前年比だけにとらわれない経営を
昨年(2020年)3月から業界がコロナショックの影響を受け始め、
多くの企業で前年同月の実績と今年の同月の業績の対比(前年比)が困難になりました。
そのため今年は前々年(2019年)の実績を参考に計画を立てたり、
今年の実績を前々年対比でどうなのかを評価する機会が増えました。
販売検証をする実務の現場では、以前から前年に異常値があると、2年前対比や3年前対比はよくやる切り口なのですが、
ここのところ、各メディアのニュースでも「前々年対比」に触れる記事が多くなったように感じます。
これは2011年の東日本大震災時が比較にならなかった2012年の時以来でしょうか。
もちろん、災害については、心から、二度と起こらないことを祈りますが、
世の中が前年比だけにとらわれず、今後も、もう少し長い視野(スパン)で業績評価をするようになる傾向については歓迎したいと思います。
そもそも、「前年対比」は、平時においては、
上場企業であれば、既存店売上高の前年比が目先の株価に影響したり、
営業現場では、売上が予算に届かない時に、
予算には届かなかったが、前年よりは売れている、など、前年比を言い訳に引っ張り出すなど・・・
ある意味、最も身近な尺度のひとつかも知れません。
一方、「前年比」は比較しやすい(出しやすい)ものの、前年の状況次第では参考にならない尺度であることも少なくありません。
前年が天候やトラブルで売れなかった、逆に特需があったなど
前年のハードルが低ければ前年比が大きく伸びるのは当たり前、その逆もそうです。
特に、小売業はどうしても「前年比」という短期視点に一喜一憂しがちですが・・・
もう少し中期から長期視点で事業の推移を見るべき(3年平均成長率など)である、ということは、
筆者が「ユニクロ対ZARA」の取材時にスペイン、インディテックス社のインタビューに伺った際に、同社広報部の方とのディスカッションの中で気づかされた視点でもありました。
そんな経験もあり、同著執筆以降は、面倒でありますが3年から5年分を時系列に並べて業績を観察することを習慣というか、肝に銘じています。
特に、特定の事業のこれまでの軌跡や健康状態やライフサイクルを知る上で、取っ掛かりとしての長期(5年から10年)時系列推移分析は有効です。
グラフにして、売上や営業利益のアップダウンに着目して・・・
売上や営業利益のピークを発見し、そこで何が起こったのかを深堀りし、その時と比べて、今、何が良くて何が悪化しているのかを見て・・・
今後の伸び代や、改善余地や次の目標を考える。
これ、ここ5ー6年、筆者がコンサル現場でも、よく行っているアプローチです。
最近の例で言えば、前回のしまむらのエントリーであれば、
まず、同社の2000年以降の業績を時系列で並べてみると(以前WWDジャパンの連載で行いました)、
2017年2月期がここ20年間の売上高、営業利益のピークがあることがわかるので、
その時と比べて、足元は何が良くて、何がいまいちなのかを要素ごとに分析したりするわけです。
ところで、WWDジャパンに月イチで連載させて頂いている、
上場企業の決算書の見方を解説しながら、業務改善の切り口を浮き彫りにする連載記事
「ファッション業界のミカタ」
はおかげさまで連載スタートから2年が経過し、3年目に入りましたが、
ここでも、決算書を前年比だけではなく、3年以上時系列で見ることを心がけています。
ご存じのように、通常、決算書は前年比で構成されているので、
3年以上を比較するには、最低2期分以上の決算書を見て並べないといけないことを意味しています。
ひとつの企業にフォーカスして分析する時は
●10年以上の時系列で見て、気になるところを深掘りする
●売上高ではなく、営業利益で考える
●利益を生み出すビジネスモデル(経費構造、BS構造)から考える
また、
●公表されている数値どうしを割り算をして、
単価や単位あたりと言った、購買行動や経営の最小単位にして、その効率の推移を見て考える
●年間ではなく、四半期に分解して、複数年度比較して、アパレル特有の季節ごとのその企業の特徴やクセを掴む
などが、筆者がよく行うアプローチです。
企業の業績は、当然「顧客購買行動」なしには語れませんし、
企業の戦略、戦術には必ず経営者さんや企業のイズムやポリシーが表れますから、
決算書の数字を通して、頭の中で勝手に経営者さんや経営幹部さんと対話をすることを楽しむことにしています。
話を元に戻すと、
大変な時も、平時も、業界企業が健全な中長期ビジョンに基づいて経営するために、
前年比にとらわれず、中長期で業績を考えることを推奨したいと思っています。
【WWDジャパン主催 オンラインセミナーのお知らせ】
5月後半からスタートする、WWDジャパン主催のオンライン連続セミナーに登壇いたします。
昨年は「ユニクロ対ZARA 2020」に登壇させて頂き、好評を頂きましたが、
今年は、世界アパレル専門店企業トップテン、ZARA、ユニクロ、ZOZOの決算書から読み取るべきことが各回のテーマです。
まずは、peatixで申し込みが始まりました。
今回は、ウェビナーではなく、対話型で進めますので、人数限定です。
お早目にお申込み下さい。
WWDジャパン主催オンライン連続セミナー「ファッション業界のミカタ」
最後までお読み頂きありがとうございます。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
【おススメ本】 ベーシックのユニクロとトレンドファッションのZARA。これから進む道も、経営者の経営信念、ビジネスモデルとその変遷を理解すれば、見えて来ます。両社の比較分析が、未来のアパレルビジネスを考える上で、とても参考になると確信しています。
「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本
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