結構リスク大きいと思いますね。

これは、H&Mのグローバル低価格競争上の問題にあると思っています。

好調だった2015年ころまでは、店頭で見ても結構、中国製やトルコ製でデザイン性の高い商品を作って高速回転させていた印象だったのですが、今は、各国での価格競争上、店頭商品は圧倒的にバングラディッシュやカンボジアあたりが増えましたよね。

これらの原産国は比較的ベーシックなものに強味があり、また発注から仕上がり、そして、東南アジア、西南アジアからは欧米への輸送に時間がかかりますから、
例えコスト的には競争力があっても、必然的にファストファッションにとっては在庫リスクが高くなる、
長いリードタイムと在庫日数の長期化という課題と向き合わなければならなくなるのです。

これは実は他人事ではなく、安い人件費を求めて産地を遠く、遠くに持って行っている日本のファッション流通企業も気をつけなければならない課題ではないでしょうか?

さて、社長が代わられて、

これから効率を落としての大量出店の見直し、ファッションストアとしての在庫の適正化の問題

の改革を進めるH&M社。

製品のサステイナブル性ももちろん大事ですが・・・サステイナブルな経営のためにどんな舵取りをするのか?
21世紀、世界の「ファッションの民主化」を旗手として、一時代をつくった同社のリ・ブランディングを見守ることと致しましょう。

  執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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June 02, 2020

コロナショック後のファッション流通企業の経営の視点(後編)

コロナショックとの共存とその後を見据えて、
ファッション流通業界の経営がどのような変革に迫られるのか?の後編です。Photo_20200602111801

1.企業の財務体質の見直し 手元資金と固定費
2.在庫の持ち方の基準変更 消化率から在庫週数へ
3.評価基準の変化 売上重視から粗利(生産性)重視へ
4.販売と働き方のデジタルシフト

 

3つめは 評価基準の見直し です。(1,2は前編へ

結論を先に言えば、
誰にもわかりやすかった売上高を基準にするよりも、より利益に直結する粗利や生産性を追求した企業が勝ち残る、という話です。

これまで、ファッション流通業界では
売上高を基準にして、さまざまな費用を売上構成比で評価することが主流でした。

右肩上がりの市場であれば・・・

売上を増やせば、利益も増えますから、それで問題なかったでしょう。

一方、小売業界全般を見渡すと、売上高ではなく、粗利高を分母にして、「分配率」という考え方もあります。

これは例えば、

労働分配率=人件費÷粗利高
販促分配率=広告宣伝費÷粗利高
不動産分配率=地代家賃÷粗利高  などで

稼ぐ粗利高に対してそれぞれの経費をどれだけ分配するかと考えるものです。

実は、分母を売上高から粗利高に変えるだけで、視点が変わり、行動に変化が起きるものです。

例えば、労働分配率に関して言えば、
「労働分配率を一定にする」と定義(予算化)すれば、

粗利高が増えれば、営業利益が増えるのは当然ですが・・・
同時に人件費を増やすことができます。

その分、手間が増えてしまったのなら人の頭数を増やさなければなりませんが、
同じ人員で粗利高を増やせたのなら、賞与を増やす原資になり、

つまり、経営側も働く人もウィンウィンになるわけです。

一方、売上高を分母にしてしまうと、

売上目標を達成するために、安売りを行って、粗利率を下げてでも、何とか売上目標を達成したとした場合
どんなことが起こるでしょうか?

粗利高は未達でも固定費は変わらず、従って営業利益は減ることになりますね。

にもかかわらず、売上目標を達成したために、売上貢献した社員には報奨金(賞与)を支給し、
人件費が増えて更に利益を削る羽目になることもあるわけです。

何が言いたいか、というと、

売上高を目標基準にするよりも、ストレートに粗利高を目標にする方が効率よく
経営も従業員もハッピーになれるか?という話です。

これは、販促費の費用対効果を測る際や

物流費を削るべきか、むしろ粗利高を高めるために使うべきかの判断をする時も有効だと思っています。

店間移動の配送費は、無駄な追加経費(悪)なのか?それによって定価販売のチャンスを広げ、粗利を高める必要経費(良)なのか?

粗利との見合いで考えると物流費の見方も変わって来ますよね。

関連して、「生産性」という言葉がありますが、これは、

期間(年、月、日、時間)あたり、一人当たりの粗利高を指します。

これは、ひとりがどれだけ効率よく粗利高を稼ぐのか?を表す指標です。

販売管理費、固定費の見直しが迫られる今、限られたリソースで、利益の唯一の原資である粗利高を確保する
「生産性」指標は避けては通れない指標になります。

これまで、一部の企業でしか採用されてこなかった

粗利重視、生産性向上の思想が、今後、より注目されるようになりそうです。

 

最後は販売と働き方のデジタルシフトです。

この2か月の間に、多くの方々が体験し、その使い勝手の良さを実感されたように、
Eコマースやオンラインミーティングは「ニューノーマル(新しい常識)」としてより定着することでしょう。

〇 Eコマースの体制を強化して、顧客との接点と選択肢を増やし、

〇 オンラインミーティングシステムを社内外の打ち合わせにフル活用して、出張費・交通費といった経費を節約して、
時間を効率よく使って、生産性を上げる

そして、創出された時間を余裕を持ってオフラインの大切なことに費やす

企業も、働く人もその点にフォーカスすれば・・・
豊かな企業活動、働き方、遊び方、生活が待っているはずです。

コロナショックが、企業の理想のビジョン、そして、より、ありたい自分に向かうように

いつかは取り組もうと思っていたことを、今すぐ進めることの後押ししてくれるきっかけになれば、

この2か月は貴重な2か月だっと結論づけられることと思います。

  執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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June 01, 2020

コロナショック後のファッション流通企業の経営の視点(前編)

約2か月続いた首都圏の緊急事態宣言が解除され、段階的に生活が再開することになりました。
感染第二波に気をつけながら、一日も早い正常化を祈るばかりです。

今回はコロナショックとの共存とその後を見据えて、
ファッション流通業界の経営がどのような変革に迫られるのか?について、いくつかのトピックを綴ってみたいと思います。

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トピックは

1.企業の財務体質の見直し 手元資金と固定費
2.在庫の持ち方の基準変更 消化率から在庫週数へ
3.評価基準の変化 売上重視から粗利(生産性)重視へ
4.販売と働き方のデジタルシフト

の4つです。少し長くなるので、前編と後編の2回に分けてご紹介をさせて頂きますね。

まずは企業の財務体質の見直しから・・・

緊急事態宣言によって、休業店舗が増え、
ファッション流通企業は店頭で売上が計上できなくなり、当面の手元資金の確保が足元の最大経営課題となりました。

店頭販売している小売業は、日銭さえ稼げていれば、ある程度はキャッシュが回せるビジネスなので・・・
意外と、手元資金を潤沢に確保している企業が少ない傾向にあるものです。

一般的な、手元資金の潤沢さを表す財務指標に

手元流動性比率(日数)=手元資金÷1日あたりの売上高

というものもありますが、

日銭商売の小売業にとっては、今回のような場合、売上がゼロだった時に、手元資金で何か月分の販売管理費(固定費)の支払いをがまかなえるか、つまり何ヵ月間耐えられるかを考慮するのが現実的かと思います。

筆者の造語になりますが、

手元資金経費耐久月数=現預金(期末フリーキャッシュフロー)÷1か月あたりの販売管理費(固定費)

とでも言いましょうか?

今回のコロナ禍のように、今後もまた、2~3カ月、店頭売上がなくなることがあるとしたら・・・

果たして、固定費の何か月分の手元資金を持っていたら、

これまで育てて来た大切な人材を手放さず、未来に役立つ資産を守りながら・・・

落ち着いて、未来が考えられるだろうかと、経営陣の方々は痛感されたことと思います。

一時的には借入に頼りながらも
将来的には計画的に税引き後利益(繰り越し利益)を積み上げて手元資金を積み上げて行きたいところです。

ご参考までに、
5月に現代ビジネス(講談社)online向けにワークマンのビジネスモデルと財務体質について寄稿させて頂いた記事があります。

コロナ禍「アパレル壊滅」の中、ワークマンが一人勝ち「真の理由」
強みは商品開発力だけではなかった

記事の6ページ目には、日本の上場ファッション専門店の売上高上位トップ10企業の手元資金の経費耐久月数を計算した一覧表を掲載していますが、ワークマンはその中でもダントツの販売管理費の22カ月分の手元資金を持っている計算になります(2020年3月末時点)。

ちなみにトップ5は

ワークマン 22.3か月分
ファーストリテイリング 16.2か月分
西松屋チェーン 10.6か月分
パルグループ 9.7か月分
しまむら6.8か月分になります。

※いずれも記事を書いた時点で公開されていた直近四半期または期末決算の決算短信を元に計算。

高い収益性による手元資金だけでなくて、必要十分に絞り込まれた販売管理費によるローコストオペレーションも耐久性を強める要素であることは言うまでもありません。

コロナショックを機に、多くの企業さんが販売管理費(の固定費)の見直しも行われたと思いますが、
固定費はただ削りやすいものを減らすのではなく・・・
粗利高を効率的に生み出す固定費とそうでない固定費を見極めて判断する必要があるかと思います。

続いて、ふたつめは在庫の持ち方の基準変更についてです。

3月の後半から4月、5月の店頭売上のほとんどが吹き飛んでしまったアパレル業界では、

いわゆる春と初夏という2つのシーズンの在庫がオンラインや一部の店舗でしか販売できなかったため、
大きな値下げ販売と残在庫に苦しむことになりました。

それは、おおよそ売上2.5か月分に相当する在庫です。

これまでファッション業界では、
特にメーカー系企業を中心に春、夏、秋、冬という
4つのシーズン単位で一度に3カ月~6ヶ月分の商品をつくり込み

それをシーズン中に売り減らして行くという手法が
とられて来ました。

その際、主にメーカー系SPAやメーカー品を取り扱う百貨店やセレクトショップなどでは

仕入れた商品がどれだけ売れたかを表す、

消化率=売上数量(原価)÷仕入数量(原価)x100

が販売進捗、在庫管理手法のメインに用いられて来ましたが、

コロナショックを機に、主に小売業が活用している
在庫日数(週数)管理が、あらためて
仕入れ、在庫管理のスタンダードとして注目されそうです。

在庫日数(週数)=現在在庫数(原価)÷1日(週)あたりの売上数(原価)

つまり、生産リードタイムを考慮して、販売計画を立て
当面(何日分、何週分)必要な商品在庫を調達する。

売上と需要内容に応じて、販売計画を立て直し(※ここ重要)

また何日分、何週分の追加発注を行う、というアクションに活用できる計数で、

ドンと大量に仕入れて売り減らす、のではなく、売上の進捗に応じて買い増すという運用になります。

ファッションビジネス、特にアパレルビジネスはリスクマネジメントビジネスと言われます。

小売業の在庫管理のスタンダードが変われば、商品を供給する作り手側も春夏/秋冬シーズン単位の展示会受注方式から、ますます柔軟な期中対応が求められそうです。

前編はこのあたりで。

次回後編では 評価基準と販売方法、働きかたの変革の話に続きます。

  執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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