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March 28, 2022

「アマゾンvsウォルマート」を読んで~アメリカでしのぎを削る2大流通企業の狙いを通じて小売業の未来が想像できる書籍

20220401_165503アメリカの流通業界の情報取得で、いつもお世話になっている鈴木敏仁さんが書かれた

新刊「アマゾンvsウォルマート(ダイヤモンド社)」を読みました。

新聞やメディアの記者ではなかなか書けない、

長年、現地で両社をウォッチ(定点観測&IRリリース)し続けて来た流通企業での業務経験のある鈴木さんならではの切り口でウォルマートとアマゾンの歴史とチャレンジを表から裏から解説して下さっており、

小売業の実務を支援する立場の私にとっても、とても共感でき、刺激が多く、大変勉強になる一冊です。

特に印象に残ったところを、ネタバレにならない程度(笑)にいくつかご紹介させていただきますね。

前半でウォルマートのEDLP(エブリデイロープライス)の話が出て来ますが、
その「本質」は私自身、「何度も」聞いてきたはずの話なのに、

それを愚直に実践しているウォルマートの話がとても新鮮に感じてしまうのはなぜなのかを考えさせられました。

同社が常に安い価格を実現できるのは、そのバイイングパワーだけでなく、「安定した」ローコストオペレーションゆえ。

しかし多くの小売業が、ただ大量に買うからと仕入先を叩いたり、自転車操業的なディスカウントを繰り返して、安い価格を実現しようとする現実があります。

そんな行為が、現場やサプライチェーンに無理強いをして、酷使するだけでローコストオペレーションにならない・・・

結果、コスト高になってしまっていることに気づかない、というのが現実のような気がしてなりません。

そんなウォルマートの小売業としての経営信念と中長期ヴィジョンに基づいて構築した盤石の基盤に関わらず、

生活者がオンラインとオフラインを行き来する時代に、システムインフラを部分最適ではなく、未来の小売のヴィジョンを描いて、抜本的な入れ替えをやってのけた「パンゲア・プロジェクト」のリーダーシップには脱帽というか、小売業の「キング」としてのプライドと覚悟を感じたものでした。

大きくなって大企業病になり、身動きが取れなくなった企業経営者さんたちは、ウォルマートのVMIやセルフレジやBOPISやカーブサイドピックアップのような、メディアで話題になる視察対象になる表層的な施策レベルを真似るのではなく・・・

同社の流通業界そして社内に対するリーダーシップを学ぶべきだと痛感しました。

続いて、計算上では何年後かにはウォルマートの年商規模を抜く可能性もあるAmazonは、
小売業の姿をしたIT企業であり、金融企業。

常にAWSが稼ぐ利益が注目されますが、「マーケットプレイス」コンセプトのビジネスモデルがすごいと思いました。

同社が現代から未来にかけてのかつての「石油」にあたる、「データ」を欲しいままにしていることはよく知られていますが・・・

マーケットプレイスは豊富な「品揃え」を実現するだけでなく、「購買行動データ」と共に、「代金回収代行」によるキャッシュフロー創出の側面があることに「してやられた」感を受けました。

また、エンドユーザーとつながっている、オンからオフへ広がり続ける小売業であり、IT企業だからこそ、

未完成なまま顧客視点のサービスを次々にリリースし、
実際の顧客行動から得られた気づきにあわせて、システム修正を加えてゆくアジャイルさに、これはもう太刀打ちできないな、と思いました。

