ユニクロの製造業へのチャレンジ~東雲イノベーションファクトリーの全貌が明らかに
ユニクロを展開するファーストリテイリングが先週の始めにメディア関係者に公開した、
「有明プロジェクト」のひとつ、東雲(しののめ)のイノベーションファクトリーに関する記事が
6月30日の日経MJと7月1日の繊研新聞のそれぞれ本紙と6月30日のWWDJAPANオンラインに掲載されていました。
WWDJAPANの記事が結構、詳細で現場の様子がよくわかります。
ユニクロが東京に自社工場 製造業進出で「すぐに作って売る」
(注:こちらは有料記事になります。)
このイノベーションファクトリーはもともと島精機(和歌山)が開発した無縫製ニット編み機=ホールガーメント機を活用して、
地産地消のニット製品の生産販売を行うべく島精機とファーストリテイリング(以下FR社)が和歌山に合弁で設立した製造子会社で
FR社が主導権を取って本腰入れるために、
出資比率を当初のFR:島精機 49%:51%から 51%:49%として、
3カ月前に和歌山から、お膝元の東京有明近くの東雲(しののめ)に移転したものです。
場所は有明本部から10分ほどの3階建て4700㎡(1424坪)の印刷工場跡地
そこに40台のホールガーメント機を置き、65人の従業員がいるそうで
1日1000枚(単純計算1台あたり25枚)の生産が可能だそうです。
将来的には100台にまで持って行く計画もあるそうです。
それぞれの記事を読んだところ
これまで、工場を持たずに協力工場に生産委託するスタイル(ファブレス)を強みとしていた
ユニクロが、初の自前工場で製造業へ進出、というのは少々大げさな話で・・・
実際のところは、本社の身近なところに、
量産工場と連動したサンプル工場あるいはテスト生産工場が出来たと見るべきだろうと思いました。
(FR社は「3Dニット生産の世界のマザー工場」と言っています)
まず、FR社の有明本部の5階にホールガーメント機4台を置いたサンプル作成用のアトリエがあるそうで、
そちらで試作用にプログラミングしたデータを東雲工場に転送し、
実際に販売できる商品化を行いながら、量産に対応できるように調整しているようです。
WWDJAPANや繊研新聞の記事に寄れば、
東雲で、行っているのは、
・糸の巻替え(糸の中にあるゴミなどのまぎれ込みを取り除くための行為)
・編み立て
・糸切れ直し
・稼働点検
・製品補修
・洗濯と乾燥
・アイロンがけ
・タグ付け
要は、糸から製品の形になる、編み立て自体(パーツを組み立てるリンキング工程は不要)は
ホールガーメント機が24時間自動で行ってくれますが、
準備工程である
●編み立てのプログラミング(ここが時間がかかるといわれています)
●ホールガーメント機にかけるまでの糸の品質確認とセッティング や
編み立中の
●稼働中の点検、
●糸の切り替え、
編み立て後の
●製品補修、
●洗濯、乾燥、
●アイロンがけ、
●タグ付け
などは、やはり、人がやらないといけないようなので・・・
東京の人件費を考えた場合、
ユニクロ価格のニットのプライスレンジの上限で販売したとしても、
試験販売用の商品原価では儲けはあまり出ないのではないかと思われます。
ここからは、記事を読んだ上での、筆者の解釈ですが、
この東雲イノベーションファクトリーの目的と役割は
まず、第一には
◆サンプルづくりから量産までの工程研究および時間短縮
ホールガーメント機の海外での大量生産前に
海外量産工場で起こりうるトラブル解消や作業の効率化の研究を行い
生産のボトルネックや起こりうるトラブルを事前につぶしておくことで
生産のスピードを上げ、不良品率を下げることができるのではないか。
次に、
◆的中率を高めるための試験販売用の商品づくり
商品企画者のアイデアの元、東雲でつくった少量製品を
銀座のUNIQLO TOKYO 店などで試験販売し、
売れ行きを見て、海外での量産の発注数の参考にするそうです。
また、
◆追加生産入荷までの国内QR生産による繋ぎ商品供給
量産での販売が計画に対して上振れして、
海外に追加生産をして、海外からの商品供給が間に合わない時の
一時的な売場の穴うめ、繋ぎ用商品在庫の供給を担うことができるようです。
従来であれば、
量産をする海外工場に仕様書を元にサンプル作成をして送ってもらい、
チェック、修正を繰り返していた流れから・・・
企画担当者やデザイナーが有明本社の5階のアトリエ(4台)でつくり、
東雲工場で量産向けにテスト生産を行って確かめた上で
海外の量産工場にサンプル、プログラミングデータ、工程上の注意と共に提供すれば、
生産の効率化が期待できる。
この流れの主導権を持った革新が、同社が
「従来3ヶ月かかっていた仕事を1か月に短縮したい」
という話の背景にあるはずです。
各社の報道を読みながら、思ったのは、
アパレル生産のサプライチェーンのボトルネックのひとつである
「サンプル確認」工程をユニクロがコントロールできるようになったこと。
そして、
あくまでもホールガーメント機を使ったニット製造に限りますが
製造中に起こりうる問題点の解決策を
東京から世界の量産工場に具体的に提示できるようになったこと
この2つには大きな意義があります。
ZARA(ザラ)が本社デザインルームに布帛アイテムのためのアトリエを持ち、
自らサンプル作成を行って工程上の問題点を認識し、
量産素材の裁断を手掛け、
どこでも縫えるような形にして、
縫製工場に縫製(アッセンブル)委託をすることで
サプライチェーンのボトルネックを解消しながら、スピード生産を実現していますが、
ユニクロが、そのあくまでもホールガーメントニット版に限りますが、
踏み出したということを意味します。
次に、的中率を上げ、無駄な在庫をつくらないように・・・
店頭で顧客の反応を確かめてから量産数量を決定することができる、
試験販売用のサンプル工場を持ったこと。
これは、今はどうされているか不明ですが、
レディースカジュアルSPAのハニーズが2000年代の全盛期に
福島にサンプル作成と店頭試験販売用のサンプル工場を持っていて、
一部の店頭で試験販売をした上で中国に量産発注をしていた話を思いだしました。
また、古くは、米リミテッドストア(現Lブランズ)が
バイヤーたちが世界中で買い付けたサンプル商品にリミテッドのネームを付け替えて、
都市部の3店舗で試験販売をした上で、顧客の反応を見て
アジアに量産発注し、出来上がった商品は空輸でアメリカに持ち込み、
全店展開して的中率を上げていたという話を思い出しました。
ユニクロが自ら量産を手掛けるわけではありませんが、
大量につくって、徹底的に売り切る、というビジネスモデルから・・・
的中率を上げ、サプライチェーンのボトルネックの解消のために
製造工程に大きく足を踏み入れたという点においては、
とても意義のある、大きな前進であると感じました。
最後までお読み頂きありがとうございます。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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