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December 20, 2021

アパレル国内生産回帰は進むのか?~仕入原価が上がっても、値下げを抑えることで、利益を高める商品調達戦略へのチャレンジを

Photo_2021122013060112月15日の日経新聞1面にワールドやTSIなどの百貨店で販売する大手アパレルが国内生産回帰をする動きに関する記事が掲載されていました。

コロナ禍で海外生産のサプライチェーンが混乱し、海外調達の原価高騰も相まって、海外で生産するメリットが薄れて来たため、国内生産比率を高めて、商品の安定調達をしようというものです。

この記事を読まれて、

・これまで金額ベース79%、数量ベース98%まで進んだ輸入浸透率(国内流通品の海外生産比率)を、一体どこまで国内生産に戻せるのか、

・海外生産が進んで、減り行く国内の縫製現場において、果たして優良な生産委託先がこれからどれだけ確保できるのか、

・一旦は、多少国内生産に戻っても、また、いずれは海外生産に戻る、を繰り返すだろう

などなど、業界関係者の中では、いろいろなコメントがあるかと思います。

筆者がこの記事の中で注目したいのは、

「国内生産は海外と比べてもコストは高い。注文から納品までの時間短縮などで廃棄ロスや機会損失を大幅に削減してコスト上昇を相殺できるとみる。」

という正論の部分です。

つまり、国内での安定生産を

これから「腰を据えて継続する」上でカギを握る、損益の話です。

これ、業界では、長年、何度も繰り返して来た議論になりますが、

ベーシック商品はともかく、シーズントレンド商品に関しては、
遠くでつくるほど、在庫リスクを抱え込むことになります。

季節性やシーズントレンドがあるファッション商品は
いくら製品の仕入原価を数十%抑えることができるから、と
人件費の安い国で、安くつくったとしても、

生産ロットが大きくなったり、
リードタイム(生産期間)が長くなることで、
在庫リスクを抱えてしまうことになりかねません。

適時適価適量でうまく売り切ることができればよいのですが、
そもそも、原価が安いのには理由があるわけで・・・

そこにコスパを感じられなければ、
それに敏感に気付く消費者は購入を見送るでしょう。

シーズン末までに売り切れない在庫量を抱えることで、
安易に30%OFF、50%OFFと大幅値下げをすることになれば、

せっかくの当初の数十%の原価低減努力も、
あっけなく、水の泡になりかねないという話です。

値下げという行為は、結局は売上原価に回って、粗利を減らしてしまうものですからね。

古くからアパレルビジネスに携わる人の中には
「バーゲンが一番儲かる」という方が少なくありません。

妙な話に聞こえるかも知れませんが・・・

つまり、値下げをすることで、販売数量が増え、
売上額、粗利額が大きくなるから、


値下げに耐えうる原資が確保できるように
低原価構造で値入をガッツリとって商品を調達しておけば儲かる、
という考え方をお持ちの方々です。

商業施設歩率家賃の高さや割引キャンペーンやタイムセール
また、ECモールのクーポンの乱発に対しても
同様の考え方で臨む経営者もいらっしゃいます。

筆者は、そういった考え方が、
であれば、安く作っておけばよい、と
原価率を下げるためのアパレル生産の海外シフト、
そして、東南アジア、南アジア方面への南下政策を誘発している
要因のひとつであると見ています。

国内から中国へ、そして東南アジアに生産地を移転したことで、
果たして、どれだけ原価が下げられたのでしょうか?

もし、それが、結果行ってしまう値下げ額に及ばないものであったら、
その生産地移転は本当に意味があったのでしょうか?

という話です。

仮に、シーズン通して、プロパー価格(当初販売価格)から
平均30%相当の値下げしているとした場合、

ちょっと無茶なことを言いますが、

今後、もし、一切、値下げをしない覚悟ができるのであれば、

その分、つまり値下げしていた分、
そのまま仕入原価をアップすることに充当できるはずです。

あるいは、
一切値下げをしないとまでは行かなくても、

値下げしていた総額をこれまでの半分にでも抑えることができれば・・・

仕入原価率35%のブランドは、


仕入原価が今までよりも3割高くても
損益は成り立つのではないでしょうか?

更に

百貨店ブランドのような仕入原価率20-25%のところであれば、

値下げを半分に抑えることで、
仕入原価は5割以上高めても、
今まで同様の利益が残るのではないでしょうか?

計算上、原価率が低ければ低かったところほど、
値下げ抑制効果は仕入原価アップを可能としますから。

そうすると、販売価格によっては国内生産も十分可能になる企業も出て来るはずです。

むしろ、商品原価が上がり、コスパが高まれば・・・


値下げの心配はしなくても、
自然にプロパー(定価)で売れる比率が高まり、

以前ほど数量を売らなくても、売上が増え、
「粗利率」は下がるかも知れませんが、「粗利額」は増え、

数量を沢山売らなくて済むことで、

在庫が減り、

販売スタッフの負担が少なくなり、

物流経費、管理コストが減り、

営業利益は増えるのではないでしょうか?

理屈ではわかっても・・・

これ迄、そのようにできなかった理由をひとつひとつ潰して・・・

何年かに一度のサプライチェーンの見直しの転機である今こそ、

是非、腰を据えて、経営者さんが覚悟を決めて、
持続可能で、お客様にも企業にためになる
商品調達戦略に取り組んでいただきたいところですね。

この日経の記事の最後の部分で

世界で「ニアショアリング」と呼ばれる、消費地に近い場所での生産が海外アパレル企業の間で広がっているという解説があります。

ニアショアリングとはオフショアリングの反対語で、

人件費の安い海外にリスクを取りながらアウトソーシングする後者に対して、

前者は同じ国の地方、または近隣国にアウトソーシングをするという意味です。

記事によれば、米コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、

38の国際的なブランドや小売業の7割が、今後、ニアショアリングを増やす計画とのこと。

2013年のラナ・プラザの大惨事以降、2015年のSDG'sの世界的広まりもあり、
特に5-6年くらい前から欧州の大手アパレルチェーンを中心に

オフショアリングとニアショアリングの使い分けの傾向が増えて来たことを筆者は感じていました。

ちなみにZARAを展開するインディテックスグループは、古くから、

・トレンド商品は近隣国で生産し、

・コスパで勝負のベーシックはアジアにアウトソーシングする

というポリシーを貫き、ここで言う、ニアショアリングとオフショアリングを商品特性ごとに使い分けて
グローバルで成功している先進事例と言えるでしょう。

多くの業界が、顧客が求める、商品の特徴ごとに商品調達戦略とサプライチェーンを組み直す、
今はそんな岐路に立たされている時です。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】先行するZARA、追いかけるユニクロ。ZARAの背中を見ていれば、まだまだやることはたくさんありそうです。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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