従来の小売業の多くはITがわからない、IT 人材がいないため、ITベンダーに発注するものですが・・・

発注した小売業はお金を払っているからと、ITベンダーに完璧なシステムを求め、

現場に明るくないIT企業側もクライアントに完璧な(?)システムの納品を目指す。

小売業とIT企業がそんな関係を続けている以上は、トラブルが続くだけで、
何年、いや何十年たってもAmazonには追いつかないだろうなと感じたものでした。

そして、実は、読後に一番印象に残ったのが、

ウォルマートとアマゾンの影で 規模を拡大し続ける
ドアダッシュ、インスタカートなどの「オンデマンド型短時間宅配サービス」の話でした。

日本では出前館やウーバーイーツを想像していただくとよいでしょう。

これは、BtoCのデリバリーサービスの顔をしていますが、
その本質は既述のマーケットプレイスに近い、代金の回収代行によるキャッシュフロー創出ビジネスであると。

これまで営業利益が多い会社、無借金経営が美徳とされた小売業界。

購買行動が大きく変わり、小売業とエンドユーザーとの間に登場する新しい切り口の企業たち。

これから伸びたり、登場したりする、そんな企業の動向からも目が離せないと思います。

アメリカでは、失敗もそれだけ多いけれども・・・

頭のいい人たちが考える新しい切り口のビジネスが登場する宝庫であることを

あらためて思い知らされたものでした。

Amazonでのご購入はこちらから アマゾンvsウォルマート

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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March 22, 2022

ZARA(ザラ)のインディテックスの2022年1月期(FY2021)決算。最高益間近の回復力の源泉はオムニチャネル施策と・・・

Zara-london_20220322193601先週、ZARAを展開するインディテックスグループの2022年1月期決算発表がありましたので目を通しました。

売上高 3兆5835億円 前年比135.8%、前々年比98%
粗利率  57.1% (+1.7%)
営業利益 5,536億円 前年比284.1%、前々年比89.7%
営業利益率 15.4%(+8%)

ユーロ=129.3円換算

世界がパンデミックに見舞われている状況の中
世界アパレル専門チェーンの中で売上・利益とも世界一の座を引き続きキープしました。

四半期ごとに見ると 
1Q (2月~4月) はパンデミックで苦戦しましたが、
2Q(5月~7月)と3Q(8月~10月)の2四半期は過去最高売上と最高利益を更新
4Q(11月~1月)はオミクロン株による主要国のロックダウンがあり苦戦

4Q の失速で通期では過去最高業績だった2019年には届かず。

売上高と営業利益は届きませんが、

粗利額だけ見ると過去最高額を更新したことに目が止りました。

粗利額は過去最高なのに、なぜ、営業利益が届かなかったかの要因として

4Qのオミクロン株による店舗閉鎖の影響により、

急遽 在庫消化のためにかけた販売管理費が大きかったため、

結果、2019年に勝る営業利益が残せなかったことを挙げています。

決算明けの2月以降は過去最高水準を更新しているとのことです。

決算を見る限り、すでにコロナ前の水準を上回る販売パワーを回復したのは間違いなさそうで、

それに大きく貢献したのが、全世界の全店舗で店舗とオンラインの完全統合、

つまりオムニチャネルプラットフォームの構築の完了です。(これは当初計画より1年早い完了です)

