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December 27, 2021

EC発人気レディースブランドのキーパーソンたちが語るSNS時代の顧客目線

Photo_2021122712300112月22日、23日の繊研新聞にEC発の3つのレディースブランドのキーパーソンへのインタビュー記事が連載されており、楽しく読ませていただきました。

3ブランドとキーパーソンとは、アメリのCEOの黒石奈央子さん、エトレトウキョウのクリエイティブディレクターのJUNNAさん、トゥデイフルのライフディレクター兼デザイナー吉田怜香さん。

記事の中で、なるほど、と共感した部分を引用しながら、顧客と共につくるブランディングの視点について考察してみたいと思います。

まずは、アメリの黒石さん

10月に定額制会員サービスを始めたそうで、社内で定額課金(サブスク)サービスを「アメリ」らしく行おうと話し合った結果、設けた特典のひとつが、

「人気商品は即完売することがあり、会員が欲しい商品を発売前日に購入できる」

というサービス。

これ、いわゆるファストパス的なサービスですよね。

アメリのサイトによれば、その他に限定アイテムの発売、購入時の送料無料、ポイント2倍、会員限定Instagramへの招待があるようです。

世の中のポイント還元を中心とした「会員制」は年間購買額に応じて沢山買ってくれる人ほど、たくさんの割引を受けることができる、というしくみが圧倒的に多いですよね。

筆者はその「常識」(?)に、少々違和感を持っていましたが、

ファンが高額購入または定額課金でブランドの利益と事業の継続を支える、ブランドは支えて下さるファンに割引だけに頼らない「特権」で報いる。

そんな定額課金に基づく会員制によるファンづくりが・・・

これからリテーラーに広がって行くような気がしていたので、いい顧客育成アプローチだな、と思いながら読んでおりました。

 

次に、エトレトウキョウのJUNNAさん

インスタライブでいつも「愛を持って服を育てることは人生を豊かにするよ」と話している、という話。

「例えばニットを売るときも、商品の話ではなく、手入れの方法を伝え長く着てもらう知恵を共有します。」(「」内引用)

「できる限り、数年前に売った服を今も着ているとも伝えています。好きな服をずっと着てもいいんだという安心感は信頼につながっています。」(「」内引用)

とのこと

今年の服を売る、新しい服に着せ替えるのがアパレル企業にとっての「常識」ですが・・・

一方で、お気に入りを長く、賢く着たい、そこに上手く新しいものを取り入れたい、というのが顧客側の「常識」です。

これまで、店頭接客(ECも)はそのギャップの葛藤の連続だったと思います。

売り手が、販売する時に、「長く大切に着てね、こうすれば長持ちする」とか、「(私も)数年前のものも大事に着ている」と伝えることは、買い手に優しい、共感を生むコミュニケーションではないか、と、とても共感したものでした。

 

最後にトゥデイフルの吉田さん

「前シーズンに出した服を翌年に売ることもあります。
私は数年前の服でもお気に入りはインスタグラムに載せるのですが、それを見た顧客から「怜香さんも3年愛用しているんですね」との共感もある。2年目とか3年目に売れる服もあります。」(「」内引用)

 

「SNSに強いから自分が前に出て新しい服をすすめないといけない。
けれど、「これ可愛いです。長く着られます」って毎年新作を見せることには違和感がある。私は良い服を長く着る提案をしていきたい。」(「」内引用)

これが、顧客目線の等身大的な発想だと思うのですよね。

新しい服を売り込まなければならない企業 

以前買った服を大切に、上手に今年風に着たい顧客

売り手の都合を押し付けてばかりいたらギャップはますます広がることでしょう。

サステナブル(持続可能)って、別に環境に優しい素材でつくればよいって話だけではなく、
売り手の都合だけでなく、買い手の購入や入替をストレス少なく、持続可能にすることが大事なことだと思っています。

この記事に登場したご本人たちはファッションリーダーであると共に、こういった顧客目線、等身大的発想のできる方々。

そんな視点が、ますます共感を生み、事業を持続可能にするキーワードのひとつなのではないか、とあらためて感じたものでした。

追伸 舞台が店頭からオンライン、SNSコミュニティにも広がっただけで、実は昔から同じ話です。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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December 22, 2021

【このセミナーは終了しました】1月27日(木)開催 「3つの視点を共有するだけで、過剰在庫が粗利とキャッシュに換わる!ファッションストアの在庫コントロールの組織づくりの秘訣」

