「デジタルとリアルの融合」は手段を目的にせず、まずは、顧客のストレスを特定し、それを解消することから考えよ
7月16日日経MJに、「私のマーケティング論」という見出しで、ナイキ、アウディ、グーグルなどのデジタル戦略やクリエイティブを手掛け、ユニクロのスタイルヒント原宿店の指揮を執った I&CO共同創業者でクリエイティブディレクターである、レイ・イナモト氏のインタビュー記事が掲載されており、大変興味深く読ませていただきました。
「スタイルヒント」の開発背景について聞かれ、同氏は、
(以下引用)
「出発点はアプリの開発。買いたい服の情報を調べようとしてもグーグルなど特定のサイトはなく、(顧客が)自分でキュレーションする必要がありました。ならば服の検索エンジンをつくろうと思ったのです。皆が写真を投稿すると服が情報になり、さらに共有するとプラットフォームになる。」
(以上「 」内記事の同氏の発言からの引用)
ファッション企業各社が「単品」を売ろうと発信している通販サイトはあっても、用途、着こなしかた(コーディネート)のアイデアを企業目線ではなく、顧客目線で集大成するには、ワンブランドではなく、ブランドミックスで消費する顧客投稿型のSNSのデータベース発想には敵いません。
服のコーディネートに関する、その発想の先駆者は、日本においてはZOZOが提供する「WEAR」だと思いますが、1000万件以上のコーディネートがアップされているWEAR上でもコーディネートに使われる、登場件数が断トツ1位で、一方、ZOZOTOWNで販売されていない「ユニクロ」が自らユーザー投稿型データベース型アプリの開発に行きついたのは至極自然な流れだったと思います。ユニクロのミッションは、どんなトレンドファッションに合うベーシックですからね。
続いて、今、が躍起になっている、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」や「デジタルとリアルの融合」というキーワードについて、
(以下引用)
「よくデジタルとリアルの融合に取り組むと聞きますが、僕には融合との発想が全くありません。
消費者がどこにストレスを感じ、その摩擦をどう減らすのかを常に考えています。
たとえば米国のウーバーはタクシーを呼んでも来ないというストレスをなくそうという発想から生まれました。
リアルとデジタルの融合はその結果に過ぎません。形式に取らわれず、常に本質を見る必要があります」
(以上「 」内 記事からの同氏の発言を引用)
この部分は強く共感しました。
その理由は、筆者が、日本のファッション流通が本格的にオムニチャネル時代に入ることを視野に入れて、2018年に「アパレル・サバイバル」の取材も兼ねて訪れたアメリカ西海岸、LA、シアトル、ポートランドでのこと。
当地で、流通各社の先進的なDX事例を実体験しながら、
筆者が共通点として感じたことは、まさしく同氏が語っていることだったからです。
amazon goではコンビニにおける顧客のストレスを
amazon booksでは書店における顧客のストレスを、
ナイキは シューズ購入の際に誰もがかかえる顧客のストレスを、
ウォルマートは・・・
ZARAは・・・
それぞれの企業が先進的に行っていたことは、
〇ショッピングのプロセスにおいて、顧客のストレスがどんなところにあるかがわかっていて、
〇それをどう解決すれば顧客が喜ぶかの「理想的なビジョン(シーン)」を描いた上で・・・
〇そのストレス解消にあたり、顧客が持つスマホ内の自社アプリを活用することが最適と考え、
〇リアルにおける新しい顧客体験をデジタルを活用して実現した
わけです。
それは、まさしく、イナモト氏が言うように、顧客のストレスの解消が目的であり、
「デジタルとリアルの融合」という言葉はその手段や結果でしかなかったのです。
(上記 アメリカでの事例の詳細は是非、拙著「アパレル・サバイバル」をお読みください)
日本では、デジタル化という手段が先にあって最新技術に飛びついたり、
企業の業務効率の都合でデジタル化が図られ、そのしわ寄せとして、顧客に面倒を強いることが多いようですが・・・
欧米では、逆に、顧客のショッピングのストレスを特定し、それをデジタルで解消すると同時に
企業の業務効率も考える、という流れが多いように感じるのは、筆者だけでしょうか?
デジタル化が進まずに焦る前に・・・
まずは、目の前のお客様のストレスを特定し、それをどうしたら、デジタルで解決できるかを考えたいものです。
よく、資金がないから、デジタル化が図れない、と言われますが・・・
本当に必要なのは、お金ではなく・・・
顧客のストレスを解消し、理想のお買い物を体験してもらいたい、というビジョンを描けるかどうか、の顧客への愛と創造力に他なりません。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
【オススメ本】 DXに欠かせないのは、顧客の理想の体験を描く創造力。ファッション流通の歴史、欧米の視察体験から学んだ、日本のファッション流通の未来を本書を通じて垣間見てください。
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