要は、店舗売上は2019年比で8掛けまで落ちたままですが、

ECが売上比25.5%まで伸び(前年比で114% 2019年比では2倍)、

店舗単体の売上減少分をECでしっかりカバーしている状態です。

もっとも、もう、店舗売上がどうだ、EC売上がどうだ、と言っている時代ではありませんね。

お客様の需要にあわせて、在庫がある商品をどこからでも提供すればいい話であって、

同社ではそれを可能とするプラットフォームが完了したという話です。

今回のレポートを読んでいて、一番印象に残ったのは・・・

アメリカ合衆国(USA)の売上の伸びが大きく、同社が展開する世界98カ国の中で、

USAの売上がスペイン国内に続く、第二の売上を稼ぐようになったという一文でした。

USAの具体的な金額は公表されていません。

インディテックスのスペイン国内の売上比率は14.4% (8業態で1267店舗)あり、圧倒的だと思いますが、

アメリカ合衆国にはZARAが99店舗あるのみ。100店舗以上展開する国はほかに10カ国はあります。 

H&Mにしても、アメリカの業績は絶好調と言いますが、EC売上比率が高いにしても

いったい、アメリカのZARAの店はどれだけ売るんだい!と思ったものでした。

ちなみに、セグメント別情報を見ると 

ZARA(ザラ)業態は売上高、最終利益共に、過去最高を更新した模様です。

やはり、世界中のアパレルチェーンにとって、

インディテックスはこの業界最高のベンチマーク先のひとつだな、と感じたものでした。

最後までお読み頂きありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】店舗とオンラインの完全統合を果たしたZARA。ZARAはどうして、いち早く市場に対応できるようになったのか?その背中を見ていれば、まだまだ、追随するファッション企業がやるべきことはたくさんありそうです。

 「ユニクロ対ZARA」 2018年アップデート文庫本

 

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March 14, 2022

LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの事業ポートフォリオの強み

Lvmh3月14日(月)発売のWWDJAPANに月イチ連載させて頂いている「ファッション業界のミカタ(ファッション流通業界の決算書の読み方)」連載35回目では

「LVMHの財務諸表に見るポートフォリオ経営」というタイトルでラグジュアリーブランドのコングロマリット、ルイヴィトン、ディオール、ティファニー、モエ・エ・シャンドン、ヘネシーなどを展開するLVMHの2021年12月決算を取り上げ、
年商8兆円を超えるLVMH社のビジネスモデルをいくつかのグラフで可視化してみました。

まず、2021年の業績は、地域別に見るとアメリカと中国の大幅回復、ファッション&レザーグッズとウォッチ&ジュエリーの伸びで過去最高の業績を更新した同社。

単にティファニーを買収したからだけではなく、
売上構成比の約半分を占め、利益構成比の8割を占めるファッション&レザーグッズが絶好調で、2016年からの年平均成長率だけを見ても2020年度を除き毎年コンスタントに20%ずつ成長し、この規模においても、グループ全体では2桁増を続けているのが強さの源泉です。

グラフ化して面白かったのは

〇 売上が大きく利益率が高いファッション&レザーを核に、

〇 商品回転は悪いですが、利益率の高いワイン&スピリッツ、

〇 利益率は低いが単価の高く金額を稼ぐウォッチ&ジュエリー、

〇 利益率は低いが在庫が回転してキャッシュを稼ぐパフューム&コスメティック、

〇 その他にSEFORAセフォラやDFS(免税店)のようなリテール事業を運営していますが、

ぞれぞれが役割分担をするように、補完し合う、事業の組み合わせとバランスがとても面白いと思いました。

そして、ブランドビジネスというより、富裕層をターゲットとした投資会社としての側面を垣間見ることができました。

複数事業を運営する企業にとっては、この事業ポートフォリオのバランスのとり方も重要な経営センスのひとつだと確信します。

ご興味を持って頂きましたら、本日発売のWWDJAPAN3月14日号をお読みください。 

ウェブ版は来週以降に公開になると思います。

とても面白く、グローバルビジネスを考える上で参考になる事業モデルのひとつですので、

今後、同グループをビジネス&財務の側面から定点観測をして行きたいと思います。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

【おススメ本】これから10年先のファッション消費の未来、そしてアパレル企業生き残りのカギになることは何?国内外で進む、顧客の購買行動の変化に合わせたオン・オフ問わないオンラインの活用、そして顧客のクローゼットを起点としたサステナブルな取り組みとは?いずれにせよ、カギとなるのはお客様のストレスの解消しようとする情熱とそれを実現するイノベーションです。

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March 07, 2022

目的なきデータ収集には意味はない~データドリブンなチームになるために必要なこと

Photo_20220307112901先週、東京ビッグサイトで開催された小売業向けデジタル機器やソリューションを紹介する「リテールテック」というイベントを覗いて来ました。

最近話題のメタバースなどの未来のテーマは前面には出ていませんが(笑)
今、そして3年後くらいを視野に入れた小売業の足元の業務課題解決がメインテーマの比較的現実的なイベントです。

