EC拡大時代に理解しておきたい、実店舗販売とEC販売の損益構造の違い
コロナ禍の休業でECがほぼ唯一の接点となって以来、
ファッション業界では自社EC強化、再強化への取り組みが加速しています。
在庫管理のクラウドサービスを提供しているロジザードの金澤茂則社長と
小売業のオムニチャネル化の実務経験を持つ
オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎さんと
公開オンライン対談をさせて頂いた時の要約記事が公開されましたのでご紹介させていただきます。
筆者は長年、成長専門店の在庫最適化のご支援を生業にして来ましたが、
ここ数年は、クライアント企業さんのECの売上が増えるに従って、
実店舗とEC間の在庫調整のしかたなどのご相談も増え、
この間、感じて来たことを、
これからECを強化する専門店さんの立場でお話しさせて頂いたものです。
EC販売は
店舗家賃という固定費がかからず、
比較的 事業部の一人あたりの生産性が高いため、
店舗販売よりも儲かる、という一般論がある一方で、
売上伸び率は高いが、
実際は店舗よりも利益が出しづらいという企業さんが少なくないのも現実です。
その理由を理解するために、
これからEC売上を拡大、あるいは再強化する前に、
実店舗とECの損益構造(P/L)の違いを十分理解しておく必要があると思っています。
着目したいのは、販売管理費の構成の違いです。
最もウエイトが違う物流費は
店舗販売(倉庫店舗間)に携わっているとあまり気にならないかも知れませんが、
EC(宅配)向けの物流においては店舗物流に対して、
売上対比で倍近くがかかり
単価が安い商品を扱っている企業の場合は
更に倍(店舗物流の4倍)もかかるので経営課題として浮上します。
その理由は
商品取り扱い料(入出庫、梱包費)と
宅配運賃(送料)
にあります。
物流というものは
歴史的にBtoB(倉庫間店舗間)向けに効率化、最適化されて来たものですが、
BtoC(企業から顧客宅配)はまだまだ途上と言わざるを得ません。
「宅配クライシス」で話題になった
配達員のキャパシティや再配達問題はまだその一部に過ぎません。
店舗販売における販売管理費の中身は固定費が圧倒的に多く、
売上が上れば、固定費分を上回る粗利はそのまま利益にプラスになる、というわかりやすさですが、
EC販売では、固定費部分は少なく(主に社内人件費)、
一方、売上連動型(%)の変動費の他に出荷1件あたりの経費(単価)という変動費があって、
この後者の出荷1件あたりの変動費というか、件数あたりで、単価でかかるコストがネックになります。
要は、
1,000円分の商品を出荷しようが、10,000円分の商品を出荷しようが
同額かかってしまうコストです。
特に宅配運賃(配送料)が大きなウエイトを占めるものです。
それゆえ、安易な「送料無料」は、低価格品を販売する企業にとっては、
極めて気をつけなければならない、損益改善のボトルネックになるわけです。
これらを実感するためには、
総売上高に対する損益計算書(PL)を見ているだけではわかりません。
また、変動費だ、固定費だ、物流費だ、システム費だ・・・というと
混乱して来そうですが、
「出荷1件あたりの」採算(収益構造)モデルをつくると
かかる費用の構造とともに1件あたりコストがつかめ、利益の改善にあたり、課題がどこにあり、どこに切り込めばよいかがわかりやすくなるものです。
実は、そう難しく考えることはありません、
そもそも、小売業に従事するものであれば、
「出荷1件あたりの売上高」は
店舗における「客単価」と同じもの
顧客1件あたりの平均売上と損益の積み上げが小売業の商売の基本と考えれば
理解しやすいものです。
EC拡大局面において、新しい購買行動に対応したECという販売方法が
経費倒れにならないように、是非、商売人として採算感覚を持って進めていただきたいと思います。
以前、WWDジャパンさんに寄稿した関連記事がありますので、ご参考にしていただければと思います。
①下がり続ける出荷単価と上昇する物流費の狭間で格闘するZOZOについて
②単価が低くてECが店舗ほど利益を上げられないユニクロについて
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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