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December 20, 2021

アパレル国内生産回帰は進むのか?~仕入原価が上がっても、値下げを抑えることで、利益を高める商品調達戦略へのチャレンジを

Photo_2021122013060112月15日の日経新聞1面にワールドやTSIなどの百貨店で販売する大手アパレルが国内生産回帰をする動きに関する記事が掲載されていました。

コロナ禍で海外生産のサプライチェーンが混乱し、海外調達の原価高騰も相まって、海外で生産するメリットが薄れて来たため、国内生産比率を高めて、商品の安定調達をしようというものです。

この記事を読まれて、

・これまで金額ベース79%、数量ベース98%まで進んだ輸入浸透率(国内流通品の海外生産比率)を、一体どこまで国内生産に戻せるのか、

・海外生産が進んで、減り行く国内の縫製現場において、果たして優良な生産委託先がこれからどれだけ確保できるのか、

・一旦は、多少国内生産に戻っても、また、いずれは海外生産に戻る、を繰り返すだろう

などなど、業界関係者の中では、いろいろなコメントがあるかと思います。

筆者がこの記事の中で注目したいのは、

「国内生産は海外と比べてもコストは高い。注文から納品までの時間短縮などで廃棄ロスや機会損失を大幅に削減してコスト上昇を相殺できるとみる。」

という正論の部分です。

つまり、国内での安定生産を

これから「腰を据えて継続する」上でカギを握る、損益の話です。

これ、業界では、長年、何度も繰り返して来た議論になりますが、

ベーシック商品はともかく、シーズントレンド商品に関しては、
遠くでつくるほど、在庫リスクを抱え込むことになります。

季節性やシーズントレンドがあるファッション商品は
いくら製品の仕入原価を数十%抑えることができるから、と
人件費の安い国で、安くつくったとしても、

生産ロットが大きくなったり、
リードタイム(生産期間)が長くなることで、
在庫リスクを抱えてしまうことになりかねません。

適時適価適量でうまく売り切ることができればよいのですが、
そもそも、原価が安いのには理由があるわけで・・・

そこにコスパを感じられなければ、
それに敏感に気付く消費者は購入を見送るでしょう。

シーズン末までに売り切れない在庫量を抱えることで、
安易に30%OFF、50%OFFと大幅値下げをすることになれば、

せっかくの当初の数十%の原価低減努力も、
あっけなく、水の泡になりかねないという話です。

値下げという行為は、結局は売上原価に回って、粗利を減らしてしまうものですからね。

古くからアパレルビジネスに携わる人の中には
「バーゲンが一番儲かる」という方が少なくありません。

妙な話に聞こえるかも知れませんが・・・

つまり、値下げをすることで、販売数量が増え、
売上額、粗利額が大きくなるから、


値下げに耐えうる原資が確保できるように
低原価構造で値入をガッツリとって商品を調達しておけば儲かる、
という考え方をお持ちの方々です。

商業施設歩率家賃の高さや割引キャンペーンやタイムセール
また、ECモールのクーポンの乱発に対しても
同様の考え方で臨む経営者もいらっしゃいます。

筆者は、そういった考え方が、
であれば、安く作っておけばよい、と
原価率を下げるためのアパレル生産の海外シフト、
そして、東南アジア、南アジア方面への南下政策を誘発している
要因のひとつであると見ています。

国内から中国へ、そして東南アジアに生産地を移転したことで、
果たして、どれだけ原価が下げられたのでしょうか?

もし、それが、結果行ってしまう値下げ額に及ばないものであったら、
その生産地移転は本当に意味があったのでしょうか?

という話です。

仮に、シーズン通して、プロパー価格(当初販売価格)から
平均30%相当の値下げしているとした場合、

ちょっと無茶なことを言いますが、

今後、もし、一切、値下げをしない覚悟ができるのであれば、

その分、つまり値下げしていた分、
そのまま仕入原価をアップすることに充当できるはずです。

あるいは、
一切値下げをしないとまでは行かなくても、

値下げしていた総額をこれまでの半分にでも抑えることができれば・・・

仕入原価率35%のブランドは、


仕入原価が今までよりも3割高くても
損益は成り立つのではないでしょうか?

更に

百貨店ブランドのような仕入原価率20-25%のところであれば、

値下げを半分に抑えることで、
仕入原価は5割以上高めても、
今まで同様の利益が残るのではないでしょうか?

