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August 10, 2020

過剰在庫を持ち越さないために

昨年の暖冬で秋冬在庫を残し、コロナウィルスによる外出自粛と数か月の休業によって春夏の過剰在庫を抱え、Dsc_6637 マスコミや投資家にも煽られ、業界ではようやく、本格的に在庫を減らそうというムードになって来たようです。

この在庫問題も、そもそも、もっと早く手をつけなければならなかったことに対して、
コロナショックによるキャッシュフローの悪化が企業改革のスピードアップを迫っているに過ぎないと思っています。

会社方針として、仕入を3割減らす、2割減らす、という話が聞こえてきますが、
アプロ―チや、オペレーションを根本的に見直さずに、
ただ、仕入担当者に金額ベースでの仕入や在庫を減らすことを命じるだけでは、

単に売上が下げるだけで 
最終消化率はあまり変わらない、また、一定量の在庫が残るという結果となりそうです。

そして、過去に、何度も号令をかけては、結局は売上を回復するために在庫を積み増すという、撚り戻しになる話が、また繰り返されるのではないか?と懸念しています。

筆者は、これまで、
シーズン在庫をどう利益を生むようにコントロールし、
シーズン末に向けては、組織全体でどう売り切るかをテーマにし、

商売を顧客目線に再定義して、しくみ化のお手伝いをし、
業務に定着するように、社内人財の育成も見守りながら、
多くのファッション専門店さんの在庫最適化に取り組んで来ました。

そんな在庫最適化の現場で常々感じている、
過剰な在庫を抱えない、そして、余計な在庫を翌年に持ち越さないためのカギがいくつかありますが、
今回はその中から3つほど在庫問題の視点転換につながるであろうアプローチをご紹介させていただきたいと思います。

1)売場スペースに合わせて、品番数を絞る

2)商品計画をわかりやすく売場に共有する

3)販売期限を明確にして全社で売り切る

1)ひとつめは、売場に目を向け、店頭に並ぶ、物理的に展開可能な品番数を知った上で、品番数設計をしましょう、という話です。

金額ベースで仕入を減らせと言うと、品番数を減らさずに、一律に発注量を減らしてしまったり、
また、正しかったかどうかわからない前年実績をもとにして品番数や発注量を何割か減らす、
というアプローチが採られることがあります。

そうすると、売れる商品はすぐに売り切れ、
売れ筋商品がなくなった途端、売場は魅力がなくなり次第、売りづらくなるという現象に陥るものです。

あるべき品番数の答えは、お客様が訪れる店頭の物理的陳列スペースにあるものです。

売場スペースを大幅に上回る品番数を投入しても、店頭に出し切れない商品はバックヤードに眠るだけ、
すべての商品に十分な販売機会が得られないと、その分、売れ残り在庫となるものです。

仕入担当者が、与えられた予算金額だけで仕事をし、
自分の担当売場スペースにどれだけの商品が並ぶのかを知らない、という恐るべき話は業界の中でも意外と少なくありません。

まずは、自分の担当売場に何品番並べるのか?
そして、それを何回転させることが自分たちのブランドらしさなのか?

という、問い、設計から始め、過剰品番数を削る、そして、その分、売れると見込む商品の仕入れ数を増やす(奥行をつける)というのが、あるべき仕入削減・在庫削減の第一歩でしょう。

これは無限大に商品が並べられると思われているECサイトについても同様と考えます。

お客様は、目的の最初のページからせいぜい2ページ、多くて3ページ目くらいまでしか見てくれませんので。

2)ふたつめは、仕入担当者は立てたシーズン商品計画を販促担当、店舗、EC担当が具体的な行動に移せるくらい、わかりやすく伝えましょうという話です。

仕入担当者がせっかく立てたシーズン商品・仕入計画の意図が、
実際に販売にあたる店舗スタッフやEC担当者に明確に伝わっていないため、
各店、各サイトでは、それぞれの思いで商品を並べて販売せざるを得ないと実態は少なくないようです。

そのため、商品計画者の思い通りに商品が売れず、結果として、想定以上の値下げや売れ残り在庫が発生するという話です。

仕入担当者が新商品の紹介や入荷情報の社内連絡を行うのは、当然のルーティン業務ですが、
商談など、仕入業務が忙しいあまり、社内に対しては、事務連絡に終始してしまうことが多いようです。

それぞれの商品を何点販売して、会社全体の売上・粗利の目標達成を目指しているのか?

という仕入担当者としての「意思」を、売場が行動に移せる、販売目標にできるくらいの具体的な数字や売場のイメージで伝えることができているケースは少ないようです。

実は、この仕入担当と販売担当のコミュニケーション(情報共有)ギャップこそが
商品計画の失敗、つまり、多くの売り逃しの一方で、過剰仕入、売れ残り在庫を生んでいる最大要因のひとつであると思っています。

シーズン単位でざっくり立てた商品計画は、例えば、月単位に細分化して、
毎月、見直して、微修正をかけた上で売場と事前情報共有しながら議論を繰り返したいものです。

さもなければ、店舗もEC担当も、販売行動の指針となる、「販売計画」を立てることができない、場当たり的な対応になってしまうことは言うまでもありません。

3)みっつめは、シーズン商品には、必ず、いつまでに売り切るという明確な目標(着地)設定をして販売にあたりましょうという話です。

シーズンで言えば、夏物と冬物の販売終了時期は、それぞれ8月末と2月末と比較的明確ですが・・・
それ以外のシーズンについては、いつまでに売り切るべきかが、具体的に定義されていないケースが少なくありません。

販売期限が決まっていない、あるいは、あいまいだと、必然的に消化管理は甘くなり、結果、在庫はたくさん残ります。

春物や秋物の消化率が夏物や冬物に比べて良くない要因のひとつは販売期間の短さだけではなく、販売期限定義のあいまいさ、とそれゆえの行動の希薄さゆえだと思っています。

〇 全ての商品の販売期限が決まっていること、その情報が販売現場まで伝わっていること、そして、

〇 販売期限までに最終消化率何%を目標に着地させるつもりなのかも伝わっていること、

それが、会社全体で売り切り体制がとれる最低条件です。

これは、いわゆる仕事の「目標管理」の話です。

つまり、いつまでに、どんな結果(数字)にするか、
期限とその時の状態を表す数字がなければ、仕事の目標管理とは言えません。

以上に加えて

・気温と需要にあわせて販売期間を再定義すること 
・セールを前提としない、価格設定(プライスポイント)の見直し

も必要なことは言うまでもありません。

このあたりは、2013年に上梓した
「人気店はバーゲンセールに頼らない」でも解説していますので、ご関心があればご一読頂ければと思います。

ファッション小売業に大きな転換期を迫るコロナショックの今回こそは、
より多くの企業さんが利益とキャッシュフローを重視する
在庫コントロール業務の再構築に取り組むことを切望しています。

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執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

筆者が講師を務める、今年最後の経営者様、事業責任者様向けビジネスセミナー開催中

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【参考書籍】

顧客購買行動と品揃え計画および在庫最適化を考えるビジネス読本

人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識 (中公新書ラクレ)

こちらは電子書籍 Kindle版 です。紙の本の在庫が少なくなりました。ご希望の方は弊社までご連絡頂ければご対応いたします。

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