いろいろなテーマがある中で、

何年も前からメディア露出はありましたが、

店舗における人流や顧客行動や店舗オペレーションをセンサーやカメラで観察し、AIを駆使してデータで明らかにして、マーケティング的に活用できないか、また業務効率化が図れないかというソリューションがあり、

当イベントにもそのテーマのサービスを紹介する会社が何社か出展されておりました。

そんなサービスが登場する背景としては、

Eコマースの拡大と共に、ウェブマーケティングはデータに基づく、いわゆるデータドリブンな仮説検証が進んでいるのに対し、
店舗現場ではPOSの販売データや入出庫や在庫データくらいしかデータがなく、
業務改善が進んでいない、

画像をベースにしたデータ化の進化も進み、

そんな現代テクノロジーを駆使してデータを取得して提供しようというものです。

話を伺うと

リアルタイムに取得できる通行客、客層、入店客数、顧客動線、複数のデータを組み合わせれば、人やモノの動きに関するデータは何でも取れるといいますが

どんなデータを取ることが小売業にとって有益なのか?

データを取得して提供する方々は正直オペレーションに明るいわけではないので、

効果的な活用が実感を持ってわかっているようではありません。

一方、そんな提案を受ける企業の本部側の方々も、データを取ろうと思えば、何でも取れることに可能性は感じるものの、

興味はあっても、費用がかかることなので、活かし切れるかがわからず、具体的な依頼が出来ないでいる、というすれ違いを感じました。

このデータ取得と活用の壁をどう埋めるかが、
データ経営へのブレークスルーなんでしょうね。

ECやデジタルマーケティングをしている人から見ると、
アナログ、情熱、勘や根性で、俗人的にやっているように見える店舗販売でも、

実は、古くから、それらが形式値、つまり数値化されたり、共有されていないだけで、
自分たちが出来る範囲で、完ぺきではなくても、仮説検証している人たちもたくさんいらっしゃいます。

データを取らずとも、

前向きに顧客を見ている人にとっては、

顧客の反応は肌で感じていますし、

店内の顧客動線つまり、どこから入って、どこを通って、どこ立ち止まるか、

それによって売りたい商品を何処に置けば、結果が出るか、売上が最大化するのかを想像して、
それを実行しているものですし

そんな例を挙げれば、事例は次から次へとたくさん出て来ます。

むしろ、数字そのものよりも温かみのある、説得力のある経験値かも知れません。

データは取って貯めることが目的ではなく
何を成し遂げたいからから取得するのか?

その目的がなければ、データを細かく取っても、コストがかかるだけで

意味がないことは言うまでもありません。

そして

暗黙値だったものの裏付けを数値で取って確信したり、

上手くやっている人が出来て成果を上げていることを、
多くの仲間がそれを真似し、再現性のあるものにしたり、

更にそれに改善を加えるために使うもの

だと確信します。

これは「出来ている」と思っているECやウェブマーケティング側についても
当初は同じことだったはずです。

事業会社時代に

「マネジメント」の意味は

やりかたを変え、結果(数字)を変化させ、成果を出す(目標達成する)こと

と教えられたものでした。

これは仮説さえしっかり立てていれば、既存のシステムから出力できるデータでも検証可能なものでした。

データ活用にあたって、なぜそのデータを取るのか?

取得の目的と現場の行動成果を繋げる「目的の言語化」が求められています。

そして、目的を達するために、可視化するものは何か?
その答えは現場にあるはずです。

データは貯めこむものではなく、目的に応じて取得して使うもの。

データドリブン時代においても、

どんな仮説を立てて、どんなデータを取って、その数字を目標達成のために
変化させるのか、それを発掘することこそが
オン・オフ問わず「マネジメント力」の入口かも知れません。

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最後までお読み頂き、ありがとうございます。

 執筆: ディマンドワークス代表 齊藤孝浩

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