計算上、原価率が低ければ低かったところほど、
値下げ抑制効果は仕入原価アップを可能としますから。

そうすると、販売価格によっては国内生産も十分可能になる企業も出て来るはずです。

むしろ、商品原価が上がり、コスパが高まれば・・・


値下げの心配はしなくても、
自然にプロパー(定価)で売れる比率が高まり、

以前ほど数量を売らなくても、売上が増え、
「粗利率」は下がるかも知れませんが、「粗利額」は増え、

数量を沢山売らなくて済むことで、

在庫が減り、

販売スタッフの負担が少なくなり、

物流経費、管理コストが減り、

営業利益は増えるのではないでしょうか?

理屈ではわかっても・・・

これ迄、そのようにできなかった理由をひとつひとつ潰して・・・

何年かに一度のサプライチェーンの見直しの転機である今こそ、

是非、腰を据えて、経営者さんが覚悟を決めて、
持続可能で、お客様にも企業にためになる
商品調達戦略に取り組んでいただきたいところですね。

この日経の記事の最後の部分で

世界で「ニアショアリング」と呼ばれる、消費地に近い場所での生産が海外アパレル企業の間で広がっているという解説があります。

ニアショアリングとはオフショアリングの反対語で、

人件費の安い海外にリスクを取りながらアウトソーシングする後者に対して、

前者は同じ国の地方、または近隣国にアウトソーシングをするという意味です。

記事によれば、米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、

38の国際的なブランドや小売業の7割が、今後、ニアショアリングを増やす計画とのこと。

2013年のラナ・プラザの大惨事以降、2015年のSDG'sの世界的広まりもあり、
特に5-6年くらい前から欧州の大手アパレルチェーンを中心に

オフショアリングとニアショアリングの使い分けの傾向が増えて来たことを筆者は感じていました。

ちなみにZARAを展開するインディテックスグループは、古くから、

・トレンド商品は近隣国で生産し、

・コスパで勝負のベーシックはアジアにアウトソーシングする

というポリシーを貫き、ここで言う、ニアショアリングとオフショアリングを商品特性ごとに使い分けて
グローバルで成功している先進事例と言えるでしょう。

多くの業界が、顧客が求める、商品の特徴ごとに商品調達戦略とサプライチェーンを組み直す、
今はそんな岐路に立たされている時です。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】先行するZARA、追いかけるユニクロ。ZARAの背中を見ていれば、まだまだやることはたくさんありそうです。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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December 13, 2021

ZOZOの商品取扱高手数料収入以外の収入に注目

20211214_160350WWDJAPANに月イチ連載中「ファッション業界のミカタ」(ファッション流通企業の決算書の見方)。

今週発売のvol.32(12月13日号)ではZOZOの上半期4~9月期決算を取り上げさせて頂きました。

引き続き、ZOZOTOWN、PayPayモールを合わせた商品取扱高は拡大中。

ZOZOTOWN事業の伸びが鈍感していますが、PayPayモール側の伸びでカバーしています。

ここ数年気になっていた、低価格を望む客層の買上増に伴う、平均商品単価および出荷1件あたりの単価の低下は止まりませんが・・・

当期は物流費、決済手数料などEC販売でかかるメジャー販管費を効率化して、出荷一件あたりの利益額を高めているところに、既存事業収益化の努力の表れが見えます。

本紙では前年比だけでなく、5年以上の時系列比較をしていますので、是非、グラフや図表をご覧ください。

今、そして、これからZOZOの決算を見る上で注目すべきなのは・・・

商品取扱高以外の収入(売上高の中の出荷手数料以外の収入)です。

これらは売上高=粗利なので収益性向上に多いに貢献します。

今回(上半期)、特筆すべきは広告収入の前年比倍増です。

また、十数ブランドを対象に今期リリースした、

ZOZOで見た商品を、ブランドの顧客近隣店舗在庫を取り置いて、

顧客は店舗で試着した上で購入出来るサービス=ZOZOMO(ゾゾモ)に注目しています。

現在は、無料でブランド側に提供しているOtoOサービスですが、将来、商品取扱品の販売手数料以外の、広告収入に次ぐ収入としてマネタイズして行かれることを楽しみにしています。

