大量生産、過剰在庫、大幅値下げからの脱却~どうしたら値下げを抑えることができるのか?
ファッション小売業の皆さんはどのように商品の販売価格を決めているでしょうか?
そんな質問をすると、
・仕入れ先から提示された仕入原価に対する倍率(3~5倍)を小売販売価格の目安にする
=原価積み上げ方式
・競合他社の販売価格を参考に、その価格を少し下回るように設定する
=他社対比方式
という答えが出てくるかも知れません。
しかし、これまで、業界の勝ち組と呼ばれて来たブランドは、そういった企業の都合ではなく、お客様が納得する、わかりやすい価格をつけて勝ち残って来たことは、
拙著
「人気店はバーゲンセールに頼らない」
「ユニクロ対ZARA」
などの価格戦略の章で解説した通りです。
お客様が、この価格なら、今すぐ買いたい、と納得する価格設定=適正価格とは?
これは商売の永遠のテーマのひとつですが、
業界の中でチェーンストアが採る価格設定の主流は次の2つのパターンと言えるでしょう。
ひとつは、市場最低価格戦略
最低価格と言ってしまうと、下には下がありますが・・・
多くの人が納得する品質が保たれることを前提とした最低価格をつけ、
その価格帯でコスパを競う戦略です。
この戦略の最たる例はユニクロです。
しかし、ここで勝負するのは、レッドオーシャンに飛び込むようなもので、明確な差別化ができない限り
大資本が圧倒的有利であることは間違いありません。
もうひとつは、相対的低価格戦略です。
よく知られたブランドや、百貨店のポピュラー価格のような、
市場や業界の中に、「そこそこ良いもの」と顧客が認知している「スタンダード」のような品質と価格バランスがあって、
それと近しい満足感をそれらの価格の7~8がけ(≒バーゲンスタート価格)や半額など、
顧客が思わず、お得感を感じて購入してしまう価格で提供する戦略です。
前者ほどは価格も安すぎるわけではないので、
そこそこよい素材も使えますし、ちょっとした付加価値で差別化できます。
この戦略を採る典型例は、ZARAでしょうか。
セレクトショップのオリジナル(PB)や著名ブランドのディフュージョンブランド、セカンドブランドもそれにあたるかも知れません。
いずれにせよ、顧客にある程度、認知されたスタンダード(基準)が存在し、
それに対して割安感が感じられれば、顧客も納得しやすい、というものです。
このように品種別に顧客が期待する、販売価格を探り、
その価格を最多価格帯(プライスポイント)として設定し、
設定された価格(プライスポイント)の制約の中で、最大限のコスパを発揮するものづくりを行う。
それが、いわゆるプライスポイント戦略の本質です。
なぜ、値下げが増えるのか?
を議論する時、
まずは、プロパー価格(定価)設定がお客様にとって、適正価格だったのか?を問う必要があるでしょう。
冒頭に述べた、原価積み上げ方式の場合や最初から値下げを前提とした、割増価格設定を行っているなど、
顧客不在の、企業都合の価格設定が行われていると、多くの顧客に支持されず、そのプロパー価格が通らない事態になるでしょう。
また、売れなければすぐに値下げをすればよいと考えるブランドは、
自身が迷走しているだけでなく、顧客もいくらがそのブランドの適価なんだか、わからなくなっている可能性が高く、
すぐに下がるであろうと、価格が下がることを待つことでしょう。
割引キャンペーン頼みになっていたり、失策による早期売価変更が多いブランドは、そこに陥っているのではないでしょうか?
販売期間の短いシーズン商品を扱うファッション専門店は、
予測がすべて当たるわけではないので、外れた時のためにある程度、値下げ余力を確保しておくことは、
企業のリスクマネジメントとしてあたりまえのことです。
しかし、それも、適度にしておかないと、顧客からの価格の信頼性は保てません。
値下げをよくするブランドというブランドポジショニングもありかも知れませんが、それも、いかがなものかと(笑)
そして、確保した値下げ余力(予算)の範囲内で、値下げをどうコントロールするか、も企業の利益管理の技術のひとつです。
そもそも、どれだけ値下げをしても大丈夫なのかを具体的に金額でつかんでいるのか?
値下げ予算というものがあるのなら、その根拠や運用ルールは?
そんなマネジメントなくして、無防備に、売上促進や消化のために値下げに突入するのでは、残せる利益も残せませんね。
適正価格をつけて売り切る、それでも外れるものは、想定範囲で値下げをして処分してリセットするのが王道でしょう。
大幅値下げをしても儲かる、残在庫を評価損しても、まだ儲かる・・・
そのために、大量に安くつくる、という行為が時代に合わなくなってきた昨今。
あらためて、顧客に喜んでプロパーで買ってもらえる適正プライスは?の問いに向き合い、
リスクマネジメントの範囲の値下げ枠内で値下げが管理ができる技術を身に着けておきたいところです。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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