全員参加のデータ活用経営に舵を切り、社内で埋もれている才能を発掘する
ワークマンの専務取締役兼CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)である土屋哲雄氏が書かれた
「ワークマンの『しない経営』」(ダイヤモンド社)を読みました。
先に出版され、ベストセラーになっている
「ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか」
(日経BP;酒井大輔著)とダブる内容も少なくありませんが・・・ご本人の言葉で、ワークマン躍進のカギになっている大事なポイントを深堀りした内容でとても読み応えがありました。
前半では、タイトルにある「(余計なこと、無駄なことは)しない経営」について、
後半では、社員全員がデータに基づいて仮説検証型の仕事をする社風に変貌した「エクセル経営」について詳しく書かれています。
このうち、後半を読んで、感じたことをまとめてみます。
土屋氏が入社した8年前には店舗の在庫データすら取らない会社だった、「アナログワークマン」(土屋氏談)を、
CIOである同氏が中心になって、
①社内研修を行って販売データ、在庫データを活かすためのエクセル活用という武器を与え、
②データから仮説を立てて行動する社員が増え、
③そういった方々が昇進し、社風が変わり、
その結果、近年の業績拡大、ワークマンプラスの新業態開発にもつながったというストーリーです。
なぜ、今どき、AIじゃなくてExcelなのか?は以下のまとめから感じて頂くか、
本書に明確に書いてあるので是非読んでみて下さいね。
ワークマンのエクセル経営について、いくつかご紹介すると、
・SV(スーパーバイザー)がFC加盟店訪店時、店番を入力するだけで、品揃えの改善アドバイスする際に使える、新規導入推奨商品一覧データ
・商品部の仕入担当者が、製品発注時に活用できる、商品特性にあわせたカラー、サイズ別構成比検討データ
・FC加盟店のオーナーが毎日閉店時に行う補充発注が、ボタン一つで完了する一括発注システム
これらは社内のエクセル研修を受けた後に社員たち自らが関心に基づいて開発したExcelファイルが社内のオフィシャルツールとなり、
仕事が速く、的確に済み、かつ成果が上がるようになったものの一例です。
人事評価にあたり、コミュニケーション力という、持って生まれた、育てることが難しい才能を重視するだけでなく、
データに基づいて考え、成果を出すという、
多くの人ができる、「再現性がある」業務遂行力を重視した経営への舵切りが、
(同氏曰く)当時、成長の限界に近づいていたというワークマンの近年の突破力へとつながった、とのことです。
同著を読んでいて、ブログ筆者(私)が中途採用で小売業に転身した時のことを思い出しました。
著者(土屋氏)と同様、小売未経験者として、小売業に転職した私は、
小売業経験の長い諸先輩社員たちとの経験の差を埋めるために、
日々、定形帳票に加えて、Excel加工したデータをフル活用することを考えました。
当初、雑貨バイヤーだった私は、
会議や発表の場では、経験値や感覚にとらわれず、販売データ(売上/在庫)に基づき発言をし、
週の前半にはデータに基づいて仮説を立てて、週の後半に店舗に行っては、
データに基づいて店舗のスタッフと会話をし、一緒に販売も行いました。
そして、翌週、本社でデータを見て、振り返って検証することを繰り返すことで、
小さな成果を積み上げ、徐々に信頼を勝ち得て行きました。
このプロセス、忙しかったけれど、楽しかったことを今でも思い出します。
その後、全社・全店の在庫運用・在庫管理を任されるディストリビューターの部署の立ち上げを任された時には
複数の部署から人材を集め、社員の方々の感覚値、経験値を裏付けるために、データ活用を推進したものでした。
すると、それまで、営業部や商品部内で声の大きい先輩方に埋もれて目立たなかったメンバーが
データの真実に裏打ちされた自信のある発言をするようになり、多くの社員を数字をもって説得して行くようになったのです。
そして、それまで、勢いで評価されていた社員も、
データ活用するスタッフに、データの見方について、相談にくるようになるではありませんか。
そのメンバーたちがその後、トップに評価され、昇進して行ったことは言うまでもありません。
小売業退職後、私は、コンサルとして独立した後も、
クライアント先では、お客様と会社の利益のために、
在庫を切り口とした、データ活用ができる人材を育成することが、
最大ミッションのひとつになっています。
そんな現場でも、
やはり、そのメンバーの中からデータの裏付けが楽しくなり、
水を得た魚のように、仕事にやりがいを見つけ
頭角を現し、発言が変わり、会社の利益アップに貢献して行く方々と
何人も出会い、
私自身、彼ら、彼女らが活躍する姿が最高の報酬と感じて来たものでした。
小売業には、毎日蓄積される、たくさんのデータがあります。
データが多すぎて、活用しきれないほど、と言ってもよいかも知れません。
私自身も事業会社時代は深堀りしすぎて、疲れ切ったこともありました(笑)
また、前年踏襲のままでは芸がありませんが、
データの見方、切り方、使い方によっては、
行動データとして、一般化して翌年以降も活用できるデータもたくさんあります。
そして、ECが伸び盛りの今、商品データや販売の結果データだけでなく、
顧客情報、購買行動情報も含めて、ますます、新しいデータが蓄積されて行きます。
そういったデータの分析を外部のデータサイエンティストだけに任せるのは実にもったいない話です。
なぜなら、実はそういったことに好奇心を持ち、
実務経験と共に活かせる人材、社内によい影響を与える人材が社内にきっといるからです。
社内のデータ活用は是非、そういった社内の埋もれた才能発掘とセットで考えていただきたいと思います。
業績が伸びている企業は・・・
自分の可能性に気づいて、社員自身が工夫をしながら
商売人として成長し続けている社員同士が、切磋琢磨している企業。
経営陣は、ビジョン(方向性)を明らかにし、
そんな方々に成長・活躍の舞台をつくるだけでいい。
それこそが、ある意味、本書のタイトル「(余計なことは)しない経営」ではないか、と思います。
それが本書を読んでの私の感想であり、
私が長年いろいろな企業を見ていて感じていることでもあります。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
| Permalink | 0