あと、今回の決算発表では触れられていませんでしたが・・・

ZOZOTOWNのトップページのパーソナライズの準備が着々と進んでいるようです。

これが実現すれば、ZOZOTOWN事業も単価下落に終止符が打たれ、飛躍するのではないかと見ています。

日本最大のファッションテック人材を有する同社のユーザー最適へのチャレンジ、

引き続き、楽しみにしています。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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December 06, 2021

新規事業(スタートアップ)発展の共通項

Ministry-of-supplya繊研新聞11月30日号の「TOPに聞く」

「失敗するDtoC事業」 

「商品にこだわり過ぎは危険」

の見出しが目に留まり、DtoCブランドを中心にブランディング(ブランドの自走)を支援されているフラクタ社の社長 河野貴伸さんのインタビュー記事が掲載されておりましたので興味深く読ませていただきました。

この方はShopifyの日本導入支援でたくさんのブランドのご支援をされて最近メディアで注目されている方ですね。

沢山のスタートアップ系ブランドのデジタルを通じた「自走」をお手伝いされたご経験から語られた記事の内容で
面白かったところをご紹介します。 ( 「  」内は記事からの引用です)

・(DtoCブランドの多くは)「米国でも平均的には10億から20億円が上限値」

 とスタートアップ時のビジネススタイルで取り込める規模の限界を指摘した上で

 

・「アパレルだとどうしても商品企画を優先しがちですが、商品起点に考えると危険」と指摘し

 作り手が陥りがちな、価値を伝え、販売して利益を上げてなんぼということよりも、商品へのこだわりが強すぎることに警鐘を鳴らし、

 

・「限られた要件の中でいかに最高のモノを生み出すかが成功の鍵を握る」
 運営も最少人数で「アーティストではなく、アスリートにならないと(成功は)難しい」と
 
 スピード感やアジリティ(柔軟性)の必要性を訴えます。

 

・(相談はしても)「丸投げするようなところは大抵失敗」

 と、当たり前のことながら、いかにそういうところが多いかをほのめかしながら(笑)、

 

・「顧客当たりの収益性に対して、どれだけ広告費や商品原価に充てられるかその中でどう差別化を図れるか」

・「ただし、かける人数も最小で、というのは最初に伝えるぐらい重要な要素。」と

 しっかり損益というか、財務諸表的な視点も入って、とても地に足がついた内容のコメントでした。

メーカーだろうが、小売だろうが、オンラインで販売しようが、実店舗で販売しようが・・・


スモールビジネスには共通することなので、頷きながら読んでいた次第です。

 やはり、ライフサイクル(導入、成長、成熟、衰退)のどの時点にいるか、とか、現在の規模と目指す規模によって、割けるリソースや優先すべきことって違いますよね。

 よく、そこそこの規模の会社が新規事業を立ち上げる時に見ていて感じるのですが・・・

 組織やお金のかけ方が3段飛ばしくらいのオーバースペックであったり、もっと、泥臭く、お客様や商売というものを体感しなきゃ、と
甘やかし過ぎだと感じる時が少なからずあります。

 創業者の方はスタートアップから成長期に乗せる時にひとりでいろいろなことをしながら自己完結的に、ハードワークをして来たこと、
そして、その苦労があってこそ、今があることをよく知っているはずなのに、民主的なサラリーマン組織になってしまうと、忘れてしまうのでしょうか?と。

 在庫コントロールの組織づくりセミナーの冒頭でも、よくお伝えする話なのですが、

「一三の法則(いちさんのほうそく)」と言って、

 1人(創業者)、3人、10人、30人、100人と事業にかかわる社員数と、
一人当たりが稼げる売上・利益によってそれぞれの規模と損益に見合った仕事のしかた(兼務→専任)も
意思決定のスピード感、そして、次のステージに向けての事業テーマ(見える風景)違いがあるものです。

 そこを見誤ると、可能性の芽もつぶしてしまいかねませんし、せっかく稼げる利益もじゃじゃ漏れになる

と思っています。

 また、店舗ビジネスのP/Lとオンライン中心(DtoC)のP/L構造は違うということも

 あらためて、河野氏の言葉からも感じました。

 それは、単なる販売管理費の違いではなく、

 前者は店舗P/Lの積み上げが基準なのに対し、後者は顧客P/Lの積み上げが基準になるということ。

 しかし、P/Lの最小単位が変わっても、商売を軌道に乗せる時の覚悟や考え方は変わらない

と感じたものでした。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

 

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