セシルマクビー全店閉鎖で考える、ブランドのライフサイクルの見極めと対応
先週、 1990年台から2000年台前半に業界のトップランナーのひとつだった
と言っても過言ではない、マルキューブランドの代表格である「セシルマクビー」が
1987年の創業から33年目となる今年(2020年)、
全店を閉鎖してストアブランドとしての歴史の幕を閉じることになった
というニュースが報道され、
SNS拡散、TVのバラエティ番組でも取り上げられるなど、大きな話題になりました。
同ブランドを展開するジャパンイマジネーション社は
今後、これから市場性が見込める4つのブランドに絞って、それらを運営する子会社を存続し、
自らは「セシルマクビー」ブランドのライセンス管理を行う形で事業を継続されるとのことです。
このニュースを聴いて、
業界の一時代を盛り上げた同ブランドと同社の功績に敬服すると共に
客層を絞った、個性のあるブランドには、
やはりライフサイクルというものがあるのだということを
あらためて感じさせられたものでした。
WWDジャパンさんの2つの関連記事
「セシルマクビーの時代の終わりはずっと前から感じていた」 社長が語る全店閉鎖の背景
を読むとわかるのですが、
筆者がこれまでいろいろなストアブランドの分析をお手伝いして感じた
「ブランドや事業のライフサイクルの仮説」が
セシルマクビーにも当てはまることを感じたので、ここでご紹介したいと思います。
まず、
上記WWDジャパンの2つの記事の同社の社長さんのコメントと記者の方の解説をまとめて
セシルマクビーのライフサイクルの仮説を整理すると
以下のような感じになりました。【 】内は 筆者の視点で独自に定義したものです
1987~1994年の8年間 【導入期】ブランド立ち上げから店舗拡大とともに知名度が高まり始める時期
1995~2004年の10年間 【成長期】ブレイク~売上右肩上がり
2005~2014年の10年間 【成熟期】店舗数拡大とともに全体売上拡大できても1店舗あたり販売効率が下がる
2015~2020年の6年間 【衰退期】事業赤字が続く
そして、2019年にテイストと客層若返りのリ・ブランディングを図ったものの、
2020年の今春、コロナショックに見舞われ、全店閉鎖の決断に至った
というものです。
これまで分析させていただいた多くのアパレルブランド事業に共通していたのは
神田昌典さんによるプロダクト系のマーケティング理論にもあるように、
ある事業が導入期から成長期に入ったところ、
つまり売上前年比が急激(25%以上複数年)に伸び始める時期がわかると
1)それまでにかかった年数のおおよそ4倍がブランドの寿命になる
そして
2)導入~衰退までの4つの期はほぼ同じ長さになる、
という仮説で
まさにセシルマクビーにも
この仮説が当てはまっているように思えます。
導入~ブレイク(成長期スタート)まで
約8年 x 4= ブランド寿命 32年
そして、ここからは筆者の臆測になりますが、
おそらく、店舗拡大による売上高のピークは
成熟期2005年~2014年の間にあったと思いますが、
営業利益高のピークはちょうど成長期から成熟期に移行する
2004~5年あたりだったのではないかと思われます。
そう、これは 前年度比較ではなく・・・
業績を時系列に並べて振り返って見ないと
なかなかわからないかも知れませんが、
出店によって規模拡大はできても、販売効率が下がり始め
営業利益高がピークアウトしたな~
と感じた時が成熟期入り
気づいたにもかかわらず、再成長のための何らかのてこ入れをせず、
成功体験に執着して突っ走っていると
いずれは衰退期を待つばかり・・・
というのが多くの「儲からなくなった」事業の
時系列分析から気づく共通項です。
これに対して、
この仮説に立って考えれば、いつ頃、成熟期を迎えるかの予測はできるわけですから、
〇 海外市場を開拓したり、
〇 成長の見込める新カテゴリーの導入をしたり
〇 リ・ブランディングを図る
などが成熟期のまま衰退期(赤字続き)に陥らないための対処療法になるわけです。
業界を見渡すと、
海外市場に軸足を移して成長軌道を持続した数少ない成功例のひとつは
ユニクロでしょうか。
国内に絞って改革をするのであれば、
既存事業や既存の品揃えに固執せず、
◎より客層が広く、
◎販売効率がよい、あるいは
◎より利益率の取れる新カテゴリーを導入したり、
また、
◎より幅広い客層が見込める新事業に軸足を移す
ことによって、新たな成長ドライバーを育て、利益を高めたり、
◎ブランドのイメージや商品構成を一新して客層を増やす、あるいは
◎客層を変更するリ・ブランディングを行う
のが対処例になるでしょう。
この点で、これまで国内中心に比較的うまく対処されて来たと思われるのは
アダストリア社やユナイテッドアローズ社あたりでしょうか。
しかし、個性が強いブランドに至っては・・・
割り切って事業終了も視野に入れて、
早めに、別業態・別ブランドを育て、成長の軸足を移す
一方で旧ブランドは店舗リストラ、フェイドアウトを進める、
というのも企業存続の選択肢のひとつかと思います。
もっとも、既存ブランドの成功・貢献の会社へのインパクトが大きすぎると、
乗り換えは、かなり困難を極めるとは思いますが・・・
さて、話をジャパンイマジネーション社に戻しますが、
同社は幸い、借金がなく、
主力業態であったセシルの店舗閉鎖を決め
かなりのダウンサイジングをして
なおかつ、知名度を生かしたライセンスを収入源に、企業として営業継続する選択肢を選ばれました。
会社を成長させてブランドを終了するというのは
そのブランドのために社内外で働く方々がいらっしゃいますから、
本当に苦渋の決断だったと思います。
しかし、今回の決断がもっと遅ければ、
取り返しのつかないことになっていたかも知れません。
「セシルマクビー」ブランドの終焉は残念ではありますが・・・
記事の中で社長さんが最も気にかけられていらっしゃるように
お辞めになる方々の進路についてはしっかりフォローして頂きたいと思っています。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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