「アマゾンvsウォルマート」を読んで~アメリカでしのぎを削る2大流通企業の狙いを通じて小売業の未来が想像できる書籍
アメリカの流通業界の情報取得で、いつもお世話になっている鈴木敏仁さんが書かれた
新刊「アマゾンvsウォルマート(ダイヤモンド社)」を読みました。
新聞やメディアの記者ではなかなか書けない、
長年、現地で両社をウォッチ(定点観測&IRリリース)し続けて来た流通企業での業務経験のある鈴木さんならではの切り口でウォルマートとアマゾンの歴史とチャレンジを表から裏から解説して下さっており、
小売業の実務を支援する立場の私にとっても、とても共感でき、刺激が多く、大変勉強になる一冊です。
特に印象に残ったところを、ネタバレにならない程度(笑)にいくつかご紹介させていただきますね。
前半でウォルマートのEDLP(エブリデイロープライス)の話が出て来ますが、
その「本質」は私自身、「何度も」聞いてきたはずの話なのに、
それを愚直に実践しているウォルマートの話がとても新鮮に感じてしまうのはなぜなのかを考えさせられました。
同社が常に安い価格を実現できるのは、そのバイイングパワーだけでなく、「安定した」ローコストオペレーションゆえ。
しかし多くの小売業が、ただ大量に買うからと仕入先を叩いたり、自転車操業的なディスカウントを繰り返して、安い価格を実現しようとする現実があります。
そんな行為が、現場やサプライチェーンに無理強いをして、酷使するだけでローコストオペレーションにならない・・・
結果、コスト高になってしまっていることに気づかない、というのが現実のような気がしてなりません。
そんなウォルマートの小売業としての経営信念と中長期ヴィジョンに基づいて構築した盤石の基盤に関わらず、
生活者がオンラインとオフラインを行き来する時代に、システムインフラを部分最適ではなく、未来の小売のヴィジョンを描いて、抜本的な入れ替えをやってのけた「パンゲア・プロジェクト」のリーダーシップには脱帽というか、小売業の「キング」としてのプライドと覚悟を感じたものでした。
大きくなって大企業病になり、身動きが取れなくなった企業経営者さんたちは、ウォルマートのVMIやセルフレジやBOPISやカーブサイドピックアップのような、メディアで話題になる視察対象になる表層的な施策レベルを真似るのではなく・・・
同社の流通業界そして社内に対するリーダーシップを学ぶべきだと痛感しました。
続いて、計算上では何年後かにはウォルマートの年商規模を抜く可能性もあるAmazonは、
小売業の姿をしたIT企業であり、金融企業。
常にAWSが稼ぐ利益が注目されますが、「マーケットプレイス」コンセプトのビジネスモデルがすごいと思いました。
同社が現代から未来にかけてのかつての「石油」にあたる、「データ」を欲しいままにしていることはよく知られていますが・・・
マーケットプレイスは豊富な「品揃え」を実現するだけでなく、「購買行動データ」と共に、「代金回収代行」によるキャッシュフロー創出の側面があることに「してやられた」感を受けました。
また、エンドユーザーとつながっている、オンからオフへ広がり続ける小売業であり、IT企業だからこそ、
未完成なまま顧客視点のサービスを次々にリリースし、
実際の顧客行動から得られた気づきにあわせて、システム修正を加えてゆくアジャイルさに、これはもう太刀打ちできないな、と思いました。
従来の小売業の多くはITがわからない、IT 人材がいないため、ITベンダーに発注するものですが・・・
発注した小売業はお金を払っているからと、ITベンダーに完璧なシステムを求め、
現場に明るくないIT企業側もクライアントに完璧な(?)システムの納品を目指す。
小売業とIT企業がそんな関係を続けている以上は、トラブルが続くだけで、
何年、いや何十年たってもAmazonには追いつかないだろうなと感じたものでした。
そして、実は、読後に一番印象に残ったのが、
ウォルマートとアマゾンの影で 規模を拡大し続ける
ドアダッシュ、インスタカートなどの「オンデマンド型短時間宅配サービス」の話でした。
日本では出前館やウーバーイーツを想像していただくとよいでしょう。
これは、BtoCのデリバリーサービスの顔をしていますが、
その本質は既述のマーケットプレイスに近い、代金の回収代行によるキャッシュフロー創出ビジネスであると。
これまで営業利益が多い会社、無借金経営が美徳とされた小売業界。
購買行動が大きく変わり、小売業とエンドユーザーとの間に登場する新しい切り口の企業たち。
これから伸びたり、登場したりする、そんな企業の動向からも目が離せないと思います。
アメリカでは、失敗もそれだけ多いけれども・・・
頭のいい人たちが考える新しい切り口のビジネスが登場する宝庫であることを
あらためて思い知らされたものでした。
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最後までお読み頂き、ありがとうございます。